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L-cone  作者: 王生らてぃ
第二章
62/93

中井明日架と井荻リサは真夜中を駆ける-5

 髪の毛から滴る雨の雫が目に入る。

 それに気を取られた一瞬、みらいがすぐ目の前まで跳びかかって来て、鋭い蹴りを放とうとしていた。



「あぶっ!」



 思わずのけぞってバランスを崩す。咄嗟にリボンを生み出し、身体を引っ張り上げた。みらいの脚から、熱した油にバケツで水を注ぎこんだ時のような激しい音を立てながら、もうもうと、赤黒い蒸気が立ちのぼっている。

 身を沈めて、また跳びかかってくる。彼女が踏みつけたリボンは花火のように炎を上げて燃え尽きていく。みらいの一挙手一投足、つぶさに見て取れた。雨の中、蒸気を巻き上げながら、



「ふっ!」



 彼女の爪先を、リボンの剣で防ぐ。

 しゅぼっと炎が巻き上がった。



「あっつい!」と、咄嗟に手を離してしまったのがまずかった。髪の毛を掴まれてぐいっと引っ張られたかと思うと、目の前がびりっと弾けた。みらいの膝に打たれ、バランスを崩してふらっと、足がリボンの網から外れた。

 でも身体が動かない。

 目の前を、まっくろな影が覆った。



「死ね――」



 みなとが鋭い歯をぎらっと光らせながら、黒い鎌を私に向かって振りかざした。







   ○




   【Blue】



 いつもの銃より、軽やかで短く、私の心は踊るように軽い。ロック・チューンの気分じゃない。観客席じゅう、みんな笑顔で盛り上がれるような、アッパーな曲をめちゃくちゃに歌いたい気分だった。

つま先立ちで、重心は高く。

 片手の力を抜いて、銃身を早く。

 目の前の魔法少女は、裁縫針みたいな細長い剣を振り回しながら私に迫ってくる。鋭い軌道を描く剣を銃身で受け取め、足を払い、銃口を突き付けて放つ。



 私の魔法の銃から放たれる弾丸は雷を纏った光の形をとるけれど、今は違った。まるで短針銃投げナイフのように鋭い刃がいくつも魔法少女の胸元目がけて飛んで行く。けれど、そいつは平気な顔をして、襲い掛かってくる。

 顔を冷たい表情で固めたまま、まるで人形のように。赤い眼を光らせて、細くて折れそうな剣を振りかざしてくる。身体中に雷の刃が突き刺さっているというのに、血を流しながら、ふらつきながら、私に襲いかかってくる。



「しつっ、こい!」



 首を真っ二つに斬ろうとする軌道で振るわれる剣を弾き、心臓に銃口を押し当てて引き金を引いた。薄い胸に光る刃が突き刺さった瞬間、右手首を軸に銃を回転させ、銃床でそれを叩く。

 雷鳴がとどろいた。

 雷の衝撃が、魔法少女の身体を貫いた。服や髪の毛が黒く焦げ、細い剣は折れ、ぶすぶすと黒煙が雨の中で立ちのぼっていく。相当な高熱に苛まれているはずだ。

 でも、そいつは倒れない。



「かえ、せ……」一歩。「かえ、して。わたしの、ライター」また、一歩。「おかあさんが、待ってる、から。かえせ、かえして、かえして……」右手を伸ばす。



 ぼさっと音がした。

 そいつの右腕が肩から千切れて、雨の水たまりに落ちた音だった。黒くて大きな煙の塊が断面から吐き出された。血も滴らない。

 なにより、魔法少女なら起こって当然の、身体の再生がない。

 もう限界なのだ。服が解けていく――ただの洋服が現れ、右腕を失った少女がそこに崩れ落ちていく。膝をついて、身体から力が抜けていく。



「勝った……、」



 と、思った矢先だった。そいつはばね仕掛けのように跳ね起き、残った左腕で懐から何かを取り出した。それは、グローパーたちが身体から吐き出す、黒いライターそのものだ。



「変身――」






 スイッチを引き込んだ瞬間、魔法少女は跳びかかってくる。

 左手に黒くて細い剣を生み出しながら、鋭い一歩で剣先を突き出した。目の前で切っ先が止まり、後方へ吹き飛んでいく――一瞬早く放たれた弾丸が、魔法少女の腹部を吹き飛ばし、背中からビルの屋上を転げていく。



「本当に、しつこいな……!」

「かえせ……かえせ……かえして、かえして、かえして、」

「しつこい――うるさいっ!」起き上がった魔法少女の頭を撃ち抜く。「うるさい、うるさい――ひばりが、どんな辛い思いをしたか、わからないくせに……この、化け物め!」



 頭を撃ち抜いても、腕を撃ち抜いても、心臓を貫いても再生し続ける魔法少女は、またその場にばたりと倒れ伏して動かなくなった。変身が解け、元通りの服装に戻っていく。気が付けば、私の息は上がっていた。ライターの残量をみる――もう、残り少ない。変身が解けるのも、時間の問題だ。

 でも私には、まだやらないといけないことが残ってる。



「リサ――今行く!」



 下でふたりの魔法少女を相手取っているリサを助けようと、一歩踏み出したとき――目の前を、重くて黒い風が横切った。



「っ――なに、」



 ぎゃがががががががががががが!



 頭上から聞こえてきたのは、まるで電車の急ブレーキのような鋭い金属音だ。それも、とてつもなく大きくて、複雑に反響する。

 見上げるとそこに、巨大な黒い塊がいた。

 四本の太い脚、鋭く光る爪、長い尻尾。

 ビニールのようにてらてらした、翼。

 鋭い牙。

 そして、赤い眼――



「グローパー……なの?」



 ざっと、八メートルくらいはありそうなその怪物は、私をぎろりと睥睨して、



「ギャララララララガガガガガッグググググ」



 咆哮した。

 巨大な前肢が振り上がる、そう思った瞬間、ビルの屋上が跡形もなく粉砕された。

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