表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
L-cone  作者: 王生らてぃ
第一章
36/93

【Epilogue】魔法少女たちの夏の始まり

   【White】




 それを見たとき、私はひとりだった。



 大和と映画を見た帰り道。あたりはすっかり暗くなって、新宿の夜の光が辺りを照らしているとき――たまたま、今日グローパーと戦った場所を通りがかった。その時は大和も一緒で、何気なくふたりで歩いているはずだった。



 一瞬だけ私は見たのだ。

 あの場所に佇む――真っ白な貴婦人の姿を。彼女はその場に立ち尽くして両手を広げ、大きく息を吸い込み――恍惚とした表情を浮かべたかと思うと、長い裾をアスファルトに引きずりながらその場を立ち去っていく。



 一瞬だけ目が見えた。

 灰色の目が。

 こんなに暗いのに、どうして私は彼女の目を見ることができたのか。それは彼女の身体にぴったりと張り付くような、光のヴェールのような……



「千夏?」



 気が付くと、私はうっかり立ち止まっていた。大和が鞄の中をまさぐりながら、私に駆け寄ってくる。



「どうしたの? 急に立ち止まって」

「ううん、なんでもない」

「急がないと、ライブの開場時間に間に合わなくなっちゃうよ」



 いったい何だったのだろうか。

 たった一瞬だけ、その姿を見たのに――なぜか彼女の姿は、強烈に脳裏に焼き付いたのだ。




   ○



   【Yellow】




「りっちゃん、今日はもう休んだ方がいいわ」



 東さんの工房へ行くと、がっちり鍵が閉じられていて、中に入ることすらできなかった。私は自宅まで戻ってから部屋にこもって、何も食べず飲まずでベッドに横になり、やることもなくスマートフォンを眺めていた。



『バイトお疲れ!』



 という、駿介からの短いメッセージ。

 罪悪感と達成感が同時に襲いかかってくる。私は『ありがとう』と、ただそれだけ変身して電源を切った。



「ねえ、りっちゃん……」

「私は大丈夫。ちょっと寝られないだけ」



 頭が痛い。SNSのタイムラインを見ても、動画サイトの動画を眺めても、気分が晴れるどころか、頭痛が激しくなる一方だ。私は立ち上がって、キッチンでコップに水を汲み、ぐいっと飲み干した。

 家族はみんな寝静まっている。もう日付が変わるころだ。

 再び部屋に戻って、ベッドに横になる。私にはひとつ、気になることがある。



「どうしてニュースにならないの?」



 新宿で、白昼堂々、あれだけの事件があったというのに――

 ニュースや新聞はおろか、SNSでも全く話題に上がっていない。

 まるで、人々の記憶から、すっぽりとそれが抜け落ちてしまったかのように。



「クウ、どうしてかわかる?」

「東さんのような、とてつもなく強い魔力を持つ人間なら、人間の記憶を書き換えるなんて、やろうと思えば簡単にできると思うわ。でも、これだけの人数をいっぺんにとなると……」

「……、だよね」



 明らかに不自然だ。私は不思議の国か、オズの国にでも飛ばされてきたのかも知れない。それくらい、私だけが世界から取り残されているみたいで……

 考えれば考えるほど、思考が絡めとられていくようだ。



「今日は、私もここに残るわ。りっちゃん、今日はもう寝ましょう」

「わかってるよ……」



 枕にぎゅっと顔を押し付ける。

 分かっているのだ。そんなことは。



「こんなとき……」



 こんなとき、そばにいてくれたらいいのに。それはできない。




   ○



   【Blue】




「ひばりが突然、発作を起こした」



 という話を聞いたとき――私はいてもたってもいられなくなって、彼女の眠っている部屋に駆け込んだ。

 苦しそうな表情と、上気した頬。掴んだ手は生気が抜け落ちたように冷たくて、でも、額に手をやるとひどい熱だった。

 東さんが彼女の上半身を持ち上げて、なにか粉薬のようなものをそっと水で流し込む。そして、氷水で冷やしたタオルを彼女の頭に乗せた。私はその間ずっと、ひばりの手を握って、祈っていた。



「お願い、ひばり……!」



 お願い――

 このまま目を覚まさない、なんてことにならないで。






 何時間、そうしていただろうか。

 ようやくひばりの発作は収まって、熱も少し下がってきた。落ち着いてきたところで気が緩んだのか、私の頭痛が激しくなり、今度は私が東さんに介抱される番だった。



 新しい薬をもらい、ぬるま湯で少しずつ飲む。自力で飲めるだけ、私はまだましな方だった。少し壁にもたれかかって休んでいたら、気分もよくなってきた。



「どうしていきなり、発作なんて」

「こんなことははじめてだ。今までなかった」東さんは困惑を隠さずに、「クウから今日のことについて、出来る限りの報告は受けている。明日架と翼が相対したという魔法少女のこと……きっと、無関係ではないだろう。やはり私の仮説が正しいようだ。一刻も早く、あのライターを奪還しなくては……」



 私は焦っていた。



「あいつが魔法を使うたびに、こうしてひばりが苦しむんだとしたら……」

「ひばりの身体は弱っている――何年も目を覚ましていないからね。何度も発作に耐えられる体力が残っているかどうか……」

「そんな……!」



 私は立ち上がって、すぐにふらっとその場に倒れた。東さんが駆け寄ってきて、



「明日架……! 君の身体も同じだ。しばらく変身するのは控えたほうがいい」

「でも!」

「君の方が先に壊れたら、誰がひばりを取り戻す? 安心しなさい――私ができる限りのことをする。ひばりを死なせたりしない。信じてくれ」



 東さんの言葉は力強くて、私を少しだけ元気づけた。



「お願いします、東さん……ひばりのことを……」

「任せなさい」



 その時――



「ぁす、か……」



 不意に、その声は聞こえた。



「ひばり?」

「あすか……あすかぁ……」



 ひばりの口がかすかに動いて――うわごとのように、私の名を呼んだ。

 飛びついて手を取った。



「ひばり! 意識が戻ったの?」

「あすか……」



 けれど、最後にそう言ったきり、彼女はまた意識を閉ざしてしまった。

 東さんを見た。

 彼女は神妙な面持ちで頷いた。



「ひばりも戦っているんだ。彼女のライターが活性化したことで、リンクしているひばりの精神にも影響を与えたのかもしれない。もしかすると……」

「意識が戻るかも?」

「だが、それによってどうなるかは……ひばり次第、だけどね」



 穏やかな表情で眠るひばりに、私はもう一度、すがるように祈った。

 額と額をくっつけて、必死に念じた。



「お願い……もう一度、目を覚まして……」




   ○




   【    】




 ただいま。



「おかえりなさい、お母さん」



 みなと、みらい――あなた達も帰っていたのね。



「お帰りなさい」

「おかえりなさい……」



 みんな、今日はよくやってくれたわ。おかげで、この街でもう少し快適に暮らせそうよ。



「お母さんのためですから」



 けれど、(よう)



「はい」



 あなた――

 魔法を全力で使ったわね?



「……、はい」



 それほど追い詰められていたということかしら。あの人も、厄介な魔法少女を集めたものだわ。



「ごめんなさい、お母さん」



 いいのよ、揺。



「お母さま、次はどうするのです?」



 次とは? どういうことかしら、みらい……



「まさか、これでわたしたちの出番は終わりなのですか? わたしたちを、見捨ててしまうのですか?」



 クスクス。

 そんな訳無いでしょう? 貴女たちはみな――私の愛する娘なのですから。



「じゃあ、次は何をすればいいの」



 これまで通りです。みなと――『世界塗り替え(AlOrTWd)⦆』の調子はどう?



「言われた通りに……でも、効果があるの? こんなので」



 現代の人間たちは、それを目にしないことはないわ。

 大丈夫……貴女たちのことを覚えているものは、この世界にはもういない。

 私を除いてね。



「ありがとうございます、お母さん」

「ありがとう……」

「ありがとう、お母様」



 少し休みなさい。私も、これでしばらくは満足です。

 その後は――

 また、新しい『お菓子』を作りましょうか。



 揺。私はまた工房に戻ります。任せましたよ。



「はい、おやすみなさい、お母さん」



 ええ、おやすみ――――






 さて。

 次はどんなものを食べようかしら…………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ