第30話 本気半分
後日、私のクラスは学園に設置されている訓練場へとやって来ていた。
今日は実技の授業だ。
初日ということで魔法適性とある程度の実力を調べるらしい。
──魔法。今までそれらしものを見たことがないので、この世界の魔法はどんなものなのだろうと内心ワクワクしていた。
もしかしたら自分も使えるようになるかも、と思っていたりするけど、流石にそんな簡単に魔法を使えるようになるなんてことは──
【承諾。魔法適性を取得しました】
出来ました。
相変わらず強欲のスキルは規格外だなと思いながら、大人しく先生の説明を聞く。
「はーい、今からみんなには、この的を攻撃してもらいまーす」
まず最初にやるのは、それぞれが得意な攻撃、打撃、剣、魔法、好きなものを人の形をした的に当てるというものだった。
その威力を見て実力を定めるらしい。
お嬢様学校なのに戦闘訓練が必要なのか、と少し思ったところはある。実際にクラスの誰かが先生に質問した。
「普通ではやらないことだけど、自分を守れるくらいの力は、最低限持っておいた方がいいよー。……いつ何が起こるかわからないからねぇ」
そんな先生の回答に、私はその通りだと思った。
お嬢様には護衛が付くのだろうけど、それは常にではない。お風呂やトイレ、護衛と離れた時に何かが起こったら、それは己の力で解決しなければならない。力を持っていなければ、簡単なことも出来ないだろう。特生クラスの実技練習は、そういう何かあった時に動けるようにやるのだろう。
「と言っても、ほとんどの人は入学試験の時にやったよね。その時と状況は同じだと思ってくれていいよー」
え、何それ知らない。
「じゃあ、今日は昨日の自己紹介と逆の順番で行こうかー」
呆然としている私を置いて、次々と指名された人が的に向かって攻撃をする。
魔法を放つ人や、剣で的を斬りつける人。それぞれいたけど、驚くことに的は無傷だった。
「的には防御強化の魔法が張ってあるからね、壊せなかったって落ち込まない方がいいよ。普通は壊せないから。……普通なら、ね」
そのタイミングでどうして、私を見つめるのですか先生。
でも、防御魔法が張ってあるなら本気でやって大丈夫なんだろう。みんな、私が驚くくらい派手な魔法を出しているし、実力は私と変わらないと思う。
「じゃあ次、レティシアちゃん」
「──はい」
と、そうこう考えていたらレティシアの番になっていた。
彼女はどんな攻撃をするのか。それが気になった私は、レティシアを凝視する。
「……あの……そんなに見つめられると緊張してしまいます」
「あ、ごめん! ちょっと、気になっちゃって……」
「い、いいえ、あのカガミさんに注目していただけるとは、嬉しいです」
……ん?
あの、ってなんだ? ねぇ、あのってどういうこと!?
「では、いきます……!」
待って! あの、って何なんですか!
レティシアのお父様から何を聞いたんですか!?
という私の心の叫びに気付かず、レティシアは目を閉じてブツブツと何かを呟いている。
彼女から感じる魔力が纏まり、周囲の温度がグンと下がった。足元が凍てつき、レティシアの手に氷の塊が出来上がり、それがバラバラに砕ける。細かな欠片は弓矢のような形に変形して、一斉に的へと向けられる。
「氷の矢」
そして、同時に的へと勢いよく飛ぶ。
誰よりも迫力のある攻撃に、何人かは悲鳴を上げるけど、先生が張った結界のおかげでこちらに影響はなかった。
砂煙が上がった時、そこには氷漬けとなった的があった。
破壊……とは少し違うけど、誰よりも火力のある攻撃だった。
それまで「私の魔法が一番強力だった」とか「私の攻撃は派手だった」とか言っていたクラスメイト達は、もう誰も自分が一番だったとは言えなくなった。
それぞれが悔しさを顔に滲ませ、でも相手が王女だからと押し黙る。
「あはは、流石は王女様だね。その若さで、その威力を出すとか、天才と言われているだけある……」
これには先生も苦笑気味だった。
「じゃあ、この後はやりづらいと思うけど、カガミちゃんお願いねー」
「カガミさん、頑張ってください!」
新しい的が用意されて、ようやく私の出番となった。
強度は同じ物らしく、やっぱり壊すのは難しそう。
「一応本気でやってもらいたいけど、あれ以上に頑張らなくていいからね」
と、先生は言ってくれた。
「わかりました。半分本気でやります!」
私の選んだ攻撃方法は──剣だ。
でも、的の強度はとても高そう。ってことは、魔装を使っても壊れなさそうだな。
純白の剣を引き抜き、構える。
魔力を纏わせると、一瞬にしてアトラク・メレヴァのような漆黒の剣に変わった。
「すぅ、はぁ……」
精神を落ち着かせ、深呼吸。
的に全神経を集中させ、横に両断するイメージを作る。
「ちょ、ちょっとカガミちゃん……?」
先生が何かを言っているけど、全神経を研ぎ澄ませている私は、その呼びかけに気が付かなかった。
「──フッ!」
息を吐き出し、一閃。
数秒遅れて、的が斜めに崩れ落ちた。
攻撃が通り過ぎたのか、後ろの方の壁にも深い傷が刻まれている。
「……ふぅ」
張り詰めていた気を解き、剣を鞘に収める。
「やった、壊せた! 先生、どうでし──先生?」
何も反応がないことを不思議に思って後ろを振り返ると、先生だけではなく、レティシアや他のクラスメイトが、口を大きく開いたまま固まっていた。
みんな、馬鹿みたいな格好だ。
そんなに的を壊すのが意外だったか?
「……し……」
「し?」
「死ぬかと思った」
「酷くないですか!?」
やっと言葉を発したと思ったら、予想していなかった感想を言われた。
何だ、死ぬかと思ったって……私はそんなに全力を出していないのに大袈裟だ。
「ああ、確かにカガミちゃんは、普通を知った方がいいかもねぇ……」
と、先生はガイおじさんのようなことを言った。
解せぬと思うけど、もしかしたらその通りなのかもしれないので文句を言えない。
でもやっぱり解せない。
なので私は、不満を隠さずにプクーと頬を膨らませた。
こうして全員分の実力は試し終わった。
次は魔法適性だ。




