お前も信号を守るのか!
1999年 親元に引っ越した頃のお話
引越しをした時の事だ。
そこは東京都郊外。一応東京都内であり都心からも近いが、少し歩くと緑地があり昔ながらの風景が広がる、そんな街だった。
各県に住む人々に県民性があるように、それぞれの街にはそれぞれの特徴があるものだ。その街も例外に漏れず、私は引越してすぐに2つの特徴を見つける事になった。
ひとつは、この街の人々がやたらと自転車のベルを鳴らすと言う事だ。
道をたらたら歩いていると、後ろからジリジリジリジリ音がする。果たして自転車を購入した人の内、一体いかほどの人があのベルを鳴らしたことがあるのだろうか。少なくとも私の幼少時代には頻繁に自転車のベルを鳴らすような事はなかったし、鳴らされた記憶も少ない。
もちろん、購入した自転車にベルが付いていなければ、購入してこれを付け、付いてる以上一度は鳴らすものだ。しかしだからといって実際に必要に迫られて鳴らす事は稀だ。だってうるさい。街行く人々が皆振り返ってしまう。ベルを鳴らすということは「邪魔だどけ」といっているのと同じ事なのだ。遠慮がちな日本人である私にはアレを平気で鳴らす事はできない。できるようであれば「よっぽど神経が太くなっているな」と言うほかないではないか。
もう一つ気が付いた事は、人々がどういうわけか律儀にも「きちんと信号を守っている」と言う事だ。
「信号を守る」
そんな事当たり前じゃないか!と思うかもしれないが、たった2メートルほどの道で、明らかに車が来ないと分かっていたならばどうだろう。おそらく殆どの人は信号など無視して渡るのではないか。ところがこの街の人々は違った。キッチリ守るのだ。
最初は赤信号の前で立ち止まっている人々を見て、何をしているのか理解できなかった。団体旅行者がバスでも待っているのか。それともどこかで面白いパフォーマンスでも行っているのか。ひょっとしたら警官が隠れてアミを張っているのではないか。だが、やがて気が付くのだ。
ただ、青信号を待っている。
一体そんな事が許されて良いのだろうか?何をやっているのだ君達は!そんな所で団体で信号待ちされちゃあ「車が来ない時は当然信号無視する」という健全な考えを持った人々まで渡れなくなるじゃあないか!どれだけまじめなんだ!
だがちょっと待て。全員が信号待ちをするなんて事が果たしてあるのだろうか。もしかするとこれは特定の人にのみ見られる現象ではないのか?きっとPTAかなんかの人達だ。でなければ全員警察のOBだ。街の人間みんながみんな信号を守るなんて有り得ないぜハッハッハ。
とは言ってもそんな中一人で信号無視するのは、やはり勇気がいる。
しばらく待っていると 向こうからガングロメッシュの女子高生がやって来た。一時代前に流行した顔を黒く塗り、目の周りを白く塗った女子高生だ。
うおっッ!テレビでは見た事あるが、実物は初めて見た。こんな所に生息していたのか!彼女は携帯電話でしゃべくりながらこちらへ向かって来るではないか。
どこの世界にもアウトローは存在する。
やった!来る来る!奴が来るッ!!奴が信号無視せずに、誰が信号無視すると言うのだ!イケイケ女子高生!君の後ろには俺様がついてるぞっ!
密かに期待しながら待っていると奴は信号の前までやって来て、、、そして立ち止まった。
アホかぁー!何の為のガングロじゃあ!世の中の体制に逆らえボケがあッ!!
と、言ってみても始まらない。
こうして図らずも意外にまじめな街の人々の実体が判明し、その後子供に「あの人赤信号渡ってるよ~」と後ろ指差されつつ、ひとり信号無視する日々が続くのだった。
2021.04.07 タイトル変更 旧「アウトローがやってくる!」→新「お前も信号を守るのか!」