カモン!スコッパー!
2021年 小説投稿サイトにエッセイを投稿した時のお話
小説投稿サイトに作品を投稿する事にしたのだった。
若い頃の野望に燃えた私なら「天下とったる!」くらいの勢いで投稿しただろうが、今は趣味の一環として妄想を垂れ流すのみである。とはいえ自分の名を冠する作品へのプライドはある。オチのない話など書いてたまるか。
隙間時間でも書けるような日々の生活を書こう。過去の記憶を辿っていくつかのネタを探し、納得できるクオリティになったものから順次投稿する。
ペースは1週間に1本。それが限界だ。ところが投稿サイトを覗いてみると、毎日投稿しているツワモノが多数存在するではないか。学生か?無職か?年金受給者か?はたまた日曜日に書きためるのか?それでは買い物にも行けないではないか、この引きこもりどもめ。新聞連載の小説は専業だからできるのだ、副業でこのハイペース、、、。こいつら一体何者だ。
なんとか1本書きあげて投稿マニュアルを読んでみると、そこには私を地獄へと突き落とす機能があった。
挿絵が入れられる!
やばい、描きたい。試しに描いてみるが文章よりも時間がかかる。結果2話目は遅れて、初投稿から10日後にようやく完成したのだった。この時点で最初の計画はすでに破綻し、余裕は全くない。しかもせっかく描いたあらすじ用の挿絵は貼り付けられず、闇に葬られたのだった。
投稿手順が見えてくると、次に気になるのは読者数である。
どんなに良いものでも宣伝しなければ売れはしない。良いものを作れば売れると信じて営業努力をせず、つぶれていった店やメーカーは枚挙にいとまがない。初動で重要なのは作品よりもむしろ宣伝だ。しかしどうやったら人目につくのだろうか。
その小説投稿サイトは実に良くできていた。人気ランキングがあり、キーワードでの検索機能があり、読者はそれらを頼りに気になる作品を探せるようになっている。しかし、初投稿の者がランキングに載るはずもなく、第一私が書いているのは不人気ジャンルのエッセイである。ではどうやって作品を認知してもらえば良いというのか。
まず行うべきは投稿サイトにある「新作」欄に長く載せる事だろう。新規投稿されると時間順に10作品がトップページにリスト掲載され、人目につきやすくなっているのだ。投稿数が少ない時間であればそれだけ長時間掲載されるだろう。どれどれ、試しに初投稿の日時を調べてみると、私が投稿した1分間に50以上の連載作品が投稿されていた、、、。
ぐぬぉ!これでは1秒たりともトップページに載らないのではないか。予想以上に無理ゲーだった。弱肉強食。南無阿弥陀仏。死期を悟って自ら墓場へ赴く象のように、私の作品は墓場へ直行していた。
「世は戦国乱世!綺羅星のごとく産まれ、そして消えていく作品たち。しかしその中からやがて世界を統一する英雄が出現するのだ!」ナレーションがうるさい。
次にできることは、同じくトップページの「レビュー欄」に載せることである。気に入った作品にレビューすると、それがトップページに掲載され人目につくのだ。では誰が私の作品のレビューを書いてくれるというのだろう。会社の同僚に頼むのか?家族に頼むのか?自分が変態であると告白しているような作品を知り合いに見せられるものか。
では誰かの小説にレビューし、あわよくば「お返しレビュー」を狙おうではないか!しかもレビューと称して自分の作品の宣伝をしよう!ついでにインターネットカフェから他人を装ってレビューしよう!
どうもいけない。考えれば考えるほど卑怯になっていくのはなぜだ。私の性格が卑怯なのではないと信じたい。
宣伝はひとまず置いておこう。ダークサイドに落ちてしまう。
投稿サイトには「アクセス解析」なる機能が付いており「何回ページにアクセスされたか」「何人がアクセスしたか」が分かるようになっている。墓場に直行した私の作品を読んだ者が居るのだろうか。おそるおそる画面を確認する。
、、、いた。
ごく少数だが確かに投稿日にアクセスされている。まてまて落ち着け、これは私ではないのか。自殺点か。学級委員の選挙で投票用紙に自分の名前を書いちゃったようなものか。と、思えばスマホで見ている者が居るではないか。
物好きめ、どうやってこの秘密の扉を開いたのだ。
初めて聞く言葉だったが、この投稿サイトには「スコッパー」と呼ばれる者達が存在するようだ。玉石混交の広大な小説砂漠からまだ見ぬ黄金を掘り返す者たちだ。トレジャーハンターか。無報酬の彼らに敬意を表したい。
そして言いたい。ここに金の鉱脈がありますよ、と。
2021.04.27 文章修正 タイトル変更 旧「砂漠の中の黄金」→新「カモン!スコッパー!」




