第61話 次の街へ
翌日、十分休んだ私達は村を出た。
旅立ちの時には村長さんが見に来てくれたけれど、昨日はずっと泣いていたのか、目元は真っ赤に腫れていた。
そんな村長さんを見たエリスは、また苦しそうな表情になっていたけれど、やっぱり私にはあまり共感できないことだった。
「カガミ。次はどんな街に行きたい?」
村が米粒くらいになるまで遠く歩いた時、唐突にエリスがそのようなことを聞いてきた。
「んー、美味しいものがいっぱい食べられる所がいいかな」
「確か、マレリアでは魚の切り身を堪能したのだったか?」
「うん。あれは美味しかったよ。……もう行けないのは悲しいけれど、また食べてみたいなぁ」
思えば、あのお店がエリスとの出会いだった。
最初は綺麗なお姉さんだなぁ、という感想だったけれど、まさかここまで一緒に行動することになるとは思っていなかった。
人生というのは何が起こるかわからないものだ……という老人くさい感想を抱く。
「あの時のエリスはカッコいい騎士って感じがしたよね」
「なんだ急に……というかその言い方は少し微妙だな。まるで今の私がカッコよくないと思われているようだ」
「違うよ。今のエリスもカッコいいけれど、それ以上に優しい人だってわかったから。今のエリスの方が大好きに決まってるじゃん!」
「な、何を急に恥ずかしいことを言っているのだ!」
えぇ……褒めたのに怒られた。
ちょっとわからないや。
でも、ちょっと照れてるエリスも──ハッ!
「エリスは可愛いよ!」
「馬鹿なことを言うんじゃない!」
余計に怒られた。
むぅ……? 人の心って難しいなぁ。
「とにかく! 次の街は港があるところにしよう」
「マレリア以外にもあるの?」
「……ふむ」
エリスは村長さんから貰った周辺地図を開いて、目的地となる場所に丸を付けた。
「一番近いところで三日ほど歩くことになるが……そこは大丈夫だろう。カガミの体力ならば問題ない」
「ちゃんと休憩は必要だよ。私は大丈夫でも、エリスはまだ人間なんだから」
まだ人間、か……まるで私は、もう人間じゃないみたいな言い方だ。
でもそれはあながち間違っていないのかもしれない。
『
名前:南條 鏡
種族:魔人
称号:仇なす者・破壊者・魔王の器・女神の祝福
取得スキル
強欲・言語理解・身体能力強化・豪脚・鋭爪・肉体強化・硬質化・金剛・剛力・豪腕・威圧・物理耐性・技量強化・精神強化・恐慌耐性・上級剣術・収納・魔装・魔力強化・回復魔法・気配遮断・無踏・夜目・遠目・体力強化・魔法適性・空歩・視覚強化・挑発
』
久しぶりに見た冒険者カードは、色々と変わっていた。
すぐに目に付くのは、やっぱり取得スキル欄だろう。
以前より凄く増えた。私が欲を見せるたびに、これはもっと増えていくんだと思う。
称号は三つ増えている。
破壊者はマレリアで魔族と戦った時に取得したものだ。
魔王の器は、私が魔王と一体化した時に取得したんだと思う。その時の記憶は曖昧だから、いつそれを手に入れたのかはわからない。
女神の祝福は本当にいつ取得したのかわからない。寝ている時に貰えたのかな?
にしても『魔王』と『女神』という絶対に相容れない二つの称号があるけれど、そこんところ大丈夫なのかな? 私としては魔王になるつもりはないけれど……こうして称号になっていると、やっぱり不安だな。
最後に、種族。
前は『亜人』だったけれど、今は『魔人』になっている。
これは称号の『魔王の器』と同じで、私が魔王と一体化した影響でなっているのかな。
変わったところで何があるかは、正直わからない。
人間から亜人になった時も、あまり体の変化は感じられなかった。
でも、こうして変わっているから、油断するのは良くないと思う。
下手をしたら、取り返しのつかないところまで行ってしまいそうな気がしてならない。
「カガミ。おいカガミ。どうした」
「っ、ううん! なんでもない!」
冒険者カードを収納に突っ込み、さっきまでの考えを放棄する。
この情報は、流石にエリスに教えられない。
私一人でどうにかするべきだと思うから、今は何も言わない。
だから私は、屈託のない笑顔を貼り付けた。
「海、楽しみだね!」
「ああ、そうだな……」




