NHKと妻
2016年 結婚した頃のお話
入籍して引っ越すと、2日目にその人はやってきた。
「NHKの契約はお済みですか?」
一体どこから情報が漏れた。市役所か?電力会社か?引越し業者か?どこと業務提携しているのだ。日本社会の巨大な闇か。
思えば独身時代はTVを持っておらず、長い間NHK受信料は払っていなかった。デジタル化を機にTVを捨てたのだ。とはいえ敵はNHKという国家権力、簡単に受信料を諦めてはくれなかった。TVが無いと言っても疑いのまなざしを向けてくる。
「本当に持っていないんですか?」
失礼な奴だ、テレビを持っていない者は非国民だとでもいうのか。部屋の中に入ってその目で確認しろと言うと、しぶしぶ納得するかに見せかけて次の手を打ってくる。
「携帯電話持ってますよね、ワンセグ映りますよね?」
スマホ登場前、携帯電話にはもれなくTVチューナーが付いており、TV受信できない機器を選択できる自由はなかった。電波が悪いのでワンセグは映らないと言ってみるが、法律上「受信装置」を持っているだけで支払い義務は発生する。
「じゃあ、チューナー壊してくれよ!」
携帯を差し出すが受け取らないばかりか、携帯だけではなく車のカーナビやパソコンに受信機能が付いていれば、それも受信料支払いの対象になると訴えてくる。3台持っていても1台分払えば良いのだと「お得感」をかもし出してくるが、そんな事で騙されるものか。必要のない受信機能を有無を言わせず取り付け、料金を回収しに来る。どこのヤクザだ。
挙句の果てに奴はこう言った。
「分かりました、では受信料を月額200円引きにしますのでどうでしょう?」
え?値引き交渉アリなの!?
そんなことが世間に知れたら、まじめに定額払っている視聴者が暴動を起こすのではないか。NHKの集金人にそこまでの権限があるのかが謎だ。それとも不足分は自腹で払うのか。
押し問答すること30分、ついに奴は集金を諦めしぶしぶ帰っていったが、しばらくするとまたやってきては同じ攻防を繰り返していた。
ところが結婚すると妻がTVを持ち込んできたのだ。しかもNHKの連ドラを見ているではないか。ちくしょう、なんだか負けた気がするが見ているものはしょうがない。潔く支払おう。支払い用紙をもらおうとすると、上客と見たのか集金人は恐ろしい事を言ってきた。
「料金は2ヶ月分で、地上波が2690円、衛星放送が4180円になりますね」
衛星放送!?
ブラウン管TVで時が止まっていた私には全くない発想だった。しかも高い。受信料を払うのは仕方がないとしても謂れのない料金などビタ一文払うものか。
「衛星放送なんて見ないっすよ、ウチのTVじゃ映らないんじゃあないのかなぁ?」
既に支払う気ゼロの私が戦いのゴングを鳴らすと、すかさず妻が後ろから言ってきた。
「見るよ~」
「・・・」
瞬殺だった。
こうして今も我が家の財布からNHK料金は徴収され続けている。
2021.04.01 タイトル変更 旧「NHK」→新「NHKと妻」