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L-cone  作者: 王生らてぃ
第二章
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中井明日架は謎の少女と出会う / 井荻リサは何度でも立ち上がる

「え……?」



 血がいっぱい出ている。

 背中が、異様に熱い。私はなぜか、濡れたアスファルトに倒れ伏していた。



「なに、が――」



 ど、ど、ど、ど。

 身体のあちこちから、なにかがぶつかるような音がした。熱い。痛い。

 痛い……!

 目がかすむ。何も見えない。






「こいつ、これで死んだかな? ねえ、八宵ちゃん、ねえ?」

「だめだよ、殺しちゃ。勿体ないでしょ、せっかく『純正品』の持ち主なんだから」



 だれかの声が聞こえる。

 倒れている私のすぐそばで、誰かがしゃべっている。



「どうして? こいつをやっつけろって言ったのは、八宵ちゃんなのに。あれ? なんでだろ、わたしがばかだから分からないのかな? あれれ」

「――『世界を壊そうと暴れ回る、巨大な竜を倒すのは』――『ひとりの勇敢な騎士でも、ましてや、優れた戦士でもありません』――『この世を形作る、五つの力がここに集ったときに』――『邪悪は打ち払われ、世界は救われるのです』――『そして、その者たちの活躍は、後世にまで語り継がれ』――」



「ぅ……」傷の修復に回す分の魔力すら、勿体ない……さっきまで銃身に集めていた魔力を、必死にかき集める。身体中、痛くて、重くて、熱いけれど、それでも心臓に力を込めた。

 睨み上げた。

 ぎょっとした表情でこちらを見る少女がひとり。

 本を抱えて、涼しげな表情でこちらをちらりとみる少女がひとり。



「すごい、ほんとにまだ生きてるよ、こいつ」ひとりが手に光る槍を握りながら、「どうする? まだ変身も解けてないみたい、もうちょっと痛めつけたほうがいいかな?」

「いいえ、これで充分よ。もうこの人は動けやしない――」



 すると、もうひとりがどこからか手にした分厚い本を開いた。



「『歴戦の戦士は傷つき倒れ』――『もう動くこともできません』――『怒りに身を任せ、雷光の如く駆け抜けてきた戦士は』――『ついにここで倒れてしまうのです』――」



 どずん、どずん。

 地響きが遠い。アスファルトが揺れ、突き上げられるように身体が震わされる。内臓をかき回されているようで気持ちが悪い。これほど魔法少女であることを不便に感じたことはない、傷が勝手に治っていくので、意識だけは鮮明なのだ。

 グローパーの竜が咆える。太い前肢が、地面を打ち鳴らす。



「元気に育ったね、八宵ちゃん」

「そうね、いい具合よ。この調子で――」

「危ないっ!」



 瞬時に起き上がり、脚をすくうつもりで振り回した銃は、後ろ跳びに躱されてしまった。

 銃身を展開し、照準を乱暴に合わせたまま引鉄を何度も引く。光の弾丸は魔法少女たちに吸い込まれていく――しかし、一方の魔法少女が立ちはだかった。手にした光の槍で弾丸を叩き落していく。

 ――よく見ると、その背中からは、カラスのような黒い翼が生えていた。



「どういう、つもり」

「おっどろいた。しぶといね、意外と。ねえ八宵ちゃん、とっとと殺しちゃった方がいいよ、こいつ」



 羽の生えた魔法少女が光る槍を振り回す。

 八宵、そう呼ばれた少女は落ち着き払った態度で溜息をついた。



「あなたはこれ以上、強くなる必要はないっていうのに」



 ぐおおおおおおおおおおおおおッ!

 ドラゴンの咆哮と、猛烈な衝撃。

 私の横にどさっと何かが飛んできた。それは身体じゅうぼろぼろになったみらいの姿だった。



「げほッ、ごほッ……!」咳き込むと、尋常ではない量の血が吐き出された。よく見ると、腹部にも大きな裂け目ができている。



「ああーっ、アレって『ニセモノ』でしょ? 八宵ちゃん」羽の生えた魔法少女が嬉しそうに飛び跳ねながら、「どこからか勝手に出てきた、八宵ちゃんにとって邪魔にしかならない、でしゃばりさんだよね? あれは殺していいの? ねえ、いい?」

「そうね。空ちゃん、あれは殺しても大丈夫」

「りょーかいっ」



 みらいは起き上がる。

 羽の魔法少女が光る槍を構える。

 グローパーが一歩、近付いてくるたび、大地が揺れる。



「……、ああ」



 たぶん私は疲れている。

 だから、こういうことしか思い浮かばないし、身体も勝手に動くのだ。銃を空に掲げ、残った魔力のありったけを、息と共に吸い込む。

 八宵と呼ばれた少女が目を見開いた。



「何を――」

「まずいよッ、八宵ちゃん!」






 駆け出そうとしても、もう遅い。

 引き金は、かちっと、なにも撃ちだすことはなかったけれど、代わりに落ちてきた。

 天から青い雷が銃口に突き刺さると、猛烈な閃光と爆音が辺りを包んだ。






   ○




   【Yellow】




 ここからでも分かった。

 強烈な地響き。閃光、轟音。なにより、あの雷の強さと色、尋常ではない。ひと目でわかる。

 あそこに、明日架さんがいる。



「明日架さんっ、」



 駆け出そうとして、脚がすとんと抜け落ちる。



「ダメ……だ……」



 頭ががんがんする。視界が前後左右上下に不規則に揺れて、自分がいま、どういう向きで歩いているのかもわからない。

 こんなことなら無茶をするべきじゃなかった。この身体の脱力感、明らかに、魔力が切れてしまったことが原因だ。

 さっき放った、電撃を纏った一撃。あれで、あちこちに群がるグローパーの群れは一気にやっつけたけど、代わりに私の魔力も完全になくなってしまった。ライターの中身も、すっからかんだ。

 なんとかして、魔力を補給しなくちゃいけない。



「ライター……ライターはどこ……?」



 グローパーを倒した後に落ちるはずの黒いライター。

 いくら探し回っても、見つからないのだ。あれだけ大量にいたのだから、ひとつかふたつ、見つかってもいいはずなのに、どこにもいない。こんなことならリボンで使い魔を編んで、捜させれば――とも思ったけど、そもそもその使い魔を造るだけの魔力も残っていない。

 雨がいつの間にか止んでいる。

 私は地面をはいずるようにして、四つん這いであちこちを探し回る。私の魔力が尽き、変身が解けてしまったということは――私の魔力と同調している明日架さんにも、何かしら影響が出ているかもしれない。

 さっきから何度も雷が落ちている。

 もう雨は止んでいるのに。つまり、あれは明日架さんが戦っているということだ。

 寒い――夏の夜とは思えないほど、異常な肌の寒気がする。



「早く、行かなくちゃ……」



 こんな時に限ってクウはいない。きちんと東さんのところに辿り着けたのだろうか。

 腕がぶるぶる震える。身体が縮こまって……動かない……



「は、はは……」息が白い。「こ、ここで死んじゃうのかな、か、かか、かっこわるい……」



 いや――

 息が白い?






「リサ! ねえ、リサったら」



 うっすらと、真っ赤に翻るマントが目に入った。



「つ、ばさ……」

「だいじょうぶ? すごく身体が冷たいよ……ライター貸して」ためらいなく翼は、私が握っていたライターをひったくって、「うわ、空っぽじゃないか……はあ、念のために貯めておいてよかったよ。こんなところでいったい、何があったの、リサ?」



 徐々に視界が明瞭になっていく。

 赤い魔法少女は私の瞳を覗き込むようにしながら、私のライターに次々と、黒いライターの中身を移し替えていたところだった。



「ご、ごめん……ちょっと、無茶しちゃったみたい……はは」

「無理しちゃだめだよ。リサ、ちっちゃいんだから」

「う、うるさいな……さむっ!」



 翼の手の中にある黄色のライター。中身はもう、完璧に満タンだ。

 なのに、異常な寒気だけが抜けない。



「ああ、寒いよね。ひばりさんももうちょっと加減してくれればいいのにな!」

「――――えっ?」

「さ、行こうリサ」伸ばされた手を無意識に取りながら、「明日架たちのところに! 魔法少女なら、困っている人間を助けなくちゃいけないんだ!」



 そう言って笑う顔は――

 とっても、眩しく、輝いて見えた。



「うん――行こう、翼ちゃん!」

「な――やめてよ、ちゃん、なんてさ。翼でいいよ」

「そう? なら――翼!」



 ライターのスイッチを入れる。



「変身!」

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