召喚されたのは・・・
100年もの長きに渡り続いていた人と魔族の大戦。拮抗していた二つの勢力図が今変わろうとしていた。
人間側による秘密兵器、即ち異界から力ある者を召還する秘術によって勇者が召還されたのだ。
召還された勇者は怒濤の勢いで戦線を押し上げていき、拮抗していた戦場をあまりにも呆気なくひっくり返した。
しかし魔族側の悲劇はそれだけでは終わらなかった。
最初の勇者召還に成功した人間側はその成果に味をしめ、なんと再びの異世界者召還を試みたのだ。
二番目に召還された異世界人も先人と同じく凄まじい力を有していた。二人の異世界人の手によって壊滅寸前まで追い詰められた魔族達は最後の手段に出ることを決意する。
餅は餅屋。
異世界人には異世界の存在で対応するのだ・・・。
「魔神様・・・もはや限界でございます。人間の軍団はすぐそこまで迫ってきております・・・幸いあの異世界人どもは来ていないようですが、それでも弱り切った我が軍で対処することは難しいかと」
困り果てたような顔をして懇願する魔王を見て、魔神は重々しい表情で頷いた。
「確かに・・・このままでは敗北は必至か。よかろう、我が力にて異世界よりこの状況を打破し得る怪物を召還しよう」
そして魔神は考えた。
人間側に召還された異世界の人間二人の強さは異常である。恐らくは召還される際にこの世界の神々から何らかの干渉があったと考えるのが自然だろう。
しかし今から召還する存在に魔神自ら力を受け渡している時間は最早無い・・・何せ人間の軍団は既にそこまで迫って生きているのだから。
だから魔神は決めた。
力を託すまでも無く既にその存在そのものが人類の驚異になり得るであろう異世界の怪物を召還すると。
魔神は異世界の事情にそれほど詳しいわけでは無いが・・・風の噂では異世界ではケルベロスという名の三つの首を持つ怪物や鬼と呼ばれる二本の角を持つ剛力の亜人など、たくさんの怪物が存在しているらしい・・・ならば人類への驚異になり得る存在という緩い召還設定で召還術を行ってもそれなりの存在が召還されるだろう。
「フヌヌ・・・我が呼びかけに答えて出でよ! 異界の怪物よ!」
いちいち状況を説明している暇は無い。
召還座標は人間の軍団の真ん中。召還された瞬間に怪物が暴れ回ってくれる事を期待しての事だった。
大量の魔力が体から吸われていく感覚・・・どうやら召還は成功したらしい。
「クク・・・さて、どのような怪物が現れたか見てやろう」
魔神は懐から遠見の水晶玉を取り出すと台座に置き、水晶玉に魔力を込める。魔力に反応した水晶玉のその透明な中身がゆらりと揺れた。
やがては水晶玉の中に景色が現れる。
それは魔神が召還した怪物を取り囲む人間の軍団の姿だった。
まさに魔神の召還術は寸分の狂いも無く敵軍の真ん中に怪物を放ったのだ。しかし魔神はその様子を見てポカンと間抜け面で口を開けた。
「・・・・・・なんだアイツ」
◇