俺の塩
2016年 風邪をひいた時のお話
風邪をひいた。
風邪なんかもう10年以上もひいたことはなく「大人になると免疫ができて、風邪などそうそうかかるものではないのだなあ」などと呑気に構えていたのだが、そんな私にもいつの間にか病魔は忍び寄ってきていたらしい。
経験上、風邪の症状には2種類ある。
熱と寒気が止まらず、体がだるく関節が傷むといった、もうずっと蒲団にくるまって寝ていたい、と思わせるもの。
もうひとつは、熱があるものの体調は悪くないか、むしろ調子よく、この場合体が熱いので何となく体温を測ってみると実は風邪だった、というもの。
今回の風邪は明らかに後者であったため発見も遅れ、発見後もいつも通りの活動を続けていた。ところが、途中からせきと鼻水が止まらなくなり、明らかに先のパターンに変わってきたのだ。
特に鼻水が凄い。
人にうつさないようにずっとマスクを被っているのだが、マスクで他人に見えないからってここまで出て良いのかというほど出ている。
滝だ。
ここに新たな景勝地が誕生したようだ。
名付けよう「鼻の滝」
滝の流れはとめどないが、水量の少ない端のほうは乾いて白くなっている。なめてみればしょっぱい。どうやら塩分が含まれているらしい。乾燥して真っ白になった場所に新たに滝が流れ落ち、それが乾燥して結晶がどんどん育っているではないか。まるで塩田のような光景がそこにはあった。これは新たな産業が興せるのではないだろうか。
塩といえば昔はお上が取り扱っていたほど重要な品だ、しかもこの塩にはミネラルもたっぷり含まれていそうだ。昨今の健康ブームに乗って売り出せば大もうけできるに違いない。
商品名は、そう「俺の塩」
新たなビジネスチャンスの到来だ。
生産量は少ないが焦ってはいけない。健康食品というものは手間暇をかけてブランドイメージを作っていかなければならないのだ。じっくりと果実が熟れるのを待つように、健康な肢体からにじみ出るエキスを抽出し商品化するのだ。
健康な肢体?
たしか風邪をひいていたのではなかったか。そんなものが果たして健康食品として受け入れられるだろうか。業績は悪化し思い切った方向転換を迫られるのではないか。
メーカーは起死回生の1手として、生産地を「風邪をひいた男性の鼻の滝」から「健康な女性の脇の滝」へと変えた商品を売り出すことだろう。
その名も「私のミネラル」
この時点で商品のコンセプトがなにやら怪しい方向へ向かい始めていたのだが、そんなことは織り込み済みだ。やがてインターネットで「私のミネラル」が「脇の滝ではなく、もっとイヤンな滝から絞り取られているのではないか」という噂が流れ始める。もちろんメーカーのステマだが、これが功を奏して男性ユーザーに爆発的に売れ始め、市場の活性化と共に満を持して新商品が投入されることになるのだった。
「私のエキス JK version」
なんと生産者の顔写真付きだ。キャッチコピーは「飲んで❤私のエキス❤」である。同じ商品なのに顔写真によって売れ行きが大きく変わり、特定の生産者の商品はインターネットオークションに出品され高値で転売されるようになるだろう。
新商品の購買層は99%が30~50代の男性だ。もちろん全員ロリコン確定だ。女性もいるが特殊な性癖の持ち主なのは間違いない。商品棚には「俺の塩」も「私のミネラル」も並んでいるのに、あえて「私のエキス JK version」を求める者の心理などお察しである。
だが「俺の塩」が売れなくなったかというとそうではない。特定の男どもに熱狂的に支持され、こちらも生産者の写真付きで細々と売られ続け、一方「私のエキス JK version」はといえば、購入者リストが性犯罪者予備軍として、警察庁で極秘に管理されることになるのだった。
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