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L-cone  作者: 王生らてぃ
第一章
30/93

鷺宮千夏 / 中井明日架の夏休み-4

    【White】




 人の目がうざったい。

 怪物と戦っている私を見たって、何にもならないのに。



 グローパーの手を切り落とすと、その傷口から真っ黒な血が吹き出し、周囲を染める。咆哮をあげてますます怒り狂いながら、私に向かってくる。振り上げた手を振り下ろしてくる。

 衝撃音。

 後ろから聞こえた。振り返ると、アスファルトに蜘蛛の巣状に広がった亀裂。そこに立つ、岩のように隆起した肌の巨人。瞳は真っ赤に光っていて、身体じゅうの関節から真っ白な煙を吹き出している。

 煙草のような匂いがした。また小さな悲鳴が聞こえる。



 両側を挟まれて立ち尽くす。私は足元に意識を集中した――午後一時半くらいともなると、影は濃く、そして少し長く伸びている。私の影が唐突ににゅっと伸びると、片腕を失って悶絶するグローパーの目の前でぬっとせり上がった。

 フォークみたいな形になると、いきなり影はその心臓の辺りに突き刺さる。そのまま地面に縫い付けるように押し倒して、身体のあちこちをバラバラにする。



「次」



 見るまでもない。

 マッシブな身体つきのグローパーは、動作がいちいち緩慢で、でも一歩一歩踏みしめてこちらに向かってくるたびに、地面が揺れる。

 貧血のように頭がふらっとした。

 影を使った後は、いつもこうだ。身体から魂が抜けたみたいに、一瞬の脱力感に襲われる。それも一瞬のことだ、もう足元に影が戻っている。



 真っ直ぐ駆け出し、重く鈍い拳を避けて、まず足を切断する。

 よろめいたところで胴体に刃を突き立て、真っ二つに切断する。上半身と下半身にわかれると、それぞれにうめき声をあげて、うねうね蠢いていた。ますます怪物って感じだった。



 まず右の膝を叩き切って落とす。ようやく下半身がおとなしくなる。

 両腕だけで腕立て伏せするように立っている上半身に飛びかかり、脳天に切先を突き立てる。そこから真っ黒な血が辺りに吹き出して、私の身体にも叩きつけるように浴びせられる。ねっとりした、液体のりみたいな感触――気持ち悪い。

 グローパーが上を向く。

 私の背中に、太陽が照り付ける。

 グローパーの身体じゅうに、黒い影が纏わりついた。それは麻縄のように、残ったすべての関節や皮膚に食い込む。



「ふんっ」



 と、腕に力を込めた。

 べぎっという音で、グローパーの身体が思い切りひしゃげ、潰れた。ハムみたいに輪切りになったその残骸は風に消えていく。残ったライターを手に取りあげ、ようやく一息ついた。

 ちらり、と大通りの方を見る。

 まだこちらを見ている人がいる。スマートフォンの画面を向けている人がいる。

 みんな、私を好奇心で見ている。あの人は何なのだろう、何をしているのだろう、いまどんな気持ちなんだろうと、そういう目で――――



 何見てんだよ。



 声には出さない。それくらいの分別はあるのだ。



「ギャァァァアアアアアアアア!」



 その悲鳴のような声は、頭上から聞こえてきた。

 巨大な「大」の字がそこに広がっていた。

 両手と両足を広げた、五メートルくらいのグローパーが私目がけて降ってきた。影になった顔にくっついた、赤い目が光っている。



 刀を構えた。

 何度来ても同じことだ。刀の柄を見る――ライターの中身は、まだ半分くらい残っている。十分戦える。グローパーがだんだん近付いてくる。少しだけ身を沈めて、待ち構える。

 あと二秒だ。

 その時、巨大な青い花火が上がった。爆音と閃光、衝撃――一瞬だけ背けた目を開くと、そこにグローパーの姿はなかった。からん、と黒いライターが私の足元に落ちてくる。



 すとん、と軽い足音と共に、すぐ目の前にそいつは落ちてきた。



「中井明日架――」



 明日架は何も言わない。巨大な銃を片手で軽々と持ちながら、つかつか私に歩み寄ってくる。

 落ちていた黒いライターをひったくると、明日架は私に行った。



「まだまだ、たくさん集まってくる。ひとりじゃ凌ぎきれないよ」

「……、」



 それきり明日架は何も言わなかった。私に背を向けて、銃を構える。

 野次馬は集まってくる一方だ。どんどん声が大きくなっていく――私の足元の影が、ざわめいた。

 背筋が伸びる。

 呼吸が深くなる。

 視界の端が、黒く染まる。



「落ち着いて」明日架の声で、はっと我に返った。「言いたいことは分かる――何とかするよ。本当は、やりたくなかったけど」



 と言いながら、彼女は銃を真っ直ぐに立てると、地面にガンと叩きつけた。

 足元がびりっとする。

 すると、野次馬たちが驚いたように足をもつれさせ、あるものは倒れ、あるものは逃げ出していく――あっという間に周囲に人間はいなくなった。



「何をしたの」

「ちょっと魔力で衝撃を与えただけ。あんたがやると、加減しなさそうだから。そんな雰囲気があったから」明日架は溜息をついた。「一般人を守るための魔法少女が、一般人に危害を加えるなんて、あってはならない。あんたはその絶対のルールを犯そうとしていたってこと。自覚できてる?」



 上から抑えつけるような口調に、私の呼吸が止まった。

 明日架は尚も威圧的に続けて言った。



「今はグローパーを倒すことに集中して。少なくとも、この近くに三体はいる――もしかしたら、もっといるかもしれない」

「どうして、あなたの言うことを聞かないといけないの?」

「嫌なら、すぐにライターを捨ててここから離れなさい。それも嫌なら戦いなさい。ふたつにひとつよ」



 明日架の言うとおりにするのは癪だが、仕方なく私は刀を構えた。

 遠くから人のものとは思えない方向が轟く。



「来た……」



 動物園のライオンくらいある、四足歩行の獣。

 赤く光る瞳。

 黒い肌。



「こんなにいるものなの。グローパーっていうのは」

「異常だよ、こんなのは」



 明日架のほうから、撃鉄を起こす音が聞こえる。

 私は振り返らない。

 刀を構える。

 黒い獣が、牙をむいて私に吠える。その口元から滴る赤い液体は――



「まさか――」

「グローパーは人を襲う。知ってるでしょ」明日架の声は冷たい――思わず振り返りそうになる。「人間や生き物は、いうなれば魔力の塊みたいなもの。グローパーが人を喰えば、それだけ魔力をため込んで力を増す。どんどん強くなる」



 獣が前肢に力を込めた。

 飛びかかってくる。

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