殺し屋でも恋愛して良いですか?
・ぐだぐだなペース
・ありきたりな展開
・めっちゃ長い短編
これらの要素が含まれます。
大丈夫な人は、暇潰し感覚でご覧頂けると幸いです。
〈12月の初め〉
「ま、待ってくれ……! 金なら幾らでも出__」
【ザシュッ】
頬に赤い液体が飛び散り、先程まで騒がしかった部屋に静寂が訪れる。
……………………………。
「10、20、30……32か、これで全員だったよな?」
組と殺り合うって聞いた時は、流石に無傷では済まなそうと思ったんだが……意外と呆気ないもんだな。
ま、仕事は楽な方がいいか。
そう呟きながら事務所を後にする。
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「今回は大分無茶な任務だと思ったんだが……やはり君の腕はたいした物だよ。美郷ちゃん」
「ありがとうございます……ちゃん呼びは辞めてくださいと前から頼んでいるのですが」
「おっとこれは失敬…とは言え流石の君も疲れはしただろう? それに君はまだ高校生だしな……次の任務は軽めの奴にするようにしておくから、指令が来るまではゆっくり休むと良い」
「了解しました、ボス」
久し振りの休みだ。
だからと言って特に何かをする訳でも無いが…
職業がバレないようにしつつ普通に学校へ行き、普通に授業を受け、普通に帰宅する。
そう、私は普通の女子高生なのだ…職業が殺し屋という点を除けば……
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『ねぇ知ってる? 最近流行りの__』
『あぁそれそれ! 何か最近は__』
『まじ? 私は___』
「……………」
殺し屋と言うのは中々に厄介で、殺し屋の顔とは別に表向きで使う顔も必要なのだ。
そのためにもこうやって学校生活を強いられている訳だが……はっきり言って苦痛だ。
第一に誰にも話せない秘密がある以上、このような場所で大勢の他者と共に時間を過ごすのは大変危険なのだ。
ただ上の者から『表向きの顔にはしっかりとなりきれ。作業員なら作業員らしく、女子高生なら女子高生らしく__』と言われているので、仕方なく今日も退屈な授業を受ける。
【キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン】
やっと終わりか……退屈な事ほど長く感じると言うが、まさにその通りだ。
まぁ今日は緊急の指令も無いようだし、さっさと帰るか。
…………左後ろから接近、男子一人か。
歩き方からして出席番号21の竹内海斗だろう。
あと2.5m……2m………
「あ、あの…植原さん……」
「………何だ」
「えっと…放課後、ちょっと空いてるかな……?」
「それがどうした」
「い、今から少し屋上に来て欲しいな…って……」
屋上への呼び出し?
雰囲気からして秘密がバレた訳では無さそうだが……何かありそうだ、最大限の注意を払っておこう……
「ごめんね、わざわざこんな所に呼び出しちゃって……」
「で、要件はなんだ。さっさと言え」
念の為右手に小さめの暗器を忍ばせておく。
もし何か不審な動きをしたら即刻頸動脈を断ち切る。
「その………ま、前からあなたの事が好きでした! 付き合ってください!!」
「……………は?」
予想外の答えに思わず右手の力が抜ける。
【カラ~ン】
「? 今何か落とし__
「いや! いや……これは何でも無い!」
そう答えながら目にも止まらぬ速さで回収する。
と言うか待て、今こいつは何て言った?
前から好きでした?
付き合ってください?
「はぁ……悪ふざけをするにしても、やる相手は選んだ方が良いぞ」
「へ? 悪ふざけって…?」
「そもそも、前からと言うのはいつの話だ? 私はお前と面識など無かったはずだが」
「あ、いや…植原さんの事を初めて見たのは1年生の時なんだけど……その時に一目惚れしたっていうか………」
一目惚れ……私には理解出来ない感情だな。
物心がついた時から両親は居ない。
昔から殺し屋になるための訓練や知識は教えられてきたが…そこには一般人で言う所の愛情とやらは無かった。
この高校だって私の所属する組織の奴に手配されて通っているだけ、青春とか言う物も味わった事が無い。
それが私なのだ。
他人が持つ愛だの恋だの言う感情は理解できないし私には関係の無い事だ。
第一、恋愛は仕事の障害になる言う事で組織では固く禁じられている。
「取りあえず、その告白の応えはNOだ」
「うぅ…お断りって事だね……」
「私はお前と違って忙しいんだ、恋愛関係など作ってる暇が無いほどにな」
「恋愛関係……じゃあ友達からって事でどうですか!?」
「断る。それじゃあな」
「あ! ちょ、ちょっと待__」
呼び止める声を無視して屋上から去る。
全く……時間の無駄だったな。
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ただ学校に登校するだけでも油断は出来ない。
敵対グループの輩がいつ、どこから襲ってくるかは予測できないからだ。
予測は出来なくても、気を張っていれば対応するのは難しい事では無いのだが……
「……………フッ!」
「おは__うわっ!?」
後ろに現れた人影の腕をとって体を壁に押し付ける。
噂をすれば早速来たか。
全く油断も隙も無い__待て、こいつは確か………
「………お前か」
「痛たたた! ギブギブ!!」
拍子抜けしつつも拘束を外す。
「いきなり近づいてきて何の用だ? お前とは恋人にも友達にもならないと言ったはずだが」
「たまたま前に居たから挨拶しただけなんだけど……まさか関節を決められるとは………」
「挨拶以外に用が無いなら私はもう行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってよ~!」
『ねぇ昨日のニュース見た? あの逮捕されてた人って__』
『見た見た! あの人は確か__』
『嘘!? 昨日あの人が出てる作品見てたんだけど__』
「……………」
もはや見慣れてしまった光景だ。
相変わらず喧しい連中だ……
「あれ? 植原さんは昼食取らないの?」
とか何とか考えていたら、もっと喧しい奴が来た。
「はぁ……回れ右して私の視界から消えてくれ」
「手厳しい事で……でも、全く食べようとする素振りが見えないんだけど…弁当忘れたとか?」
「単に人目の着く所で食事を取りたくないだけだ」
「屋上に行けばあんまり人目には着かないと__」
「屋外は屋内よりも狙撃されるリスクが高いから駄目だ。それくらいお前でも分かるだろ」
「流石に狙撃はされないと思うけど!?」
そして放課後
「……で、何でお前は着いてくるんだ………」
「いやぁ…この前知ったんだけど植原さんの住んでるマンションが僕のマンションと同じみたいで……」
何で不幸と言うのはこうも重なって起きるのだろうか。
ただでさえ私に関わろうとしてくる厄介な奴なのに、そいつと住んでる場所が同じなどたまったものではない……
「分かった……家が同じだったのは百歩譲って妥協しよう。だがこれ以上私と関わるのは本当に辞めろ」
「……ごめん、そんなに僕と話すが嫌だったん__
「そんな事はどうでも良い」
「……え?」
「お前と私の身を案じての事だ。このまま行くと、お前の人生と共に私の(殺し屋としての)人生まで終わってしまうのだ」
「え……え?」
「お前が良いとか悪いとかは関係ないし興味も無い。単純に、私が私でいられなくなる事を避けたいから言っているんだ」
ここまで言って分からないようなら力ずくにでも関わるのを辞めさせてやる。
だが、こんなに忠告したのだから普通は引き下がるはずだ。というかそうでないと困る……
「……植原さんは優しいんだね」
「………はぁ?」
こいつから予測外の回答を聞くのはこれで2回目だ。
何が優しいだ……微塵も優しく接してるつもりは無いぞ。
「人生が終わるって言うのはよく分からなかったけど、自分の事と同時に僕の身まで案じてくれてるし……」
「あのなぁ……馬鹿か? お前。私が優しい訳あるか」
「今日初めて植原さんとまともに話したけど…やっぱり植原さんは外見だけじゃなくて内面も美しい人だ」
「お前は目が節穴なのか? 私は優しくないし、外も内も美しくも何ともない! ……もういい、これ以上お前と話しても時間がもったいない!」
「あっ、____!」
何か言われているが知ったことではない。
本当に何なんだあいつは…
私のどこをどう見たら優しいと思えるんだ……
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こんな感じの事が水・木・金と続き、やっと土曜日。
今までも1週間の流れが速かったり遅かったりした事はあったが、土曜日までがこんなに長く感じたの今回が初めてだ。
疲れが貯まっていたのか、ベッドの上に転がるなり起き上がれなくなってしまった……
そんなに1週間が長く感じた原因は、全て奴…竹内の存在だろう。
最初に告白された時は悪ふざけだと思っていたが、ここまで来ると流石に本気なんだと思わざるを得ない。
………好きです、か……
私の記憶が正しければ、そんな言葉を私に言ったのはあいつが初めてだ。
今まで誰にも好かれなかった、そして誰も好かなかった私に…好き……
「……はぁ………」
何考えてるんだ、私。
私は殺し屋、それ以上も以下も無い。
こんな事を幾ら考えても意味が無いだろうに__
「あぁっ、くそ!!」
駄目だ、奴の事が頭の中から離れん!
消そうとすればするほど深く頭に刻み込まれる……一体何なんだあいつは!?
(付き合ってください!!)
(一目惚れしたっていうか………)
(……植原さんは優しいんだね)
「~~~~ッ!!」
↑枕に顔をうずめて足をバタバタさせている
「はぁ、はぁ……」
とにかく、今は休む事だけを考えよう。
余計な事は一切考えては駄目だ。そうでないと_
【ヴーッ、ヴーッ__】
そう考えた矢先、携帯の通知音が鳴る。
メールを開くと案の定ボスからだった。
……結局まともに休めなかったな………
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「いやぁこの前は立て続けに仕事をして貰ってたからね、久し振りの休暇になってしまったがちゃんと休めたかい?」
「あ、いえ…その……」
「? 何かあったのかい?」
「……いいえ、休みを満喫しました」
「そ、そう…? なら良いんだけど……オホン、それで今回のターゲットはこの男だ」
「暗殺ですか…私にはあまり回ってこない仕事ですね」
「君は組織の中でも群を抜いて戦闘力が高いからね、だから今までは他の組織の壊滅などを頼んで__美郷ちゃん?」
「……ハッ! いえ、何でもありません!」
「凄いボーッとしてたけど……まあいいや、頼んだよ」
「了解しました……」
いかんいかん……
仕事の時は頭を切り換えるんだ。
いつまでも他の事を考えてると、仕事の出来に支障をきたしかねない。
さっさといつもの感覚に戻らねば……
……ああもう!
切り替えろって言ってるだろ! 私!!
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「植原さん、その…クリスマスイブの日って予定空いてますか?」
「それがどうかしたのか」
「えっと…一緒に買い物とかどうかなって…ハハハ」
「……………」
「あっ! 嫌なら嫌で大丈夫だよ!? それに植原さんは忙しいって言ってたし……」
「……そう言えば、そろそろ服を変えようと思っていたな………」
「えっ、それって__」
「勘違いするなよ!? たまたま服を変える時期だっただけだからな!! ……それで、どこに買いに行くんだよ……」
「! うん、じゃあ! ええっと……どこ行こうか?」
「……決めてないのかよ」
〈12月24日〉
「ごめんごめん! 待たせちゃった!?」
「いや、今さっき来た所だ(大嘘)」
「それじゃあ……行こっか!」
「……ふん」
「そう言えば、買いたい服ってどんな奴なの?」
「そうだな……動きやすくて暗色の、この時期の深夜に来ても寒く感じないような防寒着だ」
「防寒着かぁ…このセーターとかどう? 暖かそうだし植原さんが着たら絶対似合うよ!」
「私の話を聞いてたか?」
「う~ん…でも植原さんは明るい色の方が似合うと思うけどなぁ……」
「訳あって目立つ色の服は着れないんだよ、分かったら別の服にするぞ」
「1回だけ! 1回だけ着てみてよ! それで植原さんが気に入らなかったら止めて良いから!」
「…………チッ、着たらすぐ戻すからな」
(何やかんや着てくれる植原さん…優しいなぁ……)
【シャーッ】
「はあ……これで満足か?」
「おぉ…やっぱり! そのセーター凄い似合ってるよ!! 1枚写真撮っても良いかな!?」
「馬鹿! 撮んな!! ったく、もう脱ぐぞ」
「えぇ~…せっかく可愛いのに勿体ない……」
「……おだてても無駄だぞ………」
「本心なのに……あれ、何か耳が赤くなってるよ? どうかしたの?」
「ッ! どこ見てんだお前!!」
「えっ!? 耳だけど……」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
人混みを避けるため、人通りの少ない道を通って居る最中。
「ったく、何で服を買うだけでこんなに手こずらなくちゃいけないんだ……」
「手こずってたんだ…大変だったね」
「10割お前のせいだがな」
「ごめんなさい……そう言えば、何で防寒着とセーター両方買ってたの?」
「……それは、その、あれだ。家族にあげるんだよ、多分。」
「何で疑問系なんだろう……? あっそうだ。喉渇いてない? 何か飲み物買ってくるよ」
「いらない」
「お金は僕が出すよ」
「……ホットコーヒー」
「うん、分かった!」
そう言って飲み物を買いに行った。
取りあえずここで待ってるか……
そうして待っていると、遠くからとある声が聞こえた。
虫の息のように小さい、竹内の声。
ただの声じゃない……何かに襲われたような……
そう思った矢先、背後から3人の男が現れた。
男達は出てくるなりこちらに襲いかかってくる。
殺しの動きじゃ無い…捕獲、生け捕りにでもする気か。
だが、動きが遅い。
顎を捉えた回し蹴りで1人、蹴り上げと肘打ちで1人、金的と踵落としで最後の1人。
そしてすかさず後ろから増援と思わしき影が近づいてくるのを見逃さなかった。
後ろを見るよりも先に攻撃を__
「__ッ!?」
だが、すんでの所で攻撃を止める。
そこには捕縛され、恐らく気を失っている竹内と……
「…………ボス…!?」
「残念だよ美郷ちゃん…殺し屋である君が他人と恋愛関係になるとは……組織の掟を忘れたのかい?」
「……私は__」
「言い訳はこれからたっぷり聞かせて貰うよ、取りあえず大人しく捕まりなさい。でないとこの青年がどうなるか…ね?」
「ッ! …分かりました……」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そうして連れて来られたのは古びた倉庫。
周りにはボスやその他の殺し屋、大量の組員が円を囲むように立っていて、中心に私と竹内が居る。
「……つまり、君はその青年とはただのクラスメートと言うだけと?」
「……はい」
「とてもそうは見えなかったがね……まあ良い、そう言う事なら話は簡単だ」
そう言うと、拘束が解かれ目の前に一丁の拳銃が置かれた。
「この青年を殺しなさい」
「! こいつとは何も関係がないと__」
「昔の君は命じられた事に一切反抗する事無く実行して見せた……そんな君を、今のように1人の殺害に躊躇する程までに弛ませたのは彼だ」
「……!」
「もし機械が壊れ、自分の使用目的と違う行動をし始めればその機械は使い物にならず、処分しなくてはならなくなる。今の君はまさにその状態だ」
「………………」
「しかし君は優秀な機械だ。再び使用目的に沿って行動するようになれば、処分せずに再利用したいと思う程にね。
君が殺し屋であり、組織の人間であると言うのなら…その青年を自らの手で殺し、組織に対する忠誠を見せなさい!」
……そうだ。
私は、ただの組織の機械だ。
命令に応じて動くだけの機械……それが私だ。
命令に応えれば褒められ、評価され、生きていく事が出来る……機械として。
そして、そんな私を機械としてではなく1人の人間として見てくれた人が居る。
ただの機械だった私に、人間として接し、人間として好意を抱いてくれた人が居る。
私に人間としての考え方、感情を教えてくれた人が居る。
なんだ…何も迷う事なんて無かったじゃないか。
1つの機械として生きるか、1人の人間として生きるか……
昔の私とは違う、今の私なら答えは1つしかない。
そうして足下にある拳銃を拾い、竹内の眉間に標準を合わせる。
そして、笑みを浮かべてボスに伝える。
「ありがとうございます、ボス。おかげですっかり目が覚めました」
「そうか、それは良か__」
【バァン!】
そうして引き金を引き……竹内の真後ろに立っていた組員の眉間を打ち抜く。
「私は機械としては欠陥品の、ただの人間でした(ニコッ)」
「……本当に残念だよ、お前達、殺れ!!」
そう言って組員や殺し屋達が一斉に武器を取り出す。
こちらに襲いかかってくる者、銃口を向ける者……
「ウアアアアアァァァ!!!!」
ナイフ2本で敵を切り刻む。
何度も切り刻む。
何人も切り刻む。
敵の攻撃を避けて切り刻む。
無我夢中で切り刻む。
何人も、何人も、何人も、何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も……
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……ハハッ……まさかここまでとはねぇ………完敗だよ、美郷ちゃん」
「…………」
【ザシュッ】
最後の1人を首元を切り、返り血が頬に飛び散る。
そして、先程まで騒がしかった倉庫に静寂が訪れる。
……………………………。
何人切り倒したか、もはや数える気にもなれない。
ともかく、これで終わったのだ……
「……うぅ……?」
「!! 海斗!」
「あれ…いきなり変な人達に襲われて……!? うわぁ!! どうしたの植原さん! 血塗れじゃないか!!??」
「……………竹内、私は___」
覚悟は、決めた……
私は竹内に全てを話す。
「___そう言う訳だ、隠してて済まなかった……」
「………………」
この話を聞かされた竹内は、どんな反応をするのだろうか。
人殺しと罵るだろうか?
恐怖でこの場から逃げ出すだろうか?
逆に怯えて1歩も動けなくなるだろうか?
そうだとしても、構わない。
そうなるしか無い。
竹内は普通の男子高生で、私は普通の女子高生の皮を被った殺し屋。
元々釣り合うはずも無い。
関わっていく内に、いつか必ずこうなってしまうのだ。
そう考えていると、とうとう竹内が動く。
……短い付き合いだったが、こいつには色々教わったな…感謝しなければ__
「…………(ギュウッ)」
「……え? は!?」
竹内が無言で私の事を抱擁してきた。
何も言わず、ただ私を抱きしめる……
「おまっ! きゅ、急に何してんだ!?」
「………ごめん……………」
「……え?」
「ごめんよ、植原さん…植原さんに、そんな事情があったなんて……それなのに僕は……好きだからと一方的に好意を寄せて………こんな事にしてしまって…………」
「な、何でお前が謝るんだよ…? お前は別に__」
「今になってようやく分かったよ……あの時言った『私の人生が終わってしまう』の意味が……それに気づきもしないで、僕は……僕のせいで!!」
「………違う」
「僕が! 僕が振られた時に諦めなかったせいで! ただ自分だけの都合で__」
「違うっ!!!」
「!! (ビクッ)」
我に返った竹内が、抱擁を解いて私と向き合う。
「……確かに組織が滅茶苦茶になり、私を殺し屋として…機械として終わらせたのはお前のせいでもある……」
「……………」
「だが、お前は私に、そんな機械に! 人間としての私を教えてくれた!!」
「……!」
「私は幼少期の時から、既に人として大事な部分を忘れていたかも知れない……その大事な部分を、お前は私に教えてくれた……それだけで、もう十分だ…………」
「……植原さん………」
「機械としてしか認められていなかった私を…お前は人間として、優しく、暖かく接してくれた……! それだけで、それだけでもう…………」
気がつくと、頬に何かが伝う感触がある。
それは今まで一度も感じた事の無い、冷たくて、温かい物……
すると、竹内がハンカチで私の頬をぬぐってくれた。
「……泣かないで、植原さん………」
そうか。
私は、泣いていたのか……
「辛かったんだね…僕の想像もつかないぐらい………」
「………………」
「こんな事を言うなんて我がままかも知れないけど…もう一度だけ、植原さんにお願いしたいんだ……」
「……何だ………」
「……前から、あなたの事が好きでした! 付き合ってください!!」
「ッ!! よ、よろしくお願いします……」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
〈数日後〉
「おはよう植原さん!!」
「……おはよう、竹内」
「付き合い始めてから何日か経つけど、あんまり今までと変わってないね」
「私は恋愛に関しては無知なんだ、教えてくれなきゃ何も分からんと言っただろう」
「そうだな~……あっそうだ! 2人とも名字じゃなくて名前で呼び合うとかどうかな?」
「!? な、名前で呼び合うなんて私が出来る訳無いだろ!」
「呼び方変えるだけなのに!? でも、あの倉庫に居た時に僕の事『海斗!!!』って呼んでくれたよね?」
「あっあれは…その……焦ってただけで………」
「植原さんなら大丈夫だよ! 行くよ? 美郷さん!!」
「……か、海斗………」
「…………(パシャッ)」
「おい! 無言で撮るな!! 馬鹿!」
「はっ、ごめん…恥ずかしがってる顔が可愛すぎてつい……」
「ったく…次やったらスマホ叩き割るからな……」
「………美郷さんって照れてる時凄い耳赤くなるね……」
「!! 何で一々そんな所見るんだ! 変態!!」
「耳見ただけで!?」
そんなこんなで私は、殺し屋を辞めてただの女子高生になった。
あの時と違って、辛いや悲しいと言った面倒くさい感情を覚えてしまったが…代わりに、嬉しいや楽しいと言う感情も覚えられた。
これから先、殺し屋の時よりも辛い事だってあるだろう。
だが同時に、殺し屋の時よりも楽しい事だってあるのだ。
人間は、機械ではない。
誰にだって喜ぶ権利や悲しむ権利がある。
それを気づかせてくれた男…竹内海斗に感謝しながら、私は今日も退屈な授業に赴く。
海斗と一緒に………
短編投稿を宣言してから何日経ったか……
お待たせしてすいません。