第33話 新たな友達
次に私が目覚めた時、そこは見覚えのない天井だった。
「ここ、は……?」
「──気が付きましたか?」
白いカーテンの奥から、女の人の声。
「レティシア?」
「はい、私ですよ」
カーテンの間を割って来たのは、この国の王女様、レティシアだ。
「ここは、何処なの?」
「医務室です。カガミさんが倒れているのをとある生徒が発見して、運ばれたんですよ」
「…………そう」
そうか……あの時、私は気絶しちゃったのか。
ダメだな。まだ、私は弱いなぁ……。
あの人は発作で見えた幻影だというのは理解していた。
でも、そう理解をしていても、脳と体が恐怖を覚えている。
いざ前にしてしまうと、あの時の悪夢が蘇る。
「──っ、何処か痛いのですか!?」
そんな焦った声を上げたレティシア。
すぐにその理由がわかる。
「泣いているの……?」
私は泣いていた。
これは父親からの恐怖ではない。
悔しくて、ここまで強くなったのに、何も出来なかった私がみっともなくて、泣いているんだ。
「……剣。私の剣は何処?」
「剣ですか? はい、どうぞ」
レティシアが渡してきたのは、黒と白両方の剣だ。
魔剣アトラク・メレヴァは側に置いて、私はもう片方の剣。エリスからの贈り物を抱きしめた。
──良かった。
これがなければ、私はもっとダメになっていた。
「……余程、大切な物なのですね」
「うん、エリスがくれた、一番大切な物」
「これもあなたを運んだ生徒が持ってきてくれたらしいですよ──っと、噂をすれば、帰って来ましたね」
廊下から響く足音。
それが徐々に近づき、ガラガラと扉が開かれる音が聞こえた。
「ごめんねぇ、先生への事情説明が長引いちゃって……」
「いえ、今ちょうど起きたところです」
「おー、それは好都合だぁ」
ピョコっとカーテンの間から、女の子が顔を覗かせる。
人形かと思うくらい可愛い子だ。
でも、不思議と目は何処か気怠そうに細められている。
灰のように真っ白な髪を、大きく二つに纏めていた。
「初めましてー、無事に目が覚めたようで、安心したよー」
「あなたが私を運んでくれたの? ありがとう。私はカガミ、よろしくね」
「ボクはミーアだよ。平民だから下の名前はないんだぁ。よろしくねぇ」
私とミーアは握手する。
びっくりするくらい冷たい手だった。
「本当に驚いたよ。校内を散歩していたら、倒れている人を見つけちゃったんだもん。しかも、その人は今一番注目を浴びている子だったからねぇ」
「私のことを知っているの?」
「勿論だよ。入学式で騎士隊長様と一緒に来て、しかも人数に限りがある特生クラスに入ったんだもん。これで注目しないなら、何に注目しろって言うの?」
「うぐっ……確かにそうだね……」
「本当は何かして上げたらお金をもらうのが、ボクの主義なんだけど……今回はサービスしてあげる。その代わり、お友達になってよー。君達といると、面白そうだ」
その言葉に、少し違和感を感じた。
でも、ミーアは別に変わった様子はない。
ちょっと、人間不信になり過ぎているのかな。
きっと勘違いなのだろうと、私はそれ以上気にしないことにした。
「私は喜んで」
「ええ、私も、お友達が増えるのは嬉しいことです」
「やったー、何か困ったことがあったら、ボクに言ってね。これでも結構顔は広いんだぁ。良い情報をあげられるかもしれないよ。勿論、次からは情報料を貰うけどね」
本当に不思議な子だな、と思った。
私相手にはまだいい。
でも、王女様相手にしても、ミーアは一切緊張した様子は見せない。
「それじゃ、もう遅いからボクは帰るね。またねー」
ヒラヒラと手を振って、ミーアは医務室を出て行った。
残された私とレティシアは、その自然な素早さに呆気にとられていた。
「なんか、不思議な子でしたね」
「そうだね……」
でも、あの子は情報屋として優秀なのかもしれない。
注目の的である私達相手に、嘯くメリットがない。
だから、信用していいと私は思う。
私はまだ何も知らない。
この学園のことも、異世界のことも何もかもだ。
だから、こういう味方がいれば少しは心強い。
「それで、カガミはどうして倒れていたのですか? 外傷は見えないとのことでしたが……」
レティシアは心配したように、私の顔を覗き込む。
その問いに、私はまたあの時のことを思い出して────
「うっ! ……くっ、ああ」
「大丈夫ですか!?」
「……はぁ、はぁ……ごめん…………今は、言いたくない」
「…………わかり、ました。もし、何かあったらすぐに言ってください」
「うん、私は大丈夫。大丈夫だから、心配しないで……」
私は、レティシアを心配させないために頑張って笑顔を作る。
……でも、その笑顔は、上手く出来ていなかったんだろう。
レティシアの瞳に映る私は、魔族を単独で撃退した少女とは思えないほど、とても弱々しく見えた。
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