痛かったら言ってください
2018年 歯医者に行った時のお話
治療台に乗ると歯医者が言ってきたのだった。
「痛かったら手を上げてくださいね」
なるほど、これから行う治療は痛いのか。そして口内の処置なのだ、言葉を出せないのならば手を上げるしかないではないか。いや、言葉にできなくとも痛かったら身をよじり「あ゛っ」とか「え゛っ」とか声を上げてしまうだろうに、まさかそれでは気付かないとでもいうのか。
歯医者の鈍感さに不安が募る。果たしてそんな状況で、手を上げたら気付いてもらえるのだろうか。
思い出すのは床屋でシャンプーしてもらうときのことだ。床屋は言うのだった。
「かゆいところはありませんか?」
実際にかゆかったことなどないのだが、そう言われれば言ってみたくなるものだ。
「後頭部の右側、もうちょっと下、そう、そこそこ」
かゆくもないのに何をやっているのだかわからないが、言えば床屋はマッサージしてくれるのだった。髪を切ることとかゆいところの解消に何の関連があるかは分からないが、床屋も商売、隣がそんなサービスを始めたならばやらざるを得ないのではないか。
床屋は「かゆい」と言われたら掻けば良い、だが医者が「痛い」と言われたら一体どうするのだろうか。
それは突然やってきた。歯医者が唾液を吸い取る器具を「グイイッ」とのどに突っ込んできたのだった。
「おげえっ!」
突然のことに私は体を曲げてえずいてしまったのだった。歯医者は手を止め、私にうがいをするように勧めると言ったのだった。
「我慢しないで気持ち悪かったら言ってくださいね」
いや、そうじゃない。何を私が我慢していたみたいに言っているのだ。突然のどに異物を突っ込まれたら誰だってえずいてしまうのではないか。あれ?私が悪いのか?ちくしょう、言ってやるぞ、痛くなくても痛いって言ってやるからな!
ところがその機会はすぐにやってきた。痛い痛い!なんか痛い!すぐに手を上げる。仕切り直しだ、一旦中止だ。痛いって!
「ああ、痛いですか~我慢してくださいね~」
まさかの回答!?ちょっと待て、我慢するの!?痛かったら手を上げてって言ったよね、それで終わりなの?何も対処しないの!?
果たしてこれは、この歯医者だけの問題なのだろうか。他の医者はちゃんと対処するのだろうか。
以前アテローム(粉瘤)の除去手術をしたことがある。
局部麻酔のあと、手術は始まったのだった。医者は言った「痛かったら言ってくださいね」と。麻酔のおかげで痛みはないが、皮膚を引っ張られる感覚、皮膚が切られる感覚はハッキリと分かるのだった。痛くはないがものすごく引っ張られている、ジョリジョリ切られている。なんだか痛いような気がするが、男たるものそんなことで声を上げてはいけない。我慢だ我慢。そうして切除が終わり縫合が始まると、一針一針に次第に痛みが走るようになったのだった。
「あの、痛くなってきたんですけど」
私が訴えると、医者はさも当たり前のように言ったのだった。
「ああ、麻酔が切れてきたんだね~もう少しだからね~我慢してね~」
やっぱり我慢するの!?
どういうことだろうか、どうせ我慢させるなら最初から言ってくれ!というか、あとどれくらい我慢すれば終わるというのか。医者の一針一針に身をよじりながら耐えるしかないのだった。
医者の言う「痛かったら言ってください」を信用してはいけない。
みなさまお久しぶりです。本日より投稿再開します。
久しぶりのエッセイ、いかがでしたでしょうか。
さて、次回は夜の訪問者「ユッキー」です。
お楽しみに!




