トイレのウンコが流れねぇ!
2003年 独身一人暮らしの頃のお話
ぬくぬくと栄養なんぞとって過ごしていると、突然困った状況に追い込まれる事がある。
うんこがでかい。
なんなんだ、とは言わないでいただきたい。人はうんこの問題から目をそむけがちだが、これはかなり重要な問題なのだ。
以前から、肉を食べた後のウンコの臭さには参っていた。草製のうんこに比べると、肉製のうんこは殺人的な臭いがする。だが、人はしばし肉の魅力の前に屈服し、翌朝この凶悪兵器と2人っきりで対峙するハメに陥るのだ。しかも密室で。この時になって人はようやく快楽の赴くまま肉を食べたことを後悔するがもう遅い。
しかし、今問題にしているのはそんな事ではない。
それは出したときから何か、ある種の予感めいたものが感じられた。
「なんか、あの、デカかったんですけど、大丈夫でしょうか」
思わず言葉が口に出る。
そしておそるおそる振り向いた時、人はようやく、便器の中にある何やらやみくもに大きな物体に気が付くのだった。
果てしなく大きい、、、限り無く大きい、、。「e」がさらに半周回っている。かなりの不安が募ってくる。
果たして流れるのだろうか。
試しに流してみる。びくともしないではないか。もう一度チャレンジだ。、、玉砕。砕け散る水しぶきが人生の儚さを物語る。まるで我が家のようにのさばっているうんこを見るにつけ、次第に腹が立ってくる。
「くっそー!貴様ごときになめられてたまるかよっ! 」
風呂場の水をバケツに汲み上げ、水圧をかけて一気に流し込む。
「はっはっは!俺様をなめてかかったのが運の尽きだ。闇の彼方へ吸い込まれるが、、、ばっ、ばかなーッ!かつてこの攻撃をくらって立ち上がった者はいない!貴様ーっ!お遊びはこれまでだっ!」
そして30分の激戦の末、奴はまだそこにいたのだった。奴め、居座る気だ。まるでタチの悪い地上げ屋だ。もうお手上げである。こんな時、人はうんこの前に全くの無力だ。トイレ用のポンプがあれば良いのだが、あいにくそんな物は無い。
では、トイレメーカーへ電話すれば良いのだろうか?水道局へ電話すれば良いのだろうか?彼等は間違いなく聞いてくるだろう。
「どうされました?」
だからって「うんこがでかくて流れないんです」などと言えるかばかもの。だが、隠したくとも現場を見られては、事は一目瞭然である。
かくしてこの日以来トイレにポンプが常備される事となったが、だからといって安心してはいけない。本当に危険なのは外出時である。
世の中にぬくぬくと育っている者は殊の外多い。例えば定年を迎え、気楽な年金生活をエンジョイする老人はどうだ。新婚ホヤホヤのカップルは?子供なんかみんなぬくぬくだ。
こうして考えてみると、思った以上に世の中には「ぬくぬくな人」が溢れている。数えてみるとそれは実に国民の80%もの数を占めるのだった。
ここに至って、日本国政府は急いで各公共便所の水圧強化、及び下水道接続配管の大口径化工事を行わなければならない。これは急務だ。
想像してみたまえ。
朝の通勤電車の中、突然もよおすものがある。朝は時間が無いのだ。家でのんびりうんこなんかしていられるか。慌てて駅の便所へ駆け込む。だがその便器にはすでに誰かの、硬くて臭くて大きなうんこが流れずにあるのだった。しばし呆然となるが考えてみれば当然だ。国民の80%はぬくぬく生活の享受者であり、もれなく硬くて臭くて大きなうんこをするのだ。流れないそれらと鉢合わせする確率は限り無く高い。隣の便器は塞がっている。やむを得まい。硬くて臭くて大きいうんこの上に、さらに硬くて臭くて大きいうんこが重なる。とうとう水が溢れ出す。
朝の駅ならまだ良い。人々は通勤に必死で、足元に多少の汚水が流れて来たところで誰も気が付かないのだから。だが、悪臭騒ぎに発展したらことだ。駅員や警官がとんでくるだろう。彼らは必死でゴミ箱を捜索するが原因はそんな所にはないのだった。
たとえ駅でそのような事件がおこらなくても安心してはいけない。なにしろ国民の80%は硬くて臭くて大きいうんこをするのだから。
それは学校かもしれない。それはデパートかもしれない。それはコンビニかもしれない。とにかく危険は身近な所に潜んでいる。
2021.01.30 タイトル変更 文字修正 イラスト追加
2021.04027 タイトル変更 旧「身近に潜む危険」→新「トイレのウンコが流れねぇ!」