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転生少女は欲深い  作者: 白波ハクア
少女転生編
14/64

第13話 魔族の襲撃

「──ふっ!」


「ギャンッ!?」


 私は小さく息を吐きながら剣を振り、異形の生物──魔物は真っ二つに両断された。討伐した証として魔物の一部を切り取り、腰に下げた袋に入れた。


「ふぅ……ここら辺の魔物は狩り尽くしたかな?」


 周囲を見回す。そこには先程の魔物と同じように、真っ二つに両断された魔物の死体が横たわっていた。鉄臭い

血液が地面に溜まり、剣で戦っていた私も少しだけ魔物の返り血を浴びてしまっていた。これでも女の子だ。自分の臭いには敏感になる。


 沢山狩るつもりで持ってきた大きめの袋は、すでにパンパンになっていた。一人だったら収納を使いたいところなんだけど、今日は残念ながら一人じゃない。

 力が強化されるスキルを持っているので重いとは感じないけれど、動くのに邪魔だ。間違えて袋ごと魔物を斬りそうになる場面が少なからずあったので、そろそろ一回冒険者ギルドに帰って返金してしまおうかな。


「……お疲れ様。本当に強かったのだな、カガミは」


「あ、エリス。そっちは大丈夫だった?」


「問題ない。お前ほどではないが、これでも騎士だからな。今更、魔物相手に遅れは取らないさ」


 エリスが何故ここにいるのかと言うと、私が早速魔物を狩ってくると言った時、まだ心配だからと強引に付いてきたのだ。

 私は別に大丈夫だからエリスは休んでいて。と言ったんだけど、自分が狩った魔物の分の報酬も私の資金にしていいとまで言われてしまったら、拒否することは出来なかった。勿論、報酬を貰うのはやり過ぎだと思うので、山分けという話で落ち着いた。


「…………ふむ……」


「どうかした? 何か考え事でもありそうな顔してるけど」


「……ああ、いや。何となくなのだが、ここは街の近くなのに、妙に魔物の数が多いと思ってな」


「そう? ……うーん、私は初めてここに来たから普通の数がどうかわからないけど、確かに多い気はしたね。今日はたまたま冒険者が魔物狩りをサボったんじゃない? そのおかげで私達は稼げているんだし、ありがたいと思った方が得した気分になるよ」


「……それもそうだな。よし、一旦ギルドに戻ろう」


 結局、街の周囲に出る魔物は弱すぎて、私一人で十分だった。

 エリスも流石に暇になったのか、途中から手分けして魔物狩りをしていた。

 ただ、エリスが言った通り魔物は沢山いて、次から次へと私達に襲いかかってきた。今更その程度で尻込みする私達ではなく、むしろ金が自分からやって来たと相手をしていた。


 そのおかげで稼ぎは順調だ。


 初めて自分で稼いだお金は何に使おうか。

 今持っている剣は拾い物だから、もう少しいい物に買い換えるのもありだ。これでまた美味しい物を食べ歩きするのもいい。戦いに邪魔にならないアクセサリーを買って、おしゃれをしてみたい気もする。


「ふふっ……♪」


「なんだ、突然笑って」


「いや、こうして自分で稼いだお金で、好きな買い物ができるっていいなと思ったの。私は少し前まで父親のせいで外に出ることがなかったから、使い道を想像するのが楽しいんだ」


「──っ! カガミ、今日も好きな食べ物をご馳走してやるからな。遠慮しないで食べてくれ」


「え、うん……ありがとう?」


 急にどうしたんだろう。まぁ、奢ってくれるなら遠慮なく貰うけど。

 時々思うけど、エリスは尽くすタイプだ。仲が良くなっただけの私なんかに、普通の人はここまでしてくれない。ただ単純に優しいってのもあるのかもしれないけど、やっぱりエリスの人のよさが出ている証拠なのだろう。


 こういう人との関係は大切にしていかなければならない。前世で人と交流したことのない私でも、このくらいはわかる。


「ねぇ、エリス?」


「ん、なんだ?」


「これからも、仲良くしてね」


「な、何だいきなり! お、おお大人をからかうのも大概にしろ!」


「あちょっと、待ってよー、エリスってばー」


 エリスはスタスタと早歩きで行ってしまう。

 だけど、一日中エリスと一緒にいた私ならわかる。あれは照れている顔だった。ほんと、素直じゃないところもエリスらしい。それが微笑ましくなって、私は彼女の背を追いかけたのだった。




          ◆◇◆




 微かな変化に気づいたのは、街に入ってからのことだった。

 妙に奥の方が騒がしい。行き交う人々が、忙しなく動いている気がした。


「──っと」


 冒険者らしき人達が、無駄に殺気立った様子で奥の方へと走っていく。周囲に気を配っている暇などなく、ただ急いでいる感じだった。もう少しでぶつかるところを、私はギリギリで避けた。こちらに目を向けず、冒険者の一団は行ってしまった。


「カガミ……」


「うん、わかってる」


 これは奥の方で何か起こっているに違いない。

 私達は特別相談することなく、短いやり取りだけして走り出した。


 すぐに変化は訪れた。

 喧騒の音と共に女性の悲鳴のような声が、やはり奥の方から聞こえてきた。

 どうやら本当に異変が起こっているらしい。それを悟った私達は、互いに目配せして走る速度を上げる。奥に進む度、反対方向に走って行く人が多くなる。それに比例して喧騒の音はより大きなものとなっている。激しい爆発の音も響き渡り、若干地面が揺れた。


 ここまで来ればもうわかる。

 これは喧嘩などという可愛いレベルの音ではなく、誰かが本気で戦っている戦闘音なのだと。


「そこの通路を曲がった先だ!」


 エリスが指差す。

 ここを曲がった先。……私の記憶が正しければ、そこは朝方に子供達が遊んでいた広場だったはずだ。


 一気に速度を上げ、広場に辿り着く。


「……なに、これ…………」


 まだ記憶に新しい広場は、その面影がないほど破壊の限りを尽くされていた。

 想像していたよりも酷い現状を見て、私は呆然とその場に立ち尽くす。遅れて到着したエリスも、剣を抜いた状態で立ち止まり、驚愕に目を見開いていた。


「──あぁ?」


 広場の中心。噴水があった場所には、一人の男が悠然と立っていた。

 問題なのは彼の周りだ。大勢の冒険者が、力なく横たわって血を流している。どう見ても中心にいる男が何かしたと思われる状況に、エリスは我に返って剣を構える。


「何だよ、まだ俺様に殺されたい奴が残っていたのかぁ?」


 男は獰猛に笑う。感じたことのない圧力に私は一歩後退した。


「……貴様、魔族だな」


 エリスは警戒したように問いかけた。

 それでも男は笑みを消さない。むしろ面白いと言うように笑みが濃くなった。


 ──魔族。遥か昔から人間と敵対してきた種族。

 まさか、こんなところで会うことになるとは思っていなかった。


「あ? ……何だよ。お前、魔族と会ったことあんのかよ。ははっ、そうだ。俺は魔族だ」


「どうして魔族がここにいる! どうやって入り込んだのだ!」


「どうやってだぁ? ちょいと協力してもらったのさ。案外簡単だったぜ?」


「協力だと? まさか人間が魔族に協力したとでも言うのか……」


「さぁ、どうだろうなぁ?」


「…………教える気は、ないようだな。ならば、力づくで吐いてもらう!」


「ハッ! そう言うと思ったぜ。だが、俺様は強いぜぇ? お前さんは魔族と会ってことがあるらしいが、そいつと俺様を同じだと思わないことだ。自信満々に掛かってきた奴は何人か居たが……はっ、どれも上っ面だけでつまらねぇ。……ほら、こいつも威勢だけはよかったが、やって見たら肩透かしだったぜ」


 魔族は一番近くに倒れていた人の頭を掴み、乱暴に持ち上げた。

 その人物は、私がよく知っている人だった。


「──っ、ヴィレッジさん!」


 信じられない。

 数時間前まであんな元気にお酒を飲んでいたヴィレッジさんが、全身から大量の血を流している。

 あの人は決して弱くはなかった。むしろ試験監督に呼ばれるくらいだから、相当強い部類だったはずだ。それなのに、魔族はそんなヴィレッジさんを肩透かしだと言った。


「──ガッ! はぁはぁ……に、げろ……」


 幸いなことに彼はまだ生きていた。だけど、すぐに治療しなきゃ危ない状況なのは素人の私の目から見てもわかった。

 それでもヴィレッジさんは息も絶え絶えに、私達に逃げろと言った。


「こいつは……普通の魔族じゃ、ねぇ……頼む、逃げてくれ」


「何だよ、まだしぶとく生きていたのかぁ? ははっ、少しは見直した、ぜ!」


「ガ、ァアアアアアアアアアッ!!」


 ヴィレッジさんが苦しそうに呻く。それを聞いていられなくて、早く助けなきゃと思って私は剣を────


「やめろ!」


 そこでエリスは叫んだ。初めて聞いた彼女の大声に驚いて、私は止まった。

 その言葉はどっちに向けて言ったんだろうか。……きっと、どちらにもだ。


「魔族、その者から手を離せ」


「……あぁ、なんだぁ? お前もやるってのか? クハハッ! いいぜぇ、こいつにもう用はねぇ!」


 魔族は乱暴に放り投げる。地面をバウンドしながら転がり、ようやく止まって何度もヴィレッジさんは咳き込む。


「カガミ、これを……」


 エリスは私に水色の液体が入った瓶を渡してきた。


「傷が癒えるポーションだ。これを奴に飲ませてやってくれ。そして、安全な場所まで逃げろ。お前の力なら、あの巨体でも運べるだろう?」


「…………エリスは、エリスはどうするの?」


「私は騎士だ。目の前に敵がいるのに、逃げることなど出来るわけがない」


「そんな、やだよ……! 私もたたか────」


「カガミ!」


「っ、くっ……わかった…………」


 私は瓶を受け取り、ヴィレッジさんを担いでその場から離れようとする。


「──おい、俺様が逃すと思っているのか?」


 いつの間に移動して来たのか、目の前に魔族がいた。

 そいつは私を確実に殺そうと、蹴りを放つ。


「させない!」


 すかさずエリスが間に割り込んで、私を守ってくれた。


「エリスッ!」


「う、ぐっ……早く行け!」


 私は泣きたかった。どうしてこんなことになってしまったのと、子供のように泣きたかった。でも、それをしたところで何も変わらない。むしろエリスを困らせるだけだとわかっていた。

 だから私は涙を堪え、体を張って時間を稼いでくれているエリスに応えるため、震える体に鞭打ってその場を離れた。

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