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義妹と畳は新しい方がいいよね  作者: 杉村風太
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プロローグと第2話 「えっ、えーーーっ!」

プロローグ


 新しい妹にキスしているところを古い妹に見られた。

―――――――――――――

 夏休みが終わる少し前、我が家に新しい妹がやってきた。妹といっても3カ月違いなので、新学期からは同級生だ。名前は瑞希(みずき)さん。古い妹、なんて言ったら怒るだろうが、前からいる妹は充希(みづき)だから、ややこしいこと富士の樹海のごとしだ。それに新しい方が姉だというのもね。


2 「えっ、えーーーっ!」


 ***のがすなチャンスを いまこの時がその時かもしれない***

                   (「のがすなチャンスを」鈴木康博)


  2学期が始まっても30度を超える日々が続いていた。そのクソ暑い帰り道。

「家に着いたら充希(みづき)に聞いとかないとな」。

オフコースの小田さんじゃない方を鼻歌交じりに歩きながら明日の予定が気になっていた。充希(みづき)の答えによっては明日の自分の行動がどう分岐するか。シミュレーションしながら炎天下をぼーっと歩く。家に入ると、ちょうどリビングに充希(みづき)がいた。


「みづき、明日のことなんだけどさ」


振り返ったのが充希(みづき)ではなく瑞希(みずき)さんだと気づくのに2、3秒かかった。


「ごめん。まちがえちゃった」


 自分のミスに動揺したが、それ以上に瑞希(みずき)さんの不審者を見るようなショックを受けた表情がショックだった。

だが、似ていたのだ。家の中でしか使わないめがねをかけ、パソコンの液晶画面に向かってキーボードを打つ斜め後ろからの横顔が。服の微妙なセンスやいつもと違う髪形も。

初めて2人は本当の姉妹なんだと思った。

パニックを起こしたおれはそのまま自室に逃げてしまった。


 夕食の時も、瑞希(みずき)さんはなんだか冷たくよそよそしい感じがした。いや前からか。


 一緒に帰ったのは瑞希(みずき)さんの転校初日となった始業式だけだが、2人での登校は何となく習慣になっている。同じ家から同じ教室に通うのだから別々に行く方が不自然かもしれないが。


「昨日はごめん」

「そんなに似てました?」

「全然似てないですよ。ぼーっと考え事しながら帰ってきたから。角度でそう見えちゃったっていうか」

充希(みづき)ちゃんのこと考えてたんですか」

「うん、あいつに相談しなきゃならないことがあって」


で、考え事に没頭して、今は家に充希(みづき)とは別に女子がいる事実が脳裏からすっぽり抜けていたのだ。


「気にしないでください。男の人にあんな風に呼ばれたのは初めてだったので、少しドキッとしただけですから」


あの顔はそういうことか。嫌悪の表情じゃなくてホッとした。


「俺だって女子を呼び捨てにしたことなんてないですよ」


 名前どころか、名字を呼び捨てにできる程度に親しい女子すらあまり記憶がない。もちろん、充希(みづき)はおれにとって女子ではない。ということは瑞希(みずき)さんは俺にとって初めて下の名前で呼んでいる異性なんだ。

しょうもない物思いにふけっていると、瑞希(みずき)さんが急に立ち止まった。体ごとこちらを向いた。


「ドキっとしましたか」

「いやあ、そりゃあ、まあ、もちろん」


ドキッとしたのは「不審者を見るような目で見られたっ」と思ったからなんだけど。

両手で手を握られた。


「わたしはまだちょっとドキドキしてます」


気づいたら、おれは。

えっ、えーーーっ!

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