表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生少女は欲深い  作者: 白波ハクア
少女放浪編
63/64

第60話 ステータス




 私とエリスは村に戻り、村長に遺品を渡した。


 それが何を意味するのかは、言葉にしなくても理解したと思う。

 村長は何も言わず、涙を流して崩れ落ちた。


 エリスは黙っていた。

 ただその姿を見つめ、悲しそうな顔をしていた。



「……今日はもう、お休みください」



 静かに告げられた言葉。

 今は一人にさせた方がいいと、私達は宿に戻った。


「カガミ。家族を失うというのは、悲しいことなんだ」


「……うん」


 悲しいこと……なんだと思う。

 でも、私にはそれがわからなかった。


 私の母親は、私を捨てて何処かへ行ってしまった。

 私の父親は、事あるごとに暴力を振るう男だった。


 家族を失うと悲しいってみんなは言うけれど、多分、私の父親は私を殺しても悲しくならないのだろう。


 ストレス発散の道具が壊れてしまった。


 その程度の認識だった思う。

 私のことを最後まで『娘』だと認識してくれなかったと思う。


 私にとって家族というのは、赤の他人に等しい……いや、それ以下の存在だ。



「私にも大切な家族が居れば、気持ちを理解できたのかな」


 深く考えずに出た言葉は、エリスを悲しませるのに十分だったのだろう。

 それは彼女の表情を見ていれば、すぐにわかることだった。



「……なんてね!」


 私は笑う。

 今は、明るく振る舞うべきだと思ったから。


「助けられなかったのは悲しいけれど、どう頑張っても私達では助けられなかった」


 私達はヒーローじゃない。

 物語の主人公のように、絶対に助けられるわけじゃない。



「まずは私達が無事だったことを嬉しく思おうよ」


 誰かを助けるために、自分達が犠牲になっては元も子もない。

 だから、まずは無事だったことを嬉しく思うことにする。



「お腹空いちゃった! 宿のご飯は何があるかな〜」


「まだ夕食の時間は先だぞ。我慢しろ」


「わかった!」


 でも、ただじっと待っているだけなのは暇だ。


「ちょっと外で遊んでくるよ」


「それなら私も行くぞ」


「いいのいいの。エリスは休んでいて。疲れてるでしょう?」


 立ち上がろうとしたエリスを押し戻す。

 不安な顔をされたけれど、私は大丈夫だと言って微笑み、安心させる。


「いや、目を離したら何かやらかしそうで……」


「そっち!? 大丈夫だよ! ちょっと走ってくるだけだから。何かあったらすぐに知らせるし」


「……そうか。それなら、私は留守番をしておこう。夕食までには戻ってくるんだぞ。道に迷ったらすぐに元の道を戻れ。絶対に無茶はするな。魔物相手に本気を出すなよ。ハンカチは持ったか?」


 ──私は子供か何かだと思われてます?


「無茶はしないし、ハンカチも持ったよ! じゃあ行ってくるね!」




 部屋を飛び出し、村を出る。

 しばらく走ったところで足を止める。


 そこには、私が殺した魔物の群れがそのままになって残っていた。


「こいつらの中に、私が持っていないスキルを持っていた奴はいるかな?」


 独り言のように呟く。

 ……しばらく待っても、何も聞こえてこなかった。


 私が欲を出せば、女神が欲しいと思ったスキルを与えてくれる。

 魔王を倒すために行動している今は、少しでも力が欲しい。そう思って魔物特有のスキルがないかなと思って来てみたけれど、どうやら無駄足になってしまったようだ。



「そういえば、得られるのってスキルだけなのかな?」



 今まではスキルを欲しいと思ったら、それを取得してきた。

 だから、私の『強欲』はそういうスキルなのだろうと思ってきた。


 ──でも、それだけじゃなかったら?


 私はやっていなかったけれど、日本にあったゲームにはスキルだけじゃなくて『ステータス』というものもあった。それは体力とか筋力とか、身体能力を数値化したものだ。


 この世界にはそういうステータスが表示されない。

 ……でも、概念としては存在している可能性は捨てきれない。



「殺した魔物達のステータスが欲しい」


 それは実験だ。


 ステータスを得られれば、私は更に強くなる。

 ダメだったら、そのまま何も変わらない。


 ふとステータスの存在に気がついた私は、これを試すために再びここを訪れた。

 エリスには見せられないから、まだこのことは内緒だ。



【承諾。ステータスの付与を行います】



 無機質な女性の声。

 それが脳内に響いた瞬間、私の中に何かが流れ込んできた。


 不快感は無くて、むしろ心地良い。

 冷え切った体に温かいスープを飲んだ時のように、体の中央からじんわりと温かいものが広がっていく。


 ……これがステータスを得る感覚か。



【ステータス付与が可能となるのは、殺した対象のみです】



 なるほど。ステータスを奪うには殺さなきゃダメなのか。

 スキルのように戦っている途中で、というのは出来ないらしい。


 流石に、そこまで楽は出来ないか。


 私が殺した魔物は数百。

 そいつらが持つステータスは、私のものとなった。


「おお、軽い軽い!」


 試しに走ってみたら、今まで以上に早く走ることができた。

 急に強くなった影響で、まだ少しの違和感はあるけれど、動いているうちに馴染むと思う。



「はぁ……いい収穫だったな!」


 その足のまま、帰路に着く。




 これで私はもっと強くなれる。

 それがわかって嬉しくなった。



 だから──



「もっともっと殺して、私のステータスにするんだ」


 魔物相手なら問題ない。

 だって奴らは殺すべき『敵』だから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] さてさて。愛なんて上等なモノでなく、痛みしか貰えずに育った愛し子?が、いつ変われますかね~。 今はまだ愛(書いてて気恥ずかしい)を受け取って感じられる程には満たされてないけど、その内何かあ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ