ボタンがたくさん
※このお話はフィクションです
2017年 テレビ番組を録画した時のお話
世の中が進化してくると、道具が多機能化するのは仕方がないことではないか。
テレビのリモコンも、以前は電源と音声、チャンネルしかなかったのに、今やチャンネルだけでも地上デジタル・BS・CSの切り替えがあり、インターネット番組があり、録画機能までついている。
リモコンについているたくさんのボタンを見て、途方に暮れるのは私だけだろうか。
マニュアルを読めよ、と言われればその通りだが、多機能機器のマニュアルはぶ厚く、わざわざそんなものをいったいだれが読むというのか。こうして人は無防備のまま、多機能マシーンと相対することになるのだった。
それは妻からの唐突な依頼だった。
「その番組、録画しといてくれる?」
いや、自分でやれよ。テレビを見ない私にとって、それがいかに大変な作業であるか知っているのだろうか。とりあえずテレビのリモコンを探して電源を入れる。さすが私だ、初見で電源ボタンを見つけてしまうとは。というかボタンに「電源」と書いてあった。このマニュアル要らずの親切設計、これならなんとなく録画予約もできてしまうのではないか?
リモコンを見ると「予約/番組表」なるボタンがあるではないか。ククク、たわいない、それで隠れているつもりか。押してみるとテレビ番組表が表示される。ほらきた!カーソルキーで移動し「予約/番組表」ボタンを押せば良いのだな?しかし目的の場所でボタンを押すとテレビは初期画面に戻ってしまったのだった。
あれ?戻った?録画予約、できてるんだよな?
確認のためテレビ番組表に戻ってみると、そこには何の変化もなかったのだった。おかしい、確かに予約ボタンを押したのだが。もう一度試してみるがやはり初期画面に戻ってしまう。まさかこの私がテレビの予約録画もできないだと?そんなことはあってはならないことだ。これは何か致命的な見落としがあるのではないか。
もう1度試して気付いたが、この「予約/番組表」ボタンは2回押すと元に戻ってしまう仕様なのではないか?そうだそうに違いない。おそらく他のボタンも同様なのだろう。ではリモコンの下の方に存在する「戻る」のボタンはいったい何なんだ。試しに「予約/番組表」を押した後に「戻る」のボタンを押してみる。
初期画面に戻った。
私はしばし呆然とするしかなかったが「戻る」ボタンを押して戻るのはなるほど、正常なことではないかと気が付くまでにしばらく時間がかかってしまった。こうなるともはやどのボタンを押しても初期画面に戻るのではないかという恐怖にとらわれるが、そんなことでは先へは進めない。もしや「録画」と表示されたボタンがどこかにあるのではないかと一縷の望みを抱き、リモコンを探してみるがそれらしき文字はない(後でテレビ画面の隅に表示されていることが分かるのだが、私の素人力を舐めるなよ!)のだった。ではどうやって録画すればよいというのか。謎は深まるばかりだ。仕方がない、妻に聞いてみよう。
「録画ボタンってどれ?」
「黄色いボタンだよ~」
驚くほど明確な答えが返ってきた。リモコン中央には左から「青」「赤」「緑」「黄」の4色のボタンが並んでいる。なるほどこれでは間違えようがない。しかし黄色のボタンに「録画」の文字はなく、そこには次のような文字が書いてあるのみだった。
「黄」
いやいやいや、見れば分かるから。たとえば「カツラじゃないッ!」と言う男の頭を疑念を持って見てしまうように、わざわざ「黄」と書かれれば、実は黄色ではないのではないかと疑ってしまうではないか。そしてなぜ「録画」と書かないのだ。何かの暗号か。青信号にわざわざ「進め」と書いていないように、何も書いてなくても黄ボタンは録画ボタンなのか。ツーと言えばカー、風が吹けば桶屋が儲かる、むと言えば霧たちのぼる秋の夕ぐれ、黄と言えば録画なのか。
謎だ。
言われた通り「黄」ボタンを押すと、番組表に「予」の文字が表示され、予約の完了が知らされたのだった。しかしいつから「黄」が「録画」という意味になったのだ。これは国語辞典を調べなおす必要があるな。そしてその横にある青、赤、緑、はいったい何の暗号なんだ。
ミッションコンプリートした後、私は新たな謎に挑むことになるのだった。
というお話を書いたのです。
で、ちょっと確認、とテレビリモコンで操作してみたんです。
そしたらなんと「予約/番組表」で予約できるじゃあないですか!あれ?アレ?どうなってるの?と妻に聞いても「そんなことあったかなあ、、、」との回答。
あちゃー、創作しちゃったか。
ということでボツにしていたものですが、完結もしたことだし番外編ということで投稿しました。
記憶なんてこんなもんですね。このエッセイも、エッセイと言いながら実はフィクションかもしれません。
次回!なんも考えてません!いつになるだろう。




