怪物
「恐れるな勇敢なる兵士達よ! 我々は今日、魔族との決戦に来た! ならばこそ、こんな訳の分からない怪物一匹恐るるに足らず! この私自らが邪悪なる怪物を成敗してくれようぞ!」
するりと引き抜いた剣を構え、将軍は意気揚々と怪物につめよる。
将軍は魔王軍の幹部をも一騎打ちで仕留めたことがある剣豪だ。いかに未知の怪物とはいえ負ける気は無い。気迫を漲らせて淡々と穴を掘っている怪物に目がけて剣を振るった。
長年の鍛練が可能とする華麗とも呼べる美しい剣撃。
しかし結果から言うと怪物はその一撃を避けようとすらしなかった。鋭い剣の一撃は穴を掘る怪物の背中を深々と切り裂く。
肉が裂ける音と供に怪物はドウと地に倒れ伏した。
沸き上がる歓声。
流石は将軍閣下と怪物を倒した彼を褒め称える声。
しかし当の将軍本人は真っ青な顔をして額からつぅーっと一筋の冷たい汗を流していた。
(・・・今の感触・・・違う。違う。コイツはまだ死んでなんかいない!?)
怪物の背を切り裂いたその手に伝わってきたのはその巨体の皮膚の下に存在する強靱な筋肉の感触。
切り裂いたのは表面だけ・・・致命傷には至っていない。
「う・・・うぉおおお!!」
半狂乱で倒れた怪物に向かって再び剣を振り上げる将軍。勢いよく振り下ろされた剣を受け止めたのは巨大なスコップの刃先だった。
硬い金属同士がぶつかり合う澄んだ音と供に自慢の剣がスコップによって破壊されるのを目撃した将軍はその目を見開いて驚愕する。
のっそりと立ち上がった怪物は呆然としている将軍の顔に向かってニュッと無骨な手を伸ばすとその顔を右の手でがっしりと握り締めた。
そしてあまりにも呆気なく、将軍の頭はグシャリと握りつぶされる。
力を入れたようには見えなかった。人間の頭蓋がまるで柔らかいものであるかのように自然な動作。怪物の手にはべっとりと将軍の脳漿がこびりついていた。
あまりの出来事に周囲が再び静まりかえる中、怪物はまた興味を失ったかのように穴を掘り始める。
そのあまりの異様さに周囲に居た兵達は声を上げて一斉に逃げ出したのだった。
◇