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蚊!

2012年 自動車通勤している時のお話

 それはいつから居たのだろう。車の中に1匹の蚊が住み着いたのだった。


 車を運転していると、目の前をプンと蚊が飛んでいく。畜生め、私がハンドルから手を離せないのを良いことに、我が物顔で振舞っているな。これでは気が散って危険な事この上ないではないか。


 信号待ちの間に退治しようと奴の姿を探すが、そういう時に限って見当たらない。どうやら足元をテリトリーにしているらしく、車に乗る度、足首を5箇所程度食われている。


 どうやらメスらしい。


 メスか、、、いや、ちょっと考えてしまったが、好かれても全く嬉しくなかった。むしろ有害だ。


 窓を開けるが出て行く様子はない。乗車時にドアをパタパタ扇いでみるが効果なし。殺虫剤を買うほどの事はないと舐めていたが、気が付けばずるずると1週間が経過していた。


 この不良娘め、、、。しかし考えてみれば毎日餌が向こうからやって来るのだ、そんな極楽空間をむざむざ自分から手放すものか。デメリットがあるとすれば繁殖活動が出来ない事くらいだ。引きこもりめ、結婚してさっさと出て行かんか!


 思えば奴はもう1週間も、私の血液のみをエネルギーとして活動している。とすれば、100%私の血で動いているこの生物は、私の体を構成する細胞や体内細菌と一体何が違うというのだろうか。いやむしろこれはもはや「私」と言っても良いのではないか。そうか、いつの間にか私は奴を支配していたのだ!やるではないか。


 ここに蚊使いが誕生した。


おお!この手の職業はファンタジーの世界にしかないと思っていたが、蚊使いは身近なところに存在した!あとは「私」であるはずの使い蚊を自由に動かす訓練をするだけだ!


 しかし所詮は蚊。出来る事といえば「血を吸う」事のみである。この画期的な技術を一体何に活用すれば良いのだろうか。


 まず考えられるのは「献血」だろう。


 人の命を救う蚊使い。崇高なる目的。これだ!現代を生きる蚊使いにとって、これは天命ではないのか。


 献血のためには大量の使い蚊が必要だ。1匹あたり1mℓの血を吸うとして、血液パックの血を集めるのに400匹の蚊が必要だ。しかし400匹の蚊を使い蚊として維持するためには、毎日400匹の蚊に餌をやる、つまり刺され続ける必要がある。


 自分の血を献血したほうが早えぇ、、、。


 それでなくとも400匹の蚊に刺されるビジュアルは精神的にくるものがある。いやいや、蚊使いはそんな事でめげてはいけない。物語で使役される使い魔だってせいぜい2~3匹ではないか。少数だ、少数精鋭でいこう!しかし少数の蚊で一体何が出来るというのだろう。


 蚊の持つ「二酸化炭素を感知する」能力を使えないだろうか。


 災害時、瓦礫の下に閉じ込められた人々を捜索するのだ。これだ!人命救助!社会貢献!ノーベル平和賞も夢ではない。しかしそのたぐいまれな探索能力はやがて軍事転用され、戦地での索敵に利用されるであろう。さらに軍は蚊を媒介としたウイルス感染に注目する。家族を人質に取られ、要人暗殺や民族浄化を強要される蚊使い。バイオテロだ。生物兵器だ。ノーベル平和賞はどこへ行った。


 かくして蚊使いはその能力を秘めたまま隠遁生活を送る事になるのだった。


 たまに嫌な奴に出くわすと、指の先とか、手の届かない所を刺して嫌がらせをしよう。夜、枕元で羽ばたかせるのも効果的だ。または気になる女性の「イヤンな所」を刺して、痒さに身悶える姿を楽しもう。変態だ。当初の崇高な目的とはかけ離れた蚊使いの生態がそこにはあった。


 みみっちい、いや、みみっちい。


 しかも誰かの血を吸って、それが使い蚊の血肉になった瞬間、その蚊は100%の私ではなくなり「使い蚊」の契約が切れてしまうのだ。


 こうして世の中に蚊使いが出現しない理由が判明したのだった。


挿絵(By みてみん)


2021.02.20 前書き修正 文字修正

2021.04.27 文字修正 タイトル変更 旧「蚊使いの使い蚊」→新「蚊!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 週末に車の中で蚊に刺されまくった私としてはとても興味深いお話でした。 あの不良娘め……! 指の先は刺されたことがありませんが、きっとものすごく痒いのでしょうね((((;゜Д゜)))))))…
2021/10/12 11:51 退会済み
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