表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
L-cone  作者: 王生らてぃ
第一章
22/93

魔法少女たちの夜-2

「行った?」



 すぐに、奥から明日架が出てきた。



「ずっと隠れてたのかい?」

「子どもは嫌い。あんなに小さい子が魔法少女だなんて」



 私はひとり残され、東さんと相対する。

「さて、千夏――と、言ったかな。君にはもうひとつ、話しておかないといけないことがある」

「はあ」

「君の持つ、その白いライター。それは、私の造ったものではない」



 私は手に握ったままのそれを、なんとなく見た。



「私が作ったライターは、ぜんぶで五つ。赤、黄、青、緑、紫……それぞれ色を分けてはいるが、構造は同じものだ。ところが、その白いライターだけは、他のライターと構造が違う。よく、似せてはあるがね」

「でも、私はクウからこれを渡されました。ご主人様は戦うことができないので、代わりに私に戦えと。その『ご主人様』とは、東さんのことではないんですか?」

「ふむ……そうなると、そのクウはおそらく偽物だ」



 偽物のクウ?

 私がこれまで出会ったクウは、それぞれ顔や姿、声、性格まで、それぞれだった。どれが本物で、どれが偽物かは、私にはわからない。

 明日架がようやく口を開いた。



「それじゃあ、相手はグローパーを生み出すだけじゃなくて――偽物のクウや、精巧なライターを作る技術を既に持っているってこと?」

「そうなるね。その白いライターは、作られてからまだ日が浅い。部品の劣化が少ないからね。作られたのも、つい最近だろう。となると――」

「ひばりのライターを奪って、その構造を?」

「可能性は高い。そして、その推測が正しければ――これから魔法少女はどんどん増えてくることだろう」



 しかし、と東さんは私に向き直った。



「どうして君は、グローパーを倒す? なにか知らないか、他の魔法少女のことや――グローパーを増やし続ける、何者かのことを」

「どうして倒す、って」私は何でそんなことを聞くのか不思議だった。「私は魔法少女だから。魔法少女は怪物をやっつけて、街を、人を守る。そういうものなんでしょう?」

「じゃあ、なんであなたはその白いライターを持っているの?」



 明日架が尋ねた。

 それは、ちょっと攻撃的な口調を帯びていた。



「これをクウに渡されたから。そのクウは私に、変身して、魔法少女になって、怪物を倒せと教えてくれた」

「そのクウはいま、どこにいるの?」

「消された。その、黒い手袋の魔法少女に」



 ふむ、と東さんは黙って考え込んでいる。

 私は少したくさん喋って喉が渇いたので、もうほとんど水みたいになっている湯呑みのお茶を飲み干した。



 明日架は目に見えて、苛立っているのが分かる。

 自分の思い通りにならないことがあったり、もどかしい気持ちになったりしているとき、よく人間はこういう顔をする。時にはなにかに当たり散らしたり、声を上げて暴れまわったりすることもある。



「ともかく」東さんは私の目を見た。「きみは、私に味方してくれるつもりはあるか? この街に潜み、増え続けるグローパーを倒し、その悪事に加担する魔法少女を倒す。私がしたいことはそれだ、だがあいにく私は自分で戦うことができない。『魔女』はいくつも呪いを受けているからね――明日架や翼のように、他の人間にその使命を託すしかない。それでも君はやってくれる?」

「はい」

「そうか。心強いよ」



 東さんは私の手を取った。ひんやり冷たい手だった。



「ありがとう、千夏」

「やることは、グローパーと、グローパーの味方をするような魔法少女を倒すこと。それだけでしょ?」

「そうだ。また、何か分からないことがあれば――」

「ここに来ても、いいんですよね」



 頷いた。

 私は立ち上がり、しっかりとライターを鞄にしまい込むと、靴を履いて外に出た。すっかり空は暗くなっていて、反対に街は明るくなっている。



 今日はお父さんが帰ってこない日だ。

 私は空の星の数を数えながら、駅に向かって歩き出した。晩ご飯をどこで食べようか、ぼんやりと思案しながら。




   ○




   【Blue】




「信用できない」

「明日架」

「もし、あの千夏って子が、向こうに与していたら? 私たちの前でしらを切っているだけで、実はひばりのライターを奪った魔法少女と通じていたら?」

「落ち着くんだ、明日架」

「でも!」



 でも――私は落ち着かないといけない。深呼吸をして、その場に座った。座布団やクッションを下に敷かずに、畳の上に。



「でも……それじゃああの子は、どうやって魔法少女に?」

「あの白いライターが鍵だ」東さんはこれまで見たことのないような、深い目をしている。「私には、あの千夏という子が、嘘をついていたり、何かを隠しているようには、とても思えない。彼女は私たちの心強い味方になってくれる」

「私はそうは思えないよ、東さん」

「明日架――ひばりのことで焦るのはもっともだ。しかし、こういうことは慎重にならないと、見えるものまで見落としてしまうことになるよ」



 叫びたかった。分かっているんだよ、東さん。でも、いまも目を覚まさないでいるひばりのことを思うと、私はいてもたってもいられない気持ちになる。早くあの子を助けてあげたい。

 目を覚まさせてあげたい。

 ひばりをこんな目に遭わせたやつが、どうしても許せない。

 その手掛かりは、もうすぐ目の前にあるっていうのに。



「明日架。千夏と協力して、敵の正体を探ってみるんだ」



 思いもよらぬ申し出だった。



「どうして」

「君の魔法は実に万能だ。電気というエネルギーを操る力……戦闘だけではなく、魔力を用いた索敵にも利用できる。なにより君は経験豊富な魔法少女だ」

「だからって、なぜ私があの子と」

「いざというときは君が、あの子からライターを取り上げればいい」



 東さんの口調は冷静だった。



「リサや翼はまだ経験が浅い。不測の事態に対処できないだろう。香苗は人と組んでうまくことを成せるタイプじゃない。君が適任だ。ふたりで協力し、なんとしても敵の正体へつながる手がかりを見つけ出すんだ。もちろん、グローパーが現れたら、それを倒すことも忘れちゃいけない」

「……、」



 何か言いたかったけど、何も言い返せない。

 私も、それが最善の策だと思った。これ以上は何も浮かんでこない。



「分かりました」

「ひばりの容体は安定している。だが、意識だけはどうしても戻ってこない。これは私の仮説なんだが――」と、東さんはそこで表情を和らげるとともに、姿勢を少しだけ崩した。「ひばりが持っていた、『紫色のライター』。ひばりが目を覚まさない要因は、あそこにあるのかもしれない」

「どういうこと?」

「肉体の傷は癒えても、意識があのライターの中に閉じ込められているかも……と、思ったんだ」



 私は黙っている。東さんは続ける。



「君が度々訴える身体の不調――頭痛やめまい、吐き気。それらはライターの貯蔵魔力量の減りと関係している。魔力が多ければ、そうした不調は表に出にくい。反対に、半分も減っていれば、それらは表立って出てくる。ライターと魔法少女の精神が、密接に繋がりつつあるということだ」

「それって……」

「魔法少女であることを放棄すれば、そうしたデメリットは無くなる。だが、ひばりにはその意思がなかったんだ。彼女は襲われ、傷つき、彼女にとって不本意な形でその力を奪われた。それが、彼女が目を覚まさない原因なのではないか――とね。あくまで仮説だが」



 それなら、猶更、ひばりのライターを取り戻さなければならない。



「今日は、あの魔法少女を、取り逃がした」

「ギロチンを振るうという、あの魔法少女だね」

「姿は覚えてる。魔力の波長も、ちゃんと記憶した」



 それさえわかれば、いつでも彼女を見つけられる。

 いつでも探し出してやりたい。

 今すぐにでも。



「落ち着くんだ、明日架。君は随分、消耗している。充分に準備を整えて、戦いに臨むんだ。慌てることはない。ひばりは、必ず助けよう」

「はい。必ず」

「今日はもう帰りなさい。ひばりのことは心配しないで」



 私は工房を出て、自分を落ち着かせるように、意識してゆっくり歩きながら家に帰ることにした。






 部屋は暗い。

 父さんも母さんも、まだ帰っていないようだ。時計は九時を回っている。

 私はコップ一杯の水を飲むと、部屋にあがって、新曲のスコアを眺めた。ケースからギターを取り出し、ヘッドホンをかぶって音量を調節する。



 ひとりで弾いても、バンドの練習にはならない。

 こうしてひとりでギターを弾いていると、自分の今の気持ち、考えていること、体調、気分――いろいろなものを音を通して、客観的に感じることができる。



 音がとげとげしい。

 私はいらいらしている。

 テンポが走りがちだ。

 私は焦っている。



「なんで……!」



 なんで、私はいつも中途半端なんだろう。

 何かに引きずられて、別の何かに集中できない。何かに集中できないことを気にして、別の何かがおろそかになる。

 でも、そういう時に私を救ってくれるのも、ギターの音だ。

 何百回も繰り返してきたフレーズ。出来るだけ音はやわらかく、そしてゆっくりと。まるでバラードを弾いているような気分だとしても、たぶん、このくらいでちょうどいい。自分では大袈裟なくらいで、ちょうどいいのだ。



 今日はずっとギターに触っていたい。

 スマートフォンを見たり、人の顔色を窺ったりせずに。

 鞄の中にしまったままの青いライターのことも、今は忘れたい。でも、ひばりのことは忘れない。ただ、その感情に引っ張られないように、それだけを心に留めておくだけ――



 私は魔法少女でもあり、高校生でもあり、『Pisces』のギター・ヴォーカルでもある。

 目を閉じ、またさっきのフレーズを繰り返す。

 今夜はこういう気分だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ