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転生少女は欲深い  作者: 白波ハクア
少女転生編
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第8話 お出かけの約束

【承諾。精神強化、恐慌耐性を取得しました】


 …………また、この声だ。


「どうかしたか? 体調が悪いようなら、もう休むか?」


「……いや、私は大丈夫。ちょっと、考え事をしていただけ」


 いい加減この声の正体が気になるけれど、エリスを放って声の正体を探るわけにはいかない。

 彼女は真剣に私と仲良くなろうとしてくれている。それに応えないと失礼だろう。


「何か悩みでもあるなら、私でよければ聞くぞ。遠慮しないでくれ。私のつまらない話に付き合ってくれたお礼をさせてくれ」


 どうやらエリスは先程の私の異常な怯えと、私の考え事が関係していると思っているらしい。顔が真剣そのものだ。

 赤の他人にここまで親切にしてくれるなんて、彼女は本当に優しくて、騎士らしい真っ直ぐな心を持っている。そんなエリス相手に発作を起こしてしまったなんて恥ずかしい。少しの間とはいえ、一方的に彼女を拒絶してしまったことを、本当に申し訳なく思う。


 ここで遠慮してしまったら、彼女をもっと拒絶してしまうことにならないだろうか?


 そんな考えが私の中で巡り、相談していいのかと悩む。

 けれど、私だけで探るのにも限界がある。それなら、元からこの世界に住んでいるエリスに聞いた方が、何かヒントを得られるかもしれない。そう思った。


「声が……」


「声?」


「最近、声が聞こえるの。誰の声でもない、無機質な女性の声。それが何なのか気になって……」


「ふむ……それはもしかしたら『女神の声』かもしれないな」


 何かのヒントになればと思って相談したら、初手から予想外の当たりを引いたようだ。

 ……にしても女神の声、か。大層な呼び名だ。


「それはスキルや称号を得た時に聞こえるのではないか?」


「スキル? 称号?」


 当然のようにエリスは言っているけど、私からすれば何のこっちゃという話だ。


「む? それも知らないのか?」


「…………ごめん。結構な田舎から来たばかりだから、何も知らなくて」


「ああ、そういうことなら知らないのも仕方ないか。……にしても、田舎から来たばかりだったのか。その黒い髪……もしや東の端にある国から来たのか? てっきり、カガミは冒険者なのかと思っていた」


「冒険者……?」


「おっと、それも知らなかったか。……ふむ、相当な田舎から来たらしいな。あ、勘違いしないでくれ。別にどこ出身だろうが、私は差別などしない。……言ってしまえば、私も平民出身だからな。私達は同じだ」


 いや、その考えは結構な暴論だと思う。

 平民出身だからと言って、あなた騎士でしょう。私とエリスじゃ価値も強さも違う。


 というか、ごく自然とエリスの口から興味のある単語が出てきた。

 ここら辺では黒い髪は珍しいのかな。……確かに、思い返すと誰も黒髪じゃなかった。日本では黒髪は当たり前で、別の髪色が珍しいものだと思っていたけど、これも異世界だからなのかな? 結構派手な色が多かった気がする。


「うーむ、どこから説明したらいいものか……そうだな。最初に相談してくれた声のことから話そう。カガミが言っている声というのは、女神ミリア様の声だと言われている」


「女神ミリア様?」


「そう女神様だ。流石にそれくらいは知っているだろう? 世界を創造した唯一神のことだ」


「う、うん。それくらいなら勿論!」


 ……ごめんなさい。全く知りませんでした。今知りました。

 とは言えず、知ったかぶりを発動した私。バレないかと内心焦りまくりだった。


「なぜ、女神の声だと判明しているのかと言われれば、とある聖職者が啓示を受けた時の声と、称号を得た時の声質が同じだったと言ったため、同一人物なのではないかと思われているんだ」


「そうなんだ……とりあえず、声の正体はわかった。それで、スキルと称号って何?」


「スキルというのは…………いざ言葉にするとなると、説明が難しいな。どうしたものか。……そうだな、スキルというのは、その者の能力だと思ってくれれば問題ない。例えば、私は『剣術』を持っている。これは剣の扱いが上手くなるスキルだ。カガミも剣を扱っているなら、剣術というのも持っているのではないか?」


「……どうだろ、多分、持っていないと思う。どうすればそれを取れるの?」


「……てっきり剣を扱い慣れている様子だったから、持っているのだと思っていたが、そうか持っていなかったのか。……まぁ、剣を振っていれば、その内取れるだろう」


 そうなのか。もっと剣を振らなきゃいけないのか。もし取れれば、今より剣を扱いやすくなるってことだよね? そうなれば、もっと魔物と戦いやすくなる。

 きっと、エリスは何回も練習して取得したんだろう。私も早くそのスキルが欲しいと願う。


【承諾。剣術を取得しました。剣術の熟練度が一定値に達しました。剣術が上級剣術に変化しました】


「…………取れた」


「何がだ?」


「剣術、取れたっぽい」


「幾ら何でも早すぎないか!?」


 そう言われても困る。取れてしまったものは仕方ない。ついでに上級剣術というのになったらしいけど、これは報告することでもないだろう。……というか報告したら何を言われるかわからなくて怖い。


「ま、まぁ……いいだろう。カガミのように、ふとスキルを習得できる時も……ある時はある。非常に珍しいがな」


「そうなんだー、へー……」


 ふとした時に取得しているスキルが多すぎる気がする。

 だって、今までの声が全部スキルを取得した時に聞こえていたものだと考えると、私は沢山のスキルを取っていることになる。どれも何かをやり続けたというわけではなく、本当にいつの間にか取っていたやつばかりだ。


「まだ冒険者になっていなかったのであれば、明日にでも登録してくるといい。そこにある鑑定石で今取得しているスキルの確認ができる」


「冒険者って何? どんなことするの?」


「……そうだった、それも説明しておかないとな。冒険者は魔物討伐を専門とした職業のことだ。上の位に行けばそれなりに金を稼げるが、命の危険性が高い」


 冒険者。それなら今の私ならやれそうだ。すぐに登録出来て、すぐに稼げる職業なんて、お金に悩んでいる私にとっては朗報以外の何ものでもない。


「教えてくれて、ありがとう。早速、明日行ってくるよ」


「え、いや、お勧めしたところ悪いが、危険だぞ? 魔物は強い。冒険者の半分は命を落とすと言われているんだぞ?」


「心配してくれているの? ……ありがとう。でも、私は大丈夫だよ。こう見えても、何回か魔物を倒しているんだ。実力には自信がある」


「そうなのか? ……別に疑っているわけではないぞ? だが、やはり心配だ。私が紹介したせいでカガミが傷付くのは、申し訳なく感じてしまう」


「エリスは心配性なんだね。……そうだ。エリスはまだこの街にいる予定ある? 明日、冒険者の登録に同行して欲しいんだけど」


「私か? まだ帰る予定はないが、いいのか?」


「うん、私はこの街に来てまだ数時間しか経っていないから、何処で冒険者になれるのかわからないんだ。よければエリスに案内を頼みたい……」


 そのお願い事に、エリスは固まっている。

 ……やっぱり、出会ったばかりの私なんかと一緒に行動するのは嫌だよね。そんなの自分で探せと言われるのが普通だろうし、エリスは任務の帰りと言っていたから、この街にいる時くらいはゆっくり休みたいんだろう。


 我ながら不躾なことを言ってしまったと反省し、慌てて訂正しようと口開く。


「ご、ごめんなさい。突然そんなこと言われても困るよね。今のは忘れて……」


「違うっ!」


 ようやくエリスと話せるようになったから、つい調子に乗ってしまった。恥ずかしすぎて顔も見れなくなってしまい、明日に備えて早く寝ようと布団に潜ろうとしたところで、エリスが叫んだ。思わぬ彼女の大声に私は驚き、頭まで被った毛布を取った。


「今のは、カガミから誘ってくれたのが嬉しくて、その……上手く考えが纏まらなかったんだ。明日のお誘い、受けてもいいだろうか? むしろ、同行させてくれ。是非! お願いだ!」


「お、う……?」


 めちゃくちゃ頭を下げられた。それによって生み出された風が私の元まで届いたくらい勢いよく、何度も。

 ……そんなに私は頼りなく見えるのかな。少し自信失くしてしまう。でも、他の人と比べたことがないから、私はもしかしたら弱い方なのかもしれない。

 森で出会った盗賊達はもっと弱いってことになるけれど、彼らは実際に弱かったし、上には上がいるって言葉があるくらいだ。私より強い人は山程いるんだろう。エリスもその一人だと考えれば気持ちが楽になってきた……気がする。


 それに、エリスが付いて来てくれるのは頼もしい。

 一人で冒険者の登録に行ったら、またエリスの時のような発作が出てしまうかもしれない。だけど、知り合いがいることで平常心は保てると思う。それでも発作が起きた時は、エリスに止めてもらおう。保険と考えるのは失礼だろうけど、つまりはそういうことだ。


「じゃあ、よろしく、お願いします」


 こうして私とエリスは、明日二人で街に出かける約束をしたのだった。

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