第三十一話 探り合いと機密情報。
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どこかで見た事がある"狐耳"。それも剣を携えた人物が、エキスに足を掴まれて"ビタンビタン!"されていた。
彼はギルドにわちゃわちゃ達の姿を見つけると、いきなり走って来て、"正々堂々"とマルクを攫いに来たのだ。
突然の事で、カナルとアークは動き出しが遅れたものの、そこはエキスがちゃんと反応しており、一瞬で今の状態になった。
狙われたマルクは、反撃として"拳大の氷の球"を、丁度その人の顔が地面に当たる場所に、"そっと"優しく置いてあげる作業をしている。ビタンビタンされる度に、その氷球が"何か"を潰す怪音を辺りに響かせ、あまり見てはいけない光景がギルド内には広がっているが――深く気にしてはいけない。
カナルとアークは肉片には決して目を向けず、まるで熟練の"餅つき職人"の様に息の合ったマルクとエキスの合成技に「おおおおー!」っと拍手を送っていた。
地面にそっと置かれた氷球の効果とビタンビタン!の攻撃力により、狐耳剣士の頭部はとても見せられない状態であり、普通なら死んでいるんじゃないかと疑いたくなる。だが、実は"あの人、既に経験者"なので、このくらいは大丈夫だと証明されているのだ。
――言うなれば、『彼は特殊な訓練を受けています。みなさんは絶対に真似しないでください。』というやつである。他の人だったら、氷の球"無し"でも重傷間違いないし、もし"有り"だったら即死していてもおかしくはない。だが、彼ほどになると、"そこそこ"のダメージで済むらしい。エキスの力加減が上手くなってはいるものの、普通"アレ"受ければトラウマを受けてもおかしくないのに、それを何度も何度も受けている"経験者の"彼は、とんでもない変態であると言う事がお分かりいただけただろうか――。
そんな光景に、ジークは苦笑し、白髪ライオン型ポンデお爺ちゃんは口元を緩める。
「あー、またあの人ですか」
「ふぉっふぉっふぉ。あいつも懲りないのぉ。」
「もう何度もボコボコにしてるんですけどね。それでも諦めずに来るんですよ」
「ふぉふぉふぉ。やつの行動理念は"コロコ"が喜びそうなものを手に入れて、それをプレゼントして好感度を上げる事じゃからなぁ。……まぁ、全く上手くはいってないがのぉ。"あれ"も一応このギルドでは有名なやつじゃよ。名は――」
「――見ていたので、コロコさんとの温度差はなんとなくはわかってましたけど、存在自体が不毛な人ですね。あ、名前は別に"知りたくない"のでいいです――」
「ふぉふぉふぉふぉふぉっ!そうかそうかっ。――まぁそれにしても、"残虐"な『目覚めを待つ者』としては、奴には随分と優しい対応じゃのぅ。他の者だったらもう既に"土の中"じゃろうに――」
「あははっ。嫌だなぁポンデさん。それじゃ僕たちの人聞きが悪いじゃないですか。僕達はなにも好き好んで"アレ"をやっているわけじゃないんですよ?――ただ、僕は"敵には容赦しない"と言うのを言動で公言しているだけなんです。あれだけ見せつければ、"普通の人"は恐れて、もうちょっかいを掛けてこようとは思わないでしょ?……まぁ、それも"特殊な訓練を受けた人"にはあまり効果がありませんが……。
――あと、加えて言うなら、"彼"は敵とはまたちょっと違うんですよね。どっちかと言うと"面白い人"なので、見てる分には良いんですけど、こっちに来られると"メンドクサイ人"と言うか。……ま、そんな感じです。……それにしても、丈夫な人ですね。砕けた顔面がどんどん治ってますよ」
「ふぉふぉふぉ。なるほどのぉ……。あー、あ奴のジョブは珍しくも"聖剣士"じゃからなぁ。"常時回復効果"があってのぉ、"継戦能力"がとても高いんじゃ。"普通は"あ奴と持久戦をやっても勝てんぞぉ。――まぁ、お主等が"本気を出せば"、問題なく簡単にあ奴を土の中へ送れるだろうが――」
「――いっそのこと、あのまま土の中に送って欲しいにゃ。平和になるにゃ」
ジークとポンデお爺ちゃんが話をしていると、横から猫耳魔法使いの女の子"コロコさん"が声を掛けてきた。一瞬だけ狐耳剣士さんを見たが、その時の目は何の色を映すこともない"無感情"だった。好きや嫌いと言う枠組みから、既に飛び越えた位置に狐耳剣士さんへの好感度はある模様。――こりゃ無理だよ。脈無しにも程がある。笑うしかない。
「あー、こんにちはコロコさん」
「ふぉふぉ、なんじゃ?今日はお前さんの所は『上位』に行くと言っておらんかったかぁ?」
「こんにちは。『目覚めを待つ者』のマスターさん。あとポンデさんも。私だけこっちに残りました。ちょっと"目的"がありまして。それにあそこは今、人が多すぎて魔物もいないですから、私がいなくても仲間は平気だと思います。」
お気づきだろうか?彼女の語尾の『にゃ』が無くなり、普通になっているのだ。『猫耳美少女の最大のアッピルポイントがぁぁ!!』と血涙を流して慟哭に塗れる人がいるかもしれないけれど、"自然体"以外では、気を付ければ語尾は直せるらしい。
――そう、だから彼女は今、"自然体"ではないと言う事だ。彼女はちょっとした"目的"がありここに居ると言った。そしてその目的に対する瞳は獲物を見詰めるかのように爛々としていて、微妙に彼女の腰の辺り、尻尾の近くは横にフリフリしている。まるで『いつでも飛び掛かれるぞ!覚悟しろ!!』と言っているかのような仕草だ。その狙いは当然の如く"ジーク"へと向けられている。
「……えっと、お断りします」
「早いッ!!まだなにも言って無いにゃっ!!」
「いやいや、コロコさんから語尾が無くなった時点で、何かを企んでいるのは丸わかりですから。あなたがいう目的がなんなのか直ぐに察せましたよ」
「――ぐぬぬぬ、さすが"深謀遠慮"に名高い『目覚めを待つ者』のマスター。私の考えなんてお見通しなのかにゃ。やはり年齢や種族だけではその人の価値は決まら無いにゃ」
「……えー、僕達基本的に力業でゴリ押ししているだけなんですけど……いつからそんな事になっているんですかね」
「ふぉっふぉっふぉ、お主等には色んな所から、"密偵"が差し向けられたと言う噂があってのぉ」
「そうにゃ。そして、その差し向けられた"密偵"で帰って来たものは、"誰一人として"いないと聞いているにゃ」
「あー、いやいや。僕達にはたぶん関係ないですよ。知らないですもん」
「――ふぉふぉふぉ。表情一つ動かさんとは、末恐ろしいものじゃのぅ。だが同時に面白くもある。お主等には、ギルドももう手出し出来んと判断した。静観を貫くと決めたそうじゃよ。――ほんとは言ってはいけないんじゃが、お主等には隠し事しない方が良さそうじゃしな」
「……でも、未だに一部の"教会関係"とかは煩いらしいにゃ。『魔力だまりから生まれた"ダンジョン"は不浄であり、そこに存在する"クリスタル"は悪しき魔力の結晶である。それを持つ『目覚めを待つ者』には呪いが降りかかるであろう!』とかなんとか言ってたにゃ。
私の仲間の所にも、『目覚めを待つ者』討滅依頼が来たらしいけど、私は必死で止めて保留状態にしといたにゃ。……案の定、"複数のクラン"が合同で、ダンジョン内で襲い掛かる計画だったらしいけど、結局誰もダンジョンから帰って来ないにゃ。下手したら私の所のクランも無くなってたにゃ。ほんとバカにゃ」
「ふぉふぉふぉ、そんなことがあったのか、こっちは全く知らなんだ。」
「当然だにゃ。どこもこんな情報漏らせるわけ無いにゃ。帰ってこない所の一つは、"闇ギルド"だしにゃっ!」
「なっ!なんとっ、それでかっ。ギルドも手を引くわけじゃ。そう言えば――」
目の前で繰り広げられる"機密情報"の暴露応酬にジークはゆっくりと退散していく。危ない危ない。『お前!知ってはいけない事を知ったな!生かしちゃおけねえっ!!』って展開になっては笑えないので、サササッと逃げておく。それに、コロコさんもなんか面倒な用事があった様だし、見つからない内に――。
「って、あっ!ま、待つにゃ!!『目覚めを待つ者』マスター!!は、話があるにゃ!私にあのゴーレムを――」
「はいはい。お断りしますー。ではまた――」
狐耳剣士が狙っていたことからも分かる通り、彼女もわちゃわちゃ達、特に"魔剣マルク"に興味があるらしい。たぶんマルクが使う"魔法"に"違和感"を感じるのだろう。それを態々教えてあげる必要はないし、マルクを渡せなんて言われても頷けないし、調べさせてなんて言われるのも気分的に嫌だ。マルク達を"モノ"の様に扱う人とは、あまり近づきたくないし近づかない方が良いだろう。
――しかし、ジークがササッと逃げたにも関わらず、向こうの方が足が速くて、ガシッと肩を掴まれてしまった。……グヌヌ。ウォーベットさんは今、わちゃわちゃ達の傍に居るのだ。
「――そ、それだったら!あなたに直接話を聞かせて欲しいにゃ。私もあれが欲しいのにゃっ!どうやって手に入れたのにゃ?ダンジョンかにゃ?それとも召喚?錬金?――判断がつかないのにゃ!あんなものは私も、クラン『正しき古木』のマスター"ディリ"さんも『酒狂いと暴虐者』のリーダー"ボゼル"さんも見た事も聞いたこともないって言ってたにゃ」
「ほぅ……そのお二人ってのは良くギルドに一緒にいる。仲の良さそうな――あ、あそこにいる人達ですか?」
「――あ、そうにゃ。あれにゃ」
「「仲良くなんてねぇえええええ!!」」
随分と遠くにいるにもかかわらず、こっちの声が聞こえていたのだろうおじさん二人は、揃ってクワッ!っと顔を向けて叫んでいる。――このツンデレ共めっ!
そして、そのおじさん達二人は、いがみ合った感じの状態のまま、こちらへとズンズン近寄って来ようとする。メンツが段々濃くなって来るので、来ないでも大丈夫なのに――願い叶わず。
最終的に、ジークの傍には白髪ライオン型ポンデお爺ちゃんと、猫耳魔法使いのコロコさん、何食わぬ顔で合流してきたツンデレおじさん達二人に、狐耳剣士をボコボコにし終わった、カナル、アーク、わちゃわちゃ達、ウォーベット。とみんなが勢ぞろいしてしまった。――因みに、マルクを"正々堂々"と攫おうとした狐耳剣士はギルドの中央部分、依頼書の近くで氷の十字架に磔のオブジェと化している。
そして、今既に結構な密集具合だが、まるで『それに続けー!今が好機じゃー!』と言うかの如く、入口の方からは激しく音を立てて複数の人が入って来た――。
「大変だっ!『上位ダンジョン』で"ドラゴンゾンビ"が出たぞぉぉおおおおおおおー!!!」
その目が覚めるような声と内容に、ギルド中は一斉に騒ぎに満ちて、ジークの周りでそれを聞いていた各々の表情も様々に変化している。
ただその中でも、ジーク達『目覚めを待つ者』の面々は、一同に嬉しそうな表情を浮かべた。周りと比べればそれはとても異様に映ることだろう――。
――どうやら今日も、楽しい一日になりそうである……。
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またのお越しをお待ちしております。




