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転生少女は欲深い  作者: 白波ハクア
少女学園編
36/64

第34話 決意を新たに

 あの日から私への虐めは続いた。

 何かがあるごとに私にちょっかいを出し、わざと聞こえるように悪口を言う。

 実技訓練では大人数で私を囲い、魔法の的にされた。


 誰かをそういう虐めの的にするのは慣れているのか、先生にはバレないようにしていた。

 先生が何かを指導している時は、ただ私を変な目で見つめ、ヒソヒソと陰口を言う。

 先生が目を離したか、別の場所に行った時を狙って、非情な暴力や暴言を吐いてくる。


 クラスメイトは傍観していた。虐めの首謀者達は貴族の中でも上の立場なのか、それとも注意して自分が的になるのが怖いのか、私が虐めを受けているのをただ遠くから見つめるだけだった。


 それでもレティシアだけは注意してくれようとしていた。

 でも、彼女に迷惑をかける訳にはいかないので、私が止めていた。


 ミコ先生は何かを察している様子だった。

 虐めに気が付いているような言葉を、意味有り気に言っていた。クラスメイト達はそれに気が付いていない。

 でもそれだけで、虐めを注意しようとはしない。


 多分、自分のことは自分でやれ。ってことなんだと思う。


「──はい、じゃあ今日の講義は終わり。みんなまた明日ねー」


 今日の講義が終わった。


 私は素早く荷物を纏めて、教室を出る。


「あのカガミ……?」


 声を掛けられた。

 振り向くと、心配そうに私を見つめるレティシアがいた。


「今日、私の友人と学園内の施設に遊びに行くのですが……カガミもどうですか?」


 明らかに私を気遣ったような言葉。


「いや、私はいいよ。行っても迷惑だろうし」

「迷惑だなんて、そんな……」

「とにかく、私はもう寮に戻るよ。じゃあ、また明日」

「……ええ、また、明日」


 私は笑顔で挨拶し、その場を後にする。


 途中、いつもの人達が私を探しているのを見かけたけど、気配を殺して寮までたどり着いた。

 ……こうして隠れるために、強くなったんじゃないのに……あのことがあってから私は、精神的にダメになってしまっていた。


 お父さんはここに居ない。居る訳が無い。

 それなのに、どこかで私を見ているんじゃないか。こうして怯えている私を見て、ニヤニヤと粘つくような笑みを浮かべているのではないか。


 そんな気がするたびに、私は恐怖でおかしくなりそうになる。


「はぁ……」


 ベッドに横になる。


 最近、溜め息ばかりをついているな……。


 溜め息を一つ吐くと、幸せが一つ逃げていく。

 そんな言葉を誰かが言った。


 でも私は思う。

 幸せが無いから、私は溜め息を吐いているんだ。

 失うものなんて、もう無い。


「って、どうでも良いか」


 私が不幸か幸せかなんて、どうでも良い。


 今は、この現状をどうすれば良いかを考えるだけだ。

 ……と言っても、良い方法なんてそう簡単に思い浮かばない。

 一度、しっかりと嫌だよ伝えようかと思った。でも、その時になって父親の顔を思い浮かべてしまい、何も出来ないまま情けなく逃げることを繰り返していた。


 気絶することはなくなったけど、心臓は今すぐにでも爆発しそうなくらい、ドクドクと鼓動が早くなる。

 嫌な汗もびっしょりで、全力で走った後のようになっていた。


「……そうだ。エリスからの手紙が来ているんだった」


 寮に入る時、私宛てにと寮母さんが渡してくれた手紙だ。

 裏には『エリス・ヴァーミリオン』と書かれていた。


 封を切り、中の手紙を取り出す。



『学校が始まって一週間。もう寮の生活には慣れただろうか?


 私はお前が心配で、夜も十分に眠れない。カガミは優しい子だ。誰よりも辛い思いをしているのに、それでも誰かに迷惑をかけないようにと気を使う。そんな子だ。その性格のせいで、今も何かに巻き込まれているのではないかと心配している。


 私はお前を守ると誓った。何か困ったことがあれば、遠慮なく言って欲しい。陛下の護衛をすぐに放り投げ、学園に駆けつけてやる。……と言っても、お前は遠慮するのだろうな。


 だから一つだけ忠告しておく。

 気にするな。何かに邪魔されても、誰かに何かを言われても、カガミは自分のしたいことをやれ。お前はまだ子供だ。他人のことを考えるのは、後でで良い。大丈夫だ。何かをやらかしても、私が陛下を脅し──説得して何とかしてやる。だからお前は、好きにやれ。壁にぶち当たったら、深く考えず、無理をせず、自分に出来ることをやれ。


 ……少し、うるさく言ってしまったが、お前はこれくらい言わないと変に自分を塞ぎ込んでしまうのは、理解している。


 私は何があってもお前の味方だ。それだけは知っておいてくれ。


 長くなってしまったが、カガミが有意義な学園生活を送れるよう、祈っているよ』



「──ふふっ、エリスらしいや」


 私はいつの間にか、笑顔になっていた。

 人を安心させようと思って作っている笑顔ではない。

 心から笑って、楽しんでいた。


「あぁ……エリスに会いたいなぁ」


 こうして手紙でやり取りをしていると、余計にエリスと会いたくなってしまう。


「エリスは、すごいなぁ……」


 偶然なのかもしれないけど、私が困っているのをちゃんと予想していた。


 ──気にするな。カガミは自分のしたいことをやれ。


「私の、したいことか……」


 虐めてくるクラスメイト。

 父親の幻影。


 怖い。

 思い出しただけで、体の震えが止まらない。

 でも、このままビクビクと震えて足踏みをしているだけでは、私がここに来た理由がない。


「わかったよエリス。……まだ時間は掛かるけど、頑張ってみる」




          ◆◇◆




 後日、私はいつも通り教室に来ていた。

 まだ朝早いせいで、クラスメイトは疎らだ。


「おはようございます、カガミ」

「ああ、おはよう。シア」


 レティシアが教室に入って来た。

 いつもは眠そうな顔をしているのに、今日はなんかキリッとしている。

 まるで、何かを決意したような顔だ。


「……カガミ、私、昨日の夜に考えました」

「うん? 何を?」

「一つ、私のわがままを聞いていただけないでしょうか?」


 レティシアは真っ直ぐに私を見つめる。


「私、レティシア・エル・オードヴェルンは、カガミに──決闘を申し込みます」


「…………は?」

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