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第四話 タロウ君と『力』

この作品にアクセス頂きまして、ありがとうございます。


この話で一応プロローグ的な部分が終わりとなります。


今日ものんびり、暇潰しにどうぞ――。

★★★



 ――それからタロウ君は、様々な世界で魔王を倒していった。



 あるときは転送直後、いきなり食パンを咥えて「遅刻遅刻~!」と、曲がり角でぶつかってきた魔王。

 あるときは立ち寄った街の一角で、「親方―空から――」と緩やかに降ってくる魔王。

 あるときはタロウ君が好きになった女の子とベットインしている時にお腹を突き破って出てきた魔王(グロ注意)。


 時には微生物ほどの大きさから、時には月ほど巨大な隕石型まで、ほんとうに様々な姿の魔王達を倒した。


 その都度ご褒美としてタロウ君は【8属性魔法(火・水・風・土・雷・光・闇・無)】やら【時空間魔法】、【邪眼】、【身体強化】、【創造の魔法】、【いきなり最強戦闘知識】、【極上内政チート用の知識】、【髪質】、【身長】、【体重】、【体脂肪率】、【骨密度】、【精力】、【病気耐性】、etc……終いにはイケメンになりたいとか宣ったので、一回に1mm毎の範囲でキャラメイク出来る【プチ整形】という願いを叶えてあげました。



 その結果、一番最初と比べかなり強く(ほぼ別人)なりましたが、大体の魔王は聖剣と魔剣に貫かれるだけで倒せるので、他の能力はほとんど使わずにひたすら異世界転移を繰り返していました。



 そんな訳で、タロウ君との付き合いもほどほどに長くなりましたね。奇行も多々あり、驚かされてばかりですが、それらが悉く予想を超えてくれるので、それはそれは楽しい時を過ごしてきました。


 私の世界の成長率もおかげで――1.0000003%――と、1%を超す位までに成長を遂げ、かつての名立たる英雄達でさえもここまで成長させた者はいません。



 彼は歴代で最も強く、最も変で、最も私と歩んでいる。

 あ、べ、別に好きになったとか、そんなんじゃないからね。

 ただ単に――やったねタロウ君!あと100倍頑張ってくれれば、私は上級神になれるよ!

 って思ってるだけなんだから。彼には神の制度とか全く教えてないわけですし……。


 とにかく、恋や愛なんて私たちには全く似合わない。

 互いが今と言う物語を楽しんでいる。ただそれだけの関係だ。

 

 そして、そんな彼もまた、再びエンドロールを背後に今回の世界の愚痴をこぼす。



「あのーもしもし?神様どーぞ」


【はいはいー聞こえてますよどーぞ】


「今回の世界もまた疲れましたーアレは酷かったですよ」


【ふふ。今回もまた素晴らしい戦いでしたね】


「いやー、今まで色々な魔王と戦ってきましたけど、自分の体の中に入り込んだ魔王を倒すとか難しすぎますね。なんとか自分の外面と内面を裏返えしにして戦いましたけど、内心ヒヤヒヤドキドキでしたよ。俺、こう見えてもグロ耐性は弱いのご存じでしょうに――」



 ね?なに言ってるかわかんないかもしれないけど、タロウ君ってちょっとおかしいでしょ?

 時々、人間を半分止めているような前衛的な戦いをするときがあるの。



【いやー。体の内部の敵を倒すのにその方法を選ぶタロ君が私は信じられないけど。ほんとはもっと簡単な方法があるはずだよ?】


「えー、そーだったんですか」


【うんうん。でもまぁ、さすが英雄だなっと思って、私は感心したよ】


「どもどもです。ま、クリアしたので問題ないですよね」


【だね】


「じゃあ、神様!お約束のやつを頼みます!!」


【あ、はいはい。ご褒美ね……あ!そっか、遂にきたか!】


「ぐふふふ。お気づきになりましたか」


【うんうん。最初はどうなる事かと思ったけどね。【髭の完全脱毛処理(一本ずつ)】も今回で完成だね】


「ふふふ、髪の増毛に続き、これでまた一つ高みに上ってしまいましたよ。メガネクイっ(かけてないけど)」


【髪や髭の為に倒された数々の魔王たちは慟哭の涙を流している事だろうね】


「んふふ。そもそも神様のご褒美:【プチ整形】だけ、1mm指定とか毛一本とか細かい指定なんですからしょうがないですって」


【もはやプチ整形の『プチ』の存在意義は希薄だけどね。完璧な整形です。本当にありがとうございました】


「いえいえ。まだまだやりたいことはたーんとありますから。俺はもっと頑張りますよ。さーて、次は久々に魔法系で何か取ろうかなー。……神様ぁ、次はどんなところですか?」


【うんとねー。次は――】


 最早慣れたもので、タロウ君を自分を高めることに余念がない。

 神の願いを無駄なく無駄消費する彼をどうか許してあげてください。一応英雄なんです。

 

【んー、あー】


「どうしました?」


【久々にキツイかもしれない】


「うへー。精神系ですか?グロじゃなければ良いなー」


【グロではないけど。精神的に来るかな。……てか、やっぱまだあの時の事がトラウマに残ってるね】


「そりゃそうですよ。夜の運動会中に好きな子のお腹から突然魔王誕生って、リアルに経験しちゃうとほんっきで洒落にならないですから。映画とかの比じゃないです。神様への願いであの子を蘇生できるまで涙止まりませんでしたもん」


【その後、数年はトランス状態だったしね。魔王絶対殺すマンって感じで。タロウ君の狂戦士化によって、9割方魔王で支配された世界でさえも7日で救世した時は開いた口が塞がらなかったよ】


「いやー。でもま。グロじゃないとしても神様がキツイって言うなら油断せずにいきます」


【うん。それじゃ。今回もよろしくね】


「はい」


【行ってらっしゃい】



 神が作る世界は、神によっては細部まで動かす者もいれば、私の様に基礎部分を構築しただけで後はお任せにする者もいる。

 だからさっきタロウ君が言ってた魔王については、タロウ君にイチャイチャする他の女の子に対しての嫌がらせだとか、嫉妬とかでは、断じて無いから。そこだけは勘違いしないように。いいね?



 さて、今度の世界は終わる世界。

 『力』について考えさせられる世界だ。

 彼はこの世界を通して、またどんな物語を見せてくれるだろうか。

 楽しみでしょうがない。ワクワクが止まらない。

 ずっとこれが――永遠に続けばいいのに――。

 っと、思わず……そんなことが頭の隅に過った。



 私は今日も、この白い世界で一人。彼の紡ぐ物語を見る――。



★★★



 そこは見渡す限り。赤黒かった。空も大地も空気でさえ赤錆を帯びていて臭い。色んな世界を見てきたからわかることがある。この世界はやばい。9割世界支配受けていた世界でさえここまでひどくは無かった。


(人、生きてるのかな……)


 最初にそう思えるほど生き物の気配を感じない。てか、木さえ見当たらない。

 360度クルっと回ってみたり。【気配探知】で辺りを探ってみても何もいない。


(うぁ……なんだろう。19XX年世界は核に――って感じだな。ヒャッハーさんとかいそうだ。水を争って人々が戦うみたいなのは何度か経験してるけど、ここまで明らかに生物がいない世界は初めてかもしれない)


 寂しい世界だとそう思った。もしこれが何らかの原因でこうなったのだとしたら、それを行ったものはおバカ決定だろう。こんな世界のどこが良いのかさっぱりわからない。

 

(しょうがない。適当に転移してみたり走り回ってみますか)



 ――そしたら、何度目かの転移魔法の末、遂にみつけました。


 第一村人発見です。

 沢山の人と魔王達が戦っています。

 人族と魔王達の戦争みたいです。

 それも凄い高レベルな戦い。

 走れば閃光の如く。剣を振れば時空ごと断裂している。魔法なんか一発一発が極大レベル。それを人と魔王互いが間断なく撃ちあっている。


 俺はと言えば。それを少し離れた場所から地面から顔だけ出して見詰めている。

 ただの転移魔法の軽い失敗だから気にすることはない。もし岩の中に転移したとしても今の俺は多分我慢できる。


(いやー。ありゃやばいね。あんな力で衝突し続ければこの世界がこうなった理由もわかるってもんだ。世界の方が耐えきれないよ)


 ちょうどよく地面に顔以外が埋まってしまっているので【光魔法】【土魔法】の複合魔法の一つで【大地の癒し】と言うのを使ってみてはいるんだけど。砂漠にペットボトル1本分の500mlのミネラルウォーターを沁み込ませている感じかな。やる意味を感じ無い。


 これ。本気で救済出来るのかな。不安だ。初めてクリア失敗してしまうかもしれない。

 てか、なんだろう背中がザワザワする。背後に寒気って言うか。全身が寒い。特に股間。風邪かもしれない。漏らしてないからね?平気だからね?転移失敗にビビってなんかないから。


 さて、そんな感じで見続けていたら、いつの間にか双方の残りが100人ほどになる。

 すると100人になったところで、突如人族と魔王の互いが笑い出した。

 ……なんだろう。状況がさっぱりわからない。


 近づいて話を聞けばいいんだと思うけど、なんでか今は動きたくない。ズボンが如何せん濡れている気がする。このまま出て行ったとしたら、漏らしたと思われて大人としての尊厳が著しく損なわれる可能性があるだろう。うん。それは大変良くないな。事の成り行きを見守るのが賢い選択だ。


 笑い出してからそれぞれ空間から食べ物や酒をだし、急に宴会を始める人族や魔王達。とっても楽しそう。

 遠目ではあるが彼らを【鑑定】で見てみた。


 すると!全員がほぼ同じ強さだとわかった。普通ならありえないレベルで吊り合いがとれている。そこに居るもの全てがレベル最大値。カンストしている。俺でも全員相手だと苦労するかもしれない。

 ま、俺の聖剣と魔剣があれば問題はないという自信はある。それだけの経験は積んできた。


 宴会は盛り上がりを見せる。互いに讃え合い、互いが武勇伝と誇りを語る。酒を酌み交わす彼らが何故争っていたのか不思議でならない。

 もう仲良くなったのかな?戦いは終わりかな?と普通ならばそう思えてしまうかもしれないが、誰一人として武器はしまっていない。


 目の奥の光。戦場独特の空気。言葉よりも多弁な魔力の揺らぎ。それらが戦いがまだ続いていることを雄弁に語っていた。


 ――暫くすると、酒を飲んでいた100人の人族のうち青年の一人が勢いよく立ち上がる。


「うっし!じゃあ、先ずは俺からいこうかな」


「おおおおー。ジャスター。気張れーー!!!」


「わはははは!全力出せよ!スカしやがったら大笑いしてやるぜ!!」


「まったくせっかちじゃのぅ。まだまだ酒はたーんとあるというのに」


「おう!てかガルバの爺よ。俺は下戸なんだ。吐いたらカッコつかないだろう」


「そうだったのぅ!全く……人生の9割以上損してるわぃ」


「うるせー。俺は幸せだ」


「「「「ガハハハハハ」」」」


 仲間に背や頭を叩かれながら、ジャスターと呼ばれる青年は酒飲みの囲いから離れていく。



 同様に魔王達の中からも一人の黒い巨体が歩み出て行った。


 ジャスターとその魔王は互いにいくつか言葉を交わす。その内容は声が大きくなく上手く聞き取れないが「戦えて光栄だ……」みたいな感じだろう。


 二人は最後に自分の胸に片手を当て、名を呼び礼の仕草を見せ、剣を携えて歩み寄る。

 互いは近づき、互いの剣は相手の手を貫き、そのまま胸にまで突き刺す。

 二人はまぶたを閉じたまま魔力を高め、その状態のまま全力で解き放った。

 二人は同時に爆発し、この大地にまた新たな傷跡を刻む。


 突然の事でタロウは目を白黒させるが、今回もまたなんとなく伝わってくるものがある。

 そしてそれが、彼らの戦いの帰結だとなんとなく察した。


 まるで、それこそが自分達が生きてきた証なのだと、そう叫んでいるように見えて、タロウの胸にはこみ上げてくるものがあった。


 二人が爆発で消えると、人族達と魔王達は杯を掲げる。

 「戦士に栄光を。戦友に祝福を。」と互いが互いを静に見送った。


 それからも、満足した者から次々に大地に傷跡を刻んでいく。

 その度に厳かに掲げられる杯と時折聞こえる咽び泣く声。


 なんで……なんでこの世界はこんなことになっているんだろう。

 タロウは数多の世界を渡ってきたが、どれ一つとして同じ世界は無かった。

 その中でもこの世界は特殊だと思った。

 彼らは強い。鑑定で見た結果彼らは全員が全員共にレベルを最大まで上げている。

 成長の限界までひたすらに鍛え、武器や防具にしたって最高の物を使っている。

 最初に見ていた時の戦いからも、動きは多才、戦術は自分でも考えられないほどの巧者。

 まるで一人一人が宝石の様に素晴らしき者達と言っても過言ではない。


 そんな彼らがなんで。なんでこんなことになっている。

 そしてなんでそんな彼らがいるこの世界がこんなことになっているんだろう。


 杯を掲げる姿を見るたびに、知らず知らずのうちに涙が出ていた。

 なんでこれほどの力がありながら。戦いを止める術を持たなかったのだろう。

 なんでこれほどの力がありながら。世界を救う為に使わなかったのだろう。

 互いに讃え合い。涙し。想い合えるほど、人族と魔王が近くで接し合えているこの世界が――なんで。


 彼らを思えば思うほど疑問は尽きない。だが、この戦いを止めようとも思わなかった。

 それが彼らにとっての救いだとタロウは感じたから。

 世界を巡って気づいた事。全ては救えない。選ばなければならない。

 他の英雄ならもっと上手くやるのだろうけど、タロウはタロウに出来る事しかしてこなかった。

 

 タロウは察する事をいつだったか選ぶようになった。

 簡単に言ってしまえば、空気を読む事。だがそれは、やろうと思えば全然簡単じゃない事。

 察した上で、自分の考えを押し付け過ぎないように注意し、相手の心を尊重する。

 難しすぎて出来て無い事も多いけど。タロウは出来る範囲でそれを目指した。



 軽い妄想を浮かべる。それは剣から伝わってくるイメージも含まれた。

 きっとこの世界に生きるものはみんな優秀だったのだと思う。誰もが力を貪欲に求め鍛えてきたのだろう。

 ひたすらに一人一人が高みを目指した結果がこの世界なのだと思う。

 そして最大まで上げてしまえたからこそのこの世界なのだと思う。

 ゲームなんかだと分かりやすいかもしれない。

 限界まで遊んで、遊んで、遊びつくした先。

 

 ……いや、これ以上はやめよう。考えない方がいい……。

 

 タロウは地面から這い出て胡坐をかくと、その光景が途切れるまで眺め続けた。

 

 そして人族と魔王達が99人ずつ消え去った後。

 残り互いに一人ずつ残った者たちが、タロウの方へと近づいてきた。


「うぃ~ひぃっく。……かぁー、若いもん達はだらしないのぅ。こんなに美味い酒を最後まで飲まずに逝くとは――」


「――全くだ」


 二人はゆったりゆったりと互いに酒を酌み交わしながらタロウへと歩み寄る。

 その足取りは何処か覚束なく。だがしかししっかりとした力強さは残している。

 段々と近づいて来た二人の表情を見てタロウは理解する。

 二人とも酔っているわけじゃなった。

 涙か鼻水かもうわからないほどグシャグシャに濡れて、前が上手く見えてないだけだった。

 だがそれは、言わず気づかずが男の花。


 仲間の最後を、最後まで立派に見届けた二人はタロウの傍まで近寄ると未だ涙で言葉が上手く紡げないながらもなんとか喋ろうとしている。

 だがタロウは、そんな二人を見てそっと自分が愛用している湯呑茶碗を空間から取り出すと、無言でそれを掲げた。


 言葉は不要だよ、と。貴方たちは素晴らしかったよ、と。そんな気持ちが伝わってくれたらいいなと思った。


 それを見た二人は笑顔を見せると、ただ杯を前に突き出す。

 三人の杯はこの世界で最後の福音を響かせた。

 

 ……カー―ン――


 杯は響き、酒を注ぎ、三人は呷る。

 カァ――――っと熱い吐息を残して飲み終わると、二人はタロウの前に杯を置き、ゆっくりと離れていく。



「ふぅーーー……まっこと美味し酒であった」


「……そこの御仁、すまぬが見届けを頼む」


「……はい。任してください」


 もっと色々話したいこと聞きたいことは互いにある筈。

 だけど、三人が交わしたのはそれだけだった。


 

 タロウから少し離れた位置に来た二人は、最後の時を楽しむ。


「ありゃー強いなぁ。急に現れたが、神の使いか?それとも召喚勇者ってやつかのぅ」


「さてな。……だが、あれを見るとまだまだ上を目指せたのやらもしれぬな」


「ひゃひゃっひゃ。さもありなん。だがワシはここがいい。ここで終わりを迎えたい」


「我もだ」


「……ではな。素晴らしき日々に感謝を」


「……あぁ、さらば。掛け替えなき日々に感謝を」


「「戦士達に栄光あれ」」



 この世界に最後の傷跡が刻まれた。

 それは精一杯生きた証。

 

 今回タロウは見届ける事しかできなかったけど、それが今の自分の限界だと思った。

 どう頑張ってもこの世界を元に戻すなんて出来ないし。この世界に生きた者達は最後に終わりを望んでいた。

 もっといい方法はいくらでもあるんだろうけど。納得できない部分もあるけど。

 これはこれでいいのかもしれない。とタロウは思う。


 だから最後に、誰もいなくなった世界で、タロウは静に杯を掲げる。


 この世界の全ての者達に――栄光と祝福あれ――と。


★★★




 背景が遠ざかっていくこの感覚。見なくてもわかるエンドロールの時間。

 背後ではきっと今、文字が滝のように流れていることだろう。

 だが、今更そんなことには目もくれず、タロウは自分の『力』について考えていた。


 自分もいずれ彼らのようになるのだろうか。

 強さがいずれ限界を迎え、そして自分も終わりを求めるようになる。

 そんな実感を今回の世界で得てしまった。


 長い時間。そう普通なら気が遠くなるような永い時間をタロウは戦ってきた。

 英雄が魔王から世界を救う。そんな単純で尚且つ心躍る物語を永遠とくり返す。

 他の誰かからしたら、そんな戦うだけの永遠は苦痛なのかもしれないが、タロウにはそうではなかった。

 ずっと夢の中にいるような感覚。ひたすら強くなり続けることが出来る。自分を高め続けることが出来る。それは何と素晴らしいことだろうか。


 何者にもなれなかったあの頃の自分とは違う存在になれる。

 ただ生きているだけなんて、生を全うしていないのと同義に感じていた。

 今の自分の姿は、何よりもタロウが求めていた姿そのものだと言える。


 だが、そんな夢にも終わりがあると今頃になって気づいてしまった。

 今回の世界がまさにそれだ。

 己を高め続けた先にあるIFの結末。

 もしかしたら自分もそうなるかもしれない。

 そう思ってしまった瞬間から、言いようもない不安が胸に渦巻いた。

 考えたその瞬間にその道に歩み始めてしまった気がしてならない。




 ――英雄を殺すのに刃物は要らない。



【タロウ君】


「………」


【タロウくん?大丈夫?】


「あ、神様。はい。平気ですよ。そしてただいまです」


【うん。おかえりなさい】


 ちょっと考え込んでいたら、神様のそんな心配するような声が聞こえてきた。自分の不安が伝わってしまったのかもしれない。


【今回はどうだった?】


「あー、そうですねー。なんかモヤモヤしますね」


【キツイ?】


「ムム―。……はい。見ているだけでしたが、やっぱキツイ部分がありました。なんか考えさせられるって感じでした。あの……良かったら今回も詳細聞いていいですか?」


【詳細か……いいよ。話すね。……ごほん。あの世界はさ、みんなが共存を選び。みんなが勤勉で努力を重ねた世界なんだ】


「ぁー……なんででしょうね。一見理想郷にしかならないと思うのに。俺が見てきた中で、一番酷い状況の世界だったのが謎ですね」


【だよね】


「どうしてあんなことになったんですか」


【君も思ったかもしれないけど。世界の方が耐えきれなかったんだよ】


「・・・・・」


【生き物達は支え合ったけど、彼らの言う"みんな"に世界だけが含まれてなかった。技術は高まり、社会は潤っても、大地は死に空は枯れた。木々と水が消え、空気そのものが毒を孕み、段々と無に還る。タロウ君が見た人達が最後の生き残りだったんだ】


「あれだけの力があったのにどうにもできなかったんですか」


【うん。どうにもできなかった。そして加えて言うなら彼らは仲良しでね。誰かだけが生き残ると言う方法を選ばなかった。大を生かす為に小を殺し、ダマしダマし世界を延命させ生を紡ぎ、いつか世界を救うという道を取らなかった】


「……そんな彼らが、なんで戦ってたんです?」


【最初はね、みんな静かに滅びたいと思ってたみたいだけどね。子供たちがさ、怖がったんだよ】


「……死ぬことの恐怖ですか」


【うん。死んだらどこに行くの?死んだらどうなっちゃうの?ってね。大人達が優しく説いたんだけどね。小さい子達にはわからなかった。誠実過ぎる彼らにとって、納得のないまま子供に、穏やかな死を強いることが出来なかったんだよ】


「……なるほど」


【だから、彼らは最後に今まで育て上げた力や技、文明全てを用いて、消える世界に意味を設ける事にした――】


「それが……」


【うん。戦いだったんだ。彼らは強かっただろう?】


「ええ。全員が勇者って感じでした」


【最後にその強さの限界を発揮してみたかったんだよ。命の証明に強さを用いた。全力で、それこそ子供たちも含めて全員がぶつかったんだ。子供たちもその方が納得できたみたいだった。……私は初めて見たよ。怨みも憎しみも無く、正義も悪も無く、ただ互いを讃え合い、己が存在の意味を表す為の戦争。この世界でたった一度だけの世界大戦。世界と共に滅ぶ道を、ただの一人の反論もなく終わりを選んだ者達。……これを聞いて、タロウ君はどう思う?】


「……そうですね。んー……色々と考えさせられます……ぶっちゃければ、もっとなんか良い道があったんじゃないかなって思わずにはいられないですけど」


【うん、そうだねー……】


「……あ――でも」


【でも?】


「英雄達の戦い……最後まで素晴らしかったです」


【カッコよかった?】


「はい、それはもう。果てしなく輝いてました。誰もが天上まで届くかの如く火柱をあげ、地には決して消えない傷跡を残し、音は地平の先まで響き渡るほどに生き様を見せつけてくれました。……おかげで、俺も新たな道が見えましたよ」


【(今回の事は必要な事だったんだけど、嫌だな。凄く嫌だ。どうか終わりを望むなんて言わないで欲しいな。君が居なくなるのは寂しいんだよ?)……君はこれからどうするんだい?】


「今回のご褒美でそれを示そうかと思います」


【おお、そう言えばまだだったね。今回は魔法系にするとか前回終わった後言ってたけど、そうするの?】


「ふふふ、今回は『――』でお願いします」

 

【!?!?『――』?本気で??】


「はい。本気です」


 神はタロウの答えに驚き目を見開いた。……が、結局はタロウの思いは変わらずその願いは聞き届けられることになった。

 そして、そのまま次の世界へと光となって旅立つタロウを、神は胸に多少の不安を抱えて見送るのだった――。



★★★

またのお越しをお待ちしております。


次話から、本編の内容に入っていきます。

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