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L-cone  作者: 王生らてぃ
第一章
35/93

新宿騒乱-5

   【Blue】




 夢のような遠い記憶を見た。



 どうしてこの子が。


 生まれてきた命を慈しもう。この子だけでも。


 そうね。そうしましょう。


 この子に二人分の愛を注ぐつもりで……


 きっとそれがいいわ。


 名前はどうしようか。


 二人分考えていたのにね、こんなことになるなんて……


 でも、覚悟はしていたはずじゃないか。


 何かの間違いであってほしかった。



 ……

 …………

 ……………………



 これなんかどうだろう。


 翼?


 比翼連理というじゃないか。この子には二つ分の命を背負って、羽ばたいてほしいんだ。


 それに……翼という名前なら――――











「明日架」



 私も振り返った。

 翼の身体は青く染まっている。足元から、心臓から、血管のように青い稲妻が走り、脈打っている。私の腕も、真っ赤な色をしたコードが巻き付いているように、螺旋を描いて、どくどくと震える。

 それぞれの魔力に侵食されて――いや、同調しているのだ。

 翼の鼓動が聞こえる。



「思った通りだ……」



 翼のもつ巨大な力を、私が調律してコントロールする。私の魔法は『電気』。振動し、伝導し、鳴動するのだ。

 翼のもつ巨大な剣は、変形して、より細く鋭く、光は強く。

 私の銃は銃としての形を失い、右手に絡みつくように一体化していた。真っ青に光り、真っ赤に震える。その姿は歪で、まるでサイボーグみたいだけれど、より力強く、電光を散らしている。



「何をしたの……僕の身体に?」

「私とあなたは今、一心同体」翼の肩に手を置いて、「身体でも心でもなくて、魔力で繋がってる。もっと深い所で……、あなたの力を私が使い、翼も、私の力を使うことができる。お互いの力をぶつけ合って、この街に残った怪物たちを、まとめて薙ぎ払うの」



 でも――



「たぶん、私も翼も、ライターの中身はほとんど残っていない。チャンスは一度だけ。呼吸を合わせて……できるよね」

「イヤだ」翼はそっぽを向きながら、犬歯をむき出しにして笑い、「僕は合わせない。明日架が合わせて――だって僕の方が強い!」

「わかってる!」



 ギロチンを振り上げて襲い掛かってくる魔法少女が無数に群がってくる。

 私と翼は向かい合って、銃と剣、それぞれを触れさせあう。陽と陰の電極のように、慎重に、でも力強く!



「いくよ!」

「せーの……!」

 ――――行け!



 どっちが叫んだのかもわからなかった。



 目の前が光った。

 とてつもなく大きな音が鳴った。

 そして、私たちはもっともっと力を増して…………




   ○




「ねえ、明日架。明日架ってば」



 気が付いた。それで私は、気を失っていたことに気が付いた。

 あれだけ群がっていた魔法少女たちがまとめて消失してしまったビルの屋上で、私たちは向かい合った。もう魔力の同調は切れて、それぞれ、元の姿に戻っている。

 ライターの中身は、ほとんど空っぽだ。翼もそうだった。もう、立とうと思っても立ち上がれないほど、身体は傷ついて、疲れ果てている。今まで鳴りを潜めていた頭痛が、少しずつ戻ってきている。



 街は静かだ。

 耳を澄ませても――風の音しか聞こえてこない。次第に、人々の喧騒が戻ってくることだろう。



「終わったの?」

「そう、だね……」銃を杖の代わりにして立ち上がりながら、「もう、帰りな。あとは私たちが……」

「そんなにぼろぼろじゃ、何も出来ないよ。少し、ここで休んでいたら?」



 翼は得意げに言うと、また剣を携えて、屋上の縁へ向かって歩いていく。



「どこに行くの」

「まだ、街のどこかにグローパーがいるかもしれない。あの魔法少女も……僕が見つけてやっつけてやるんだ」それは駄目だ、と言おうとした時、翼は振り返って私に真っ直ぐ指をさし、「僕に指図しないでよ、明日架。ちょっと大人だからって――僕がどうするかを決めないで。僕は、僕がやりたいようにやるんだ。戦いたいから戦う。行きたいから行く。やめたくなったら、その時はやめる。でも、大人の言いなりになるのはイヤだ」



 そう言って彼は大きく助走をつけると、そのまま映画のヒーローのように、赤いマントを翻して何処かへ飛んで行ってしまった。二秒後には、もうその姿は見えなくなっている。

 私は倒れ伏した。

 もう動けないんじゃないかと思うくらい……でも、



「ギターを回収しなきゃ」



 まだ、クウはあの場所に残っているはずだ。

 懐を探ると、黒いライターがひとつ、残っている。自分のそれに中身を移し替えると、私は立ち上がり、クウのいる場所へ向かって、まずはビルを飛び降りた。



「東さんの所へ行こう」眩む視界を必死に保ちながら、私は呟いた。「とにかく東さんの所へ……」



 頭が痛い。

 私はまだ、ここでダウンするわけにはいかない。

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