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友人Aの彼女の話

友人Aのツアーコンダクターの彼女の話

作者: 華鳳


僕には小学校時代からの友人Aがいる。

Aはガサツでやる気のない奴に見えるのだが、何故かモテる。


先日、Aと近所の飲み屋に行った時の事だ。

Aはもっさりとした頭に、上下スエット、サンダルという出で立ちで「ういーっす」と言ってやって来た。

僕とAはカウンターで並び、とりあえずビールを飲んだ。


前回会った時から、三ヶ月しか経っていないと言うのに、Aはもう別の彼女ができたらしい。


「今度の彼女はどんな人なんだ?」


と聞いてみると、Aは頭をボリボリ掻きながら


「それがよー、仕事柄なんか色々あるらしくてよー」


と、少し言いづらそうに話し出した。


今度のAの彼女は、ツアーコンダクターをしているそうだ。

彼女はバスツアーが専門で、全国の様々な観光地を巡っている。

その中での、とても奇妙な体験を度々Aに話すそうだ。




彼女は、四国のあるホテルに泊まる事になった。

四国には、八十八箇所の霊場を巡礼するというものがある。彼女はその日、そのバスツアーで四国へやって来ていた。


宿泊場所は、愛媛で有名な温泉の、更に奥の手の温泉のホテルだった。

そこはとても豪華なホテルで、本館の他に別館が二つもあり、迷子になるほど大きかったそうだ。


彼女はこのホテルは初めてだったので、どんな感じのホテルなのか、同乗しているバスガイドさんと、バス運転手さんに聞いてみたそうだ。


するとバスガイドさんは顔を曇らせて、


「もし私達の宿泊場所が◯◯館だったら、バスで寝るかも」


と言ったそうだ。


「え? それはどういう事ですか?」


と彼女は尋ねた。


バスガイドさんはウーンといった顔をしながら、


「ここは初めてなの?あまり言ってはいけないと思うけど、この業界では有名過ぎて直ぐに耳に入ると思うから言うけど……」


と話始めたそうだ。


そのホテルの◯◯館には開かずの部屋があり、添乗員やバスガイドなどは繁忙期にはごく稀にその部屋の隣に泊まらされる時があるそうだ。


そこに泊まったバスガイドさんの話では、夜寝ていると隣の部屋から話し声が聞こえてくる。

『ああ、隣人の声が漏れているのか』と思った矢先、隣は開かずの部屋ではなかったか、と思い出した。

もうその時点で恐怖を感じるのだが、バスガイドの朝は早いので、無視して眠る事にしたそうだ。


すると次に、バスガイドさんが寝ているちょうど横の壁を、ガリ、ガリと引っ掻く音が聞こえてきた。


『ああ、これは完全に私が居ることを分かっている』


バスガイドさんは、恐怖のあまり部屋を飛び出し、バスで寝る事にしたそうだ。


それから、何人かの添乗員さんやバスガイドさんが泊まったそうだが、みんな『隣から音が聞こえる』『壁をドンドンと叩かれた』など、恐ろしい現象があったらしい。



Aの彼女はその話を聞き、その開かずの部屋へ行ってみる事にした。


そのフロアに着いた途端、何とも言えない寒い様な重い様な空気が溜まっていた。特に霊感のない彼女でさえも、進む事に少し躊躇したらしい。

しかし好奇心には勝てず、その部屋を目指した。

他の階、他の館とはうって変わって、そのフロアには誰一人としていなかった。

途中には、中が真っ暗で寂れていて、営業していないだろうと思われるスナックがあった。その存在がここの空気と合わさり、更に恐怖心が増した。


ようやく目的の部屋へやって来た彼女は、目を疑ったそうだ。


その部屋のノブには針金が何重にも巻かれいた。その光景は、ホテルの一室のドアしてはとても異様で、何か恐ろしいモノを出さない様にしているとしか思えなかった。


彼女は「うわ」と体を引き、引き返そうと思った時、そのドアの左のドアを見た。

左のドアは、木の板で完全に打ち付けられ、ドアノブにも針金が何重にも巻き付けてあったそうだ。そのドアからは、隣のドア以上に恐ろしいモノを感じたそうだ。


実は、木の板が打ち付けられていた部屋は一番端の部屋なのだが、この部屋が発端だったそうだ。初めは、その部屋から話し声が聞こえると言う事だったそうだ。しかし、いつの間にかそれは隣ではなく、この部屋からすると騒ぎになったそうだ。なので、この部屋も閉鎖するしかなかった。

そして、またその部屋から隣の部屋へ声が聞こえる。


その声の主は少しずつ移動してきていのかもしれない、彼女はそう思ったそうだ。


彼女とバスガイドさん達の宿泊は、違う館だったのでそのツアーは事なきを得たとの事だった。





「まだほかにもあるから、聞きたくなったら飲みに誘ってくれよ」


と言って、Aはザリッ、ザリッとサンダルを引きずりながら帰って行った。




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