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ワールドセブンデイズ  作者: 七夕スイ
6/7

day>>6 Saturday

前書きは不要でしょう。



今更異世界もの

 異世界に飛ばされて三年の私。

 元の世界と全く違う環境にもそろそろ順応してきた。

 魔法があるが故の科学技術の停滞、初めは科学世界の私が無双する展開だと思っていたのだけど。

 そもそもここと元の世界は物理法則が微妙に違うらしく、火薬なんかもただ燃えるだけで全然威力のあるものは作れなかった。

 精霊、なんていうエネルギー源が作用しているのだとか。

 そこら辺は私にはあんまりわからなかったし、本人のイメージに反応するという魔術も私にはつかえなかった。

 「ゆっこー。こっちも手伝ってくれ。」

 「はぁーい。」

 今は私は宿屋で働いてる。この国は世界でも移民が多くて、他種族がそこらに溢れているから、ここのマスターの人は獣人系の方。

 (そういえば獣人は遺伝子の優性が弱くて、交配後は相手の血筋が強く出る、だったっけ。元々獣人は『オリジナル』の血をコピーしたんだっけ。よく血統が途絶えないもんだな。)

 「よっこいしょ。」

 「それを二階まで運んで来てくれ。」

 「分かりましたー。」

 私はこの世界では力が強い方だけれど、マスターは私より全然力持ちだ。

 2、3tくらいなら軽く持ち上げられるらしい。

 だから私はここではあんまり力仕事はしないのだけれど、少しでもマスターの助けになるのならと、雑用をこなしてる。

 (あんまり料理も上手くないしね。)

 「よいしょ。ふぅ。ん?」

 不意に、棚に飾っているマスターの写真に気がついた。

 「気になるか?」

 「マスター。仕込みは終わったんですか?」

 「とりあえずな。」

 犬っぽいマスターの顔。犬派の私の異世界最初の癒し。

 「そいつは俺の学生時代の親友なんだ。なに系の血族だと思う?」

 「小柄ですね。人類種の血が強そうですけど、吸血種か猿兵種?」

 「そいつ、天使種なんだ。しかも『オリジナル』だ。」

 「え!?」

 「昔はな、『オリジナル』にそこそこ近いのもゴロゴロいたんだ。最近はもう見ないがな。結局天使のそいつも、『向こうの世界』の国一つ救いに行ってしまった。」

 「す、すごいですね…」

 「あぁ。すごいやつだった。今日は土曜だし、午前で上がって良いぞ。たまには町で遊んでこい。」

 「はい、じゃあお言葉に甘えて。」

 普通に毎週お休みは貰ってるんだけどね。

 

 町、なんていって、ここの世界はテレポートとか余裕でできるから地方同士のつながりは強いんだけれど、地域の中でのまとまりがかなり強い。小さな都市が転々とあるような感じ。

 この小さなイルル町は首都から大分遠くにある。だから方言というか言い回して言うかが独特で、それで言語を覚えた私は書類仕事が大変だった。

 まあつまり何が言いたいかというと、元の世界の田舎町のごとくご近所のつながりがものすごく強いのだ。

 「ゆっこちゃーん。お出かけ?」

 「あ、はい。」

 「お昼食べた?」

 「いえ、これから食べに行きます。」

 「ちょうどいい、うちで食べてきなよ。」

 (あのミーミルさん家のご飯いつも美味しいんだよなぁ。)

 けれど私は答える。

 「すいません、今日は遠慮しときます。たまには別のところに食べに行って見たくて。」

 「そうかい。またいつでもきなよー。」

 平和だ。土曜日の昼下がりらしい良い空気。

 だった。

 

 「精霊八番回路、繋ぎました。接続正常!」

 「九番!接続失敗!十二番!七番!四番接続失敗!」

 「六番回路回復。接続やや不安定!」

 「どうなってる、各ラインに確認を!」

 「十三番A、B、共にダウン!連絡用回路が使えません!」

 「壱番ルートを使え!大精霊召喚準備!」

 「壱番ルート、寸断、違法アクセスです!これは…!テレポートゲートが乗っ取られてます!」

 

 「?」

 気のせいか。

 あんまりどこに行ってもこの町、なにも新しいことがない。

 「あ、そうだ。山いこ。登山道登ってみたかったんだ。」

 といっても、本格的に登る訳じゃなくて、少しきれいな空気を吸うくらいの感覚。

 そうときまれば手ぶらでごー。

 明日が休みだから気軽にとんでもないことができるのも土曜日の良いところ。中腹までえいさほいさと上っていく。

 いつも私は筋トレとかをしている訳じゃないから、やはり山登りというのは大切な運動だと実感する。定期的にやろう。

 良い景色。この町は標高が高めで、少し登ると雲を抜ける。

 雲海と行って良いほどの雲がもわもわと浮かんでいる。

 「はー。すごいなー。」

 私は魔法が使えないので、この世界の当たり前があまり理解できない。

 けれども、魔法で動く道具は私にも使えて、例えばこの望遠鏡、これで覗けば雲を貫通して遠くを見ることが出来…る……

 「!」

 スコープの先にあったのは当然イルル町。

 そう、得体の知れない集団に襲撃されている、私たちの町だった。

 

 (まずい!角と太い尻尾があった!多分あいつらは龍種!)

 火を吹き、人の身にして空を飛ぶ龍種、最近は血も薄くなってきたと聞いていたけれど!

 (あれはかなり『オリジナル』に近い!まずいまずいまずい!間に合うか!)

 「てぇやぁぁぁああ!」

 走って降りた勢いもそのままに1人殴り飛ばす。

 「大丈夫ですかミーミルさん!」

 「ゆっこちゃん!私のとこは大丈夫だけどゆっこちゃんとこのお店が!」

 「!分かりました!」

 こいつらがなんの目的で来たのかは分からない。けれど、こんなことを許せるわけもない。

 私じゃ、間に合っても力不足かもしれない。

 他のだれかがやるかもしれない。けど!

 他のだれかがやるなら私もやらなくちゃ!

 「マスター!っ!?」

 マスターの店は、外装に火がついていて、少しずつ燃えていっていた。

 「水!消火用のが中にあった!」

 けれども、店のなかには入れそうもなく、どんどん燃え広がり、ついには完全に火に包まれてしまった。

 ふと見ると、そこここに黒い煙が上がっている。

 それを見た瞬間、私のなかで何かがぶち切れた。

 捕まえようとしているのか、殺そうとしているのか、近づいてくる龍の一人を地面に叩きつける。続いて流れてくる『雑魚』どもの頭を思い切り蹴り飛ばす。

 こっちにきたトカゲをすべて吹き飛ばす、それだけの話。

 異世界に来てから妙に体が軽い。初めは周りが弱いのかと思ったけれど、体力測定のとき、明らかに私だけが高い数値を出した。

 おそらくこの力のせいで、私は魔法を使えないのだろう。

 だとしてもかまわない。今ここで、こいつらを倒せれば!

 「おいおい、お前らいつからそんなに軟弱になりやがった?」

 「お前…」

 「けっ。こんなちっさいのにやられやがってよぉ。お陰で俺様の仕事が増えるじゃぁねえか。」

 「お前が頭領か。何しにきた。」

 「あぁ?俺様がトップなのは当たり前だろぉが。雑魚の尻拭い、要はてめぇを片付けに来たんだよ!」

 違う…

 「なんでこんなことしてんのかって聞いてんだよ!」

 大きなハンマーを振り下ろす頭領、他のやつらとは大きさが違う。けれど大振り、足元に滑り込んで膝を横から思い切り蹴る。

 「はっ!やっぱ軟弱じゃねえかよ!」

 「!?」

 しかし全く響かず、逆に私が体制を崩した。

 「教えてやろう!俺様は龍種の『オリジナル』、天龍ヨルガンドだぁ!」

 逆の拳で私を狙うのが見えた。

 (…あ、ダメだ死ぬな。)

 死ぬ瞬間というのは案外わかるもので、今がその瞬間そういえばこの世界で死んだら私はどうなるのかな……

 「あぁ。知ってるよ。」

 ……?死んでない?

 「あ、マスター!」

 見るとマスターがヨルガンドの腕を掴んで止めている。

 「あんまり無茶するな。異世界人だから丈夫なのかもしれんが、それでも女子には変わりないだろう。」

 めちゃくちゃ泣きそうになった。

 「て、めぇ。なんでここに居やがる!」

 「ここが俺の店だからだよ。」

 「こんな田舎で仲良くお店ごっこたぁ、ずいぶん楽しそうだなぁ!はは!落ちたもんだ!」

 「そんなことはない。みんなの為に仕事をするのはずいぶん楽しいぞ。どうだ、お前も秘密結社ごっこなんてやめて店でも開いたらどうだ。」

 「秘密結社ごっこだぁ?お前はもう気付いてんだろ?この世界は『向こう側』と繋がってる!近頃『向こうの世界』で何かあったんだろう、この世界もつられてもうすぐ終わる!俺様が世界を支配して崩壊を止めなきゃあいけねぇんだよ!分かるかフェンリル!」

 「支配と破壊は違うってことをいい加減分かれヨルガンド!」

 「いいや、破壊じゃねぇ!こいつは支配だ!まずはてめぇを殺すところから始める!五百年前の続きをここで終わらせてからだ!」

 私は背後、向かいの建物の三階屋上。

 全力でジャンプして。

 「五百年平和ボケしたお前と俺が同じだと思」

 パァンッ!!

 重力を利用しまくった踵落とし。

 ごりごりと足元でなにかが砕けるような音がして、足はヨルガンドの頭に直撃する。

 二メートルはあるヨルガンドの頭からずり落ちそうになってしがみつく。

 ヨルガンドは崩れ落ちるように倒れて、上にのっていた私も。

 「大丈夫か?」

 「マスターの名前、初めて知りました。」

 「あぁ。別に隠しているつもりもないがな。」

 「フェンリルってすごい名前ですね。」

 「変な名前だろう。」

 「いえ、凄く格好良いです。」

 「そうか、ありがとう。それより今は鎮圧だ。ヨルガンドは倒れた、拘束しておけば後は難しくもないだろう。」

 「はい!」

 

 「終わったか。」

 「こっちも火、消しました。」

 「異世界人の力はすごいな。」

 「マスターのほうが強いじゃないですか力。」

 ここで私はふと思う。

 「マスターってなんでそんなにつよいんですか?龍種を雑魚のように扱えるくらいの力あるじゃないですか。」

 「あぁ。俺は獣人の『オリジナル』だ。」

 「えぇぇぇ!そうだったんですか!」

 「まあな。かれこれ600年くらいは生きてるな。」

 「衝撃です…種名は?」

 「幻獣だ。天使のあいつも『オリジナル』だ。種名は主神だったか。」

 「主、主神…ほんとですか…」

 「ゆっこ、『オリジナル』って言うのはな、『向こうの世界』から来た生き物が精霊に適応した結果なんだ。」

 「え、そうなんですか。」

 「あぁ。俺は元の世界じゃ普通の犬だった。ヨルガンドやフレイ…主神のあいつももともと何かの生物だろう。鳥とかトカゲとか。」

 「なるほど…それを精霊でコピーしたのが今の世界の人たちな訳ですか。」

 「そうだ。俺の予想では…お前もそうだろう。」

 そう言われて、私は驚いた。

 「私が?」

 「いや、俺の勝手な予想だ。『オリジナル』になると人類種に形が近くなる。つまり『人類種化』するんだが、元の血が『人類種化』するわけだから元の性質はどうしても残る。」

 マスターに犬の血が混ざってるように。

 「だがこの世界に人類種がいる限り、どこかに人類種の『オリジナル』は存在する。ゆっこが人類種の『オリジナル』なら、その力は精霊適応の影響だろうな。」

 「はぁ……なるほど。」

 なんだか良くわかったような難しかったような。

 「そういえば、お店、燃えちゃいましたね。」

 「大丈夫だ、俺さえいれば店くらい何度でもやり直せる。」

 「そうですか。ならよかったです。ならばこれから一度ゆっくりしましょう。どちらにせよ明日はお休みですし!」

 

 9月14日土曜日、ヨルガンドの言葉をすっかり頭から抜いていた二人は翌日………

御一読感謝いたします。



この物語はフィクションです。流石に……ねぇ。

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