ロマンがあふれています
1996年 クラシック音楽を聴いていた頃のお話
クラシック音楽にハマった。
UKロック→ヘビーメタル→プログレッシブロック→クラシックという流れをたどったのだった。
時を同じくしてクラシックにハマった友人と共に、毎週日曜日になると、都会の中古クラシックCD専門店で、専門の解説書を参考に絶版CDを漁る。中古CDとの出会いは一期一会なのだ、毎週通わねばならぬ。
「今日は何を探すの?」
「フルヴェンのブラゼン」
知らない人には暗号にしか聞こえないのではないか。訳すと「フルトヴェングラー(指揮者名)のブラームス(作曲者名)交響曲全集」だ。
考えてみれば解説書の説明も凄い。
「ロマンあふれる名演である!」
ロマンなのか。果たしてそれは音楽の解説として妥当な言葉なのか。一体どういう演奏なのか全く想像できないが、聴いてみればやはり「ロマン」としか表現できない何かがあるのだった。クラシックの世界には思った以上にロマンがあふれていた。
中古CDを漁った後は新品CDを探しに別の店に入る。
そこは地上5階建てのビル。1階は交響曲、2階は協奏曲、3階はオペラとすべてのフロアがクラシックCDであふれた極楽空間だった。客は少なく私たちはそれぞれ分かれてCDを探すのだった。
ある程度CDを見た後、友人を探すと、冴えない風貌の40代くらいの男が私の方を見ていたのだ。なんだろう、さっき、明らかにこっちを意識していたが。
2階に上がって友人を見つけ、話をしていると、冴えない男が2階に上がってきた。やはりこちらをチラチラ見ているようだ。何だろう、客、ではないような。友人と話して3階に上がると冴えない男も付いてきた。
これは、、、まさか、、、万引きGメンか?
万引き被害の多い店では商品を守るために「万引きGメン」を雇い、怪しい行動をする者をこっそり監視して現行犯で捕まえているらしい。TVで見たことがある。なるほど、この店は万引きが多いのか、そしてこの私が万引き犯に見えるというのか。
このやろう、私を何だと思っていやがる。いったい私は周りからどんな風に見られているのだ。客が他にいるにもかかわらず何故私に目をつけるのか。
そりゃああるよ?仕事の帰り道、人気のない夜の公園で、前を歩いていた女性が振り返って私の顔を見たとたん、走って逃げていったこととか!追いかけてやろうかと思ったこととか!!自転車に乗っているだけで警察官に止められ、この自転車どうしたんだ、とか、誰のだ、と聞かれたこととか!買ったんだよ!俺のだよ!それ以外に何があるというんだ!そこの警官!そんな期待した目で見つめるんじゃあない!ノリ突っ込みなんてしないぞ!絶対にしないからな!!
、、、ちくしょう、泣いてなんかない。ちょっと思い出して目頭が熱くなっただけだ。
毎週この店でCDを買っている常連の私に対するこの仕打ち、失敬な!
私たちはこれ見よがしにレジで清算して早々に退散したのだった。しかし翌週も、翌々週も、私が店に入ると冴えない男が張り付いてくるようになったのだった。もはや隠れてないし。くそう、これがロマンの代償か。しかしこれだけは言わせてほしい。
いったい俺が何したって言うんだよぉ!
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