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L-cone  作者: 王生らてぃ
第二章
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【Epilogue】天沼揺の消失

   【Black/O】




「揺が消えた」。

 たったそれだけのことだった。











「どうして……?」



 母さんは工房の奥でずっとすすり泣いている。その声だけがずっと、漏れてくる。



「どうして、どうして……? どこに行ったの揺? どうして消えてしまったの? ちゃんと、ちゃんとこのベッドの上で寝かしつけていたはずなのに……どこにいったの? あら、あらら、おかしいわ? ちょっとでも目を離した私がばかだったわ、ごめんなさい、ごめんなさい揺……もう怒らないから戻ってきて頂戴、ごめんねお母さんがこんなだから、娘のあなたに、あなたにこんなにつらいおもいを……させてしまって……まだ見つからないの、揺は? 何をやっているんだ、お前たちッ!」



 ドダン! バキバキ、バタン! ガシャン、チャラチャラ……

 こうやって癇癪を起した母さんは、もうどうやっても止まらない。収まるまで、黙っているしかない。



「ちゃんと、ここに運んできたんだ」ソファでぐったりと横になるみらいに、「ひどい傷だったから、母さんに診せた。そしたら、魔法で治療するからって、工房の奥に連れて行って……」

「それで、いきなり消えたっていうの……?」

「私にもよく分からない。揺は自分で立てるような状態じゃなかったし、勝手に出ていくなんて信じられない。だから、考えられるのはふたつ。ひとつは、揺のやつの魔法が暴走して、消えた――ってこと」







 揺の魔法。

 それは、自分の魂を分割して、自分と変わらない分身をいくつも生み出すこと。いくつも増えたそのすべてが「天沼揺」であり、自分の意思を持って動き、それぞれが本人であるかのように振る舞う。

 私たちがここまで『黒ライター』を街じゅうにばら撒くことができたのも、揺のこの魔法が無ければ、もっと時間がかかっていたことだろう。揺ひとりで、百人、二百人と同じだ。



 けれど、この魔法には弱点がある。

 数体程度の分身なら、「本体」が意志を持って統率し、単純に分身として使うことができるが、あまりに分身の数が増えると「本体」が消失するということだ。自分自身の魔力――すなわち魂を分割しているので、数を増やしていくたび、本体それ自身と分身との区別があいまいになっていく。



 きっと揺は、今回の戦いで魔法を全力で使ったのだろう。それによって「本体」の存在が限りなく薄くなってしまった。そして力が薄くなり、消えてしまったのだ。

 こうなってしまっては、どうやって揺を見つければいいのか、見当もつかない。この広い東京の、一千万人の中から、偶然消えずに済んだ揺の分身を見つけ出せれば、あるいは可能性がある。けれど、オリジナルの『紫のライター』を無くしてしまった今では……






「もうひとつは、『誰かが連れ去った』かしら……?」



 みらいの言葉にうなずく。彼女は呻きながら、ソファから起き上がる。



「っ……!」

「やめなよ。無理するな」



 身体じゅう、包帯でぐるぐる巻きのみらいは、身体をすこし動かすだけでも骨や肉が軋む音が聞こえてくるかのようだった。ただの包帯じゃない、びっしりと黒いペンで呪文が刻まれた、母さん謹製の『魔法の包帯』だ。でも、それが逆に痛々しい――まるで身体じゅうに呪いの言葉を刻みつけられているようで……



「誰かが、揺の本体を捕まえて……連れ去った……母さんの目を盗んでそれができるとは、思えないけれど……」

「揺が自分で動けないことを考えると、そういうこともあるかもしれない」

「探しに行かなくちゃ……っうぅ……!」

「だから――うぜえって! 動けねえんだから黙って横になってろよ、鬱陶しい」

「でも、母さんが悲しむわ、それに……」

「分かってる……」

「揺だって……わたしたちの、家族ですわ。血のつながりはなくたって……」



 ああああああああああっ!



 母さんの悲鳴だけが、家の中にひたすらこだまする。



「今は休んでなよ。私、行ってくるからさ」みらいをソファの上に押し倒して、指をひゅっと鳴らす。すると、部屋のどこかからクウが飛んできた。「ついて来て。揺を探して、連れ戻すんだ。お前、街に散らばってるほかのクウに、このことを伝えられるだろ」

「了解。ついていく」






 雑居ビルの階段を上り、むっとするアスファルトの森へ這い出る。

 臭い――暑い――暗い。

 ほんとうにこの街は嫌いだ。この街に暮らす人間も。そんな私にとって、ここは唯一の居場所なんだ。



「変身」



 黒ライターのスイッチを押し、クウを伴って空へ跳ぶ。

 どこにいるんだよ――揺。


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