day>>4 Thursday
前書きは不要でしょう。
ねぇ?
僕の友達を紹介しましょう。
先ずは新華。男勝りで気の強い幼馴染み。月曜日生まれ。
次に花。新華の親友で大人しい性格。水曜日生まれ。
蓮と、お姉ちゃんの鈴。仲が良くて元気な双子。火曜日生まれ。
以上四名。
僕は、この中の誰かが未来を殺したと思っている。
新暦2012年、旧世紀とは格段に進歩した技術によって打ち上げられた、上空500000メートルのステーション内で殺人なんて、容易なことではないだろう。
未来は、寝室内で窒息死していた。
お昼過ぎ、いつものように、筋肉が衰えないようトレーニングしていた時に突然ステーションの電源が落ちた。
寝室に限らず、全ての部屋の扉はオート開閉。つまり密室な訳だけれど、十分くらいで電気が復旧した頃には未来は死んでいた。
「密室殺人で窒息死か。首締めじゃないんだろ?跡もなかったし。」
と、麦野。
…麦野の紹介を忘れていた。
ミステリアスでどこかズレている、考えの読めないやつ。何曜日生まれかは知らない。
「リビング、キッチンにそれぞれ個人の寝室、トイレ、風呂場、倉庫、トレーニング室に制御室。全13室が密閉された状態だった訳だな。みんなそれぞれ何処にいたんだ?」
「僕と麦野がトレーニング室、花がお風呂で、れんとすずがリビングにいて、新華が倉庫にいた。」
「ふーん。じゃあ目下一番怪しいのは蓮と鈴か。リビングから寝室に繋がってる訳だからな。」
「でもずっとリビングから声は聞こえてたよ。寝室までいくと声で直ぐに分かる。」
「なるほどな。」
麦野はうーん、と唸る。
「ドアの開閉音は?何回聞こえてたっけ。」
「僕がトレーニング室に行ってからは花がお風呂に行った一回だけだと思う。」
「…その一回が実は寝室のドアだったっていうのはないか?花が風呂に行くと言いつつ、二人の目を盗んで。」
「それだと花は何処へ行くのさ。電源が戻って僕がドアを開けたときには花はリビングには居なかったよ?」
「だから、その時にはまだ寝室の中に居て、電源が戻ったタイミングで出てきて…ダメだな。絶対気づく。そもそも髪を一度濡らさなきゃならないから花が風呂に入ったのは絶対だ。」
「水を汲んで頭から被るとかは?」
「ここは上空500キロだぞ。地上みたいに証拠隠滅は出来ない。」
「僕らがドアを開けたときには死んでなくて、それから殺したとかは?」
「窒息はそんなに直ぐには死なない。」
今度は僕が唸る。
「全く分からんな…。」
麦野はため息をついて窓の外を見る。
大気が無いため、月が大きく、遥かに明るく見えた。
「全く関係ないが…月曜日生まれは器量良し、って知ってるか?」
「知らない。」
「マザーグースの一説だ。」
月曜日生まれの子供は器量よし
火曜日生まれの子供は品があり
水曜日生まれの子供は泣き虫で
木曜日生まれの子供は遠くへ旅立ち
金曜日生まれの子供は愛に満ちあふれ
土曜日生まれの子供は働き者で
そして日曜日生まれの子供は可愛く明るく気だてがいいでしょう
麦野は息を途切れさせることもなく歌い上げる。
「これ、日曜日贔屓され過ぎじゃないか?月曜日と火曜日と金曜日を一人で受け持つってのは流石に無理があるだろう。」
「確かにね…」
僕は木曜日生まれ。まさにこうして宇宙に来ているのだから、マザーグースは当たっている。
月曜日生まれ…新華は器量はそんなによくないね。
そこで僕は思い付く。
「倉庫にいた新華は?倉庫から通風口を伝って寝室に…」
「いや、新華はそんなに小さく無いだろう。」
「じゃあなんかガスみたいな物を流したりとか。」
「あり得なくは無いが。途中でドアを開けられたらどうする気だったんだ?」
「その為に停電させたんだよ。しばらくしたら消えるようなガスで窒息させれば未来の状態と一致するよ。」
「いや、ブレーカーと電源は制御室にあるんだ、倉庫からは無理だろ。そもそも開閉記録を見れば…!」
「どうしたの麦野?」
「ドアの開閉記録を見ればいいじゃないか。そうすれば直ぐに分かる。」
「なるほど。気付かなかった。」
制御室に行ってから、モニターに記録を表示してみる。
どうやら僕らの思い描いた通りで、特に驚くような記録はなかった。
制御室は一度も開けられておらず、結局寝室も倉庫も、未来と新華が入ってからは一度も開いていない。
しかし、麦野は満足そうに笑う。
「なるほど分かったぞ。」
「ほんとに?」
「ああ。間違いなく。これは事故だな。」
「このログによると、停電の原因は人工的なものじゃない。おそらく配線の不良だな。技術が進歩したがゆえの怠慢だな。ここでひとつ。無重力状態だと空気は停滞する。つまり吐いた息がその場から動かないわけだ。まあその為に空調があるわけだが、未来の寝室では停電の間空調は働いていなかった。
全ての部屋においてそうな訳だが、幸い私たちは動いていた。動いてさえいれば酸欠になることはない。だが仮眠していた未来は違う。吐いた息がその場に留まって酸欠を引き起こす。これが未来の死因だろう。つまりこれは事故であって、犯人はいない。」
「そうだったのか…」
「ま、大方そうだろうな。だから、」
麦野は笑う。
「お前がお前以外の全員を殺したことは、なんの意味もなかったということだ。」
「全員じゃないよ。麦野がいる。」
「おいおい、勘弁してくれよ。もう気づいてるだろ。『麦野なんて人間は存在しない』。なんで私だけ名字で呼ぶんだ、名前が思い付かなかっただけだろ?このステーションのクルーは六人、一人は事故死、四人はお前が殺した。」
ああ。
僕は思い出す。そういえばそうだったな。これで全員だ。
「『木曜日生まれは遠くへ旅立ち』、まあつまり木曜日生まれは突然とんでもないことをするという意味だが、本人と外の感覚がズレやすいとかなんとか。ズレてるのは私じゃなくてお前だよ。木曜日生まれは他に、動物的な生存本能が強いと言われているが、まあこれもお前には正しいだろう。自分が死なないように殺人犯かもしれないやつを全員殺したことになるわけだから。」
新華は絞殺、花は溺死、蓮と鈴は撲殺。
「あぁ、これ、地球に帰ったらどうしようかな…」
新暦2012年、西暦にして4041年のお話。
御一読感謝いたします。
この物語はフィクションです。
ねぇ?麦野。
「あぁ、もちろん。」