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第三話 タロウ君とダイ二―さん

この作品に、アクセスして頂きまして、ありがとうございます。


昨日から始まったこの作品ですが、思ってたよりも多くの方々に立ち寄って頂けてビックリです。

それに、えっと、あの、凄くニヤニヤしてしまいました。すみません、すごく嬉しかったんです。


のんびりとした更新となりますが、良かったら今後も暇潰しとしてお使いください。


今回は、少しだけ真面目回――。


微修正。2019・3・22。


★★★




――ドッスン


      

 とある荒野の真ん中に尻もちをついてタロウは落ちた。「痛たたた。」とお尻をさすりつつ立ち上がると、目の前には今まで見たこともない光景が広がっていた。



 海外旅行なんてしたことがない上に、田舎ってのも虫が多そうであんまり好きとはいえない。だが、この一面の雄大な自然を見ただけで、なにか心が癒されている感覚がある。そしてその感覚はジワーっと身体全体に広がって満たして来ている。きっとこのファンタジー世界ってやつは、それ自体がパワースポット的な存在なのだろう。たぶん空気中に『魔素』的なものが溢れているのではないだろうか……。


 いやーほんとに来ちゃったんだな、異世界。なんでもさ、第一歩を踏み出す時ってのはワクワクするものだよね。(←出来るだけ前回の事は無かった事にしようとしている)



 おおお。なんか今じわじわとテンションが上がってきたよ。今度こそガチで冒険者になろう。街に行って、ギルドとかで登録して、有名になって、ちょっと女の子にモテたい。いや、そこまでじゃなくても良い。なにかを成し遂げたい。それが現状の俺の目標だ。



 風が気持ち良い。肌に触れる空気が温かい。異世界って素晴らしいな。

 そしてなにより――両手にあるこの聖剣と魔剣。改めて見ても、ふ、美しい。

 はぁ~(恍惚)。


 

 そんな風に荒野の真ん中でタロウ(変態)が一人の世界を楽しんでいると、不意に頭上が巨大な影に覆われていることに気づく。――鳥かな?っと上を見上げてみても、そこにはなにもいない。だが、それと同時に急に背後からぞわっとした気配を感じた。


 

 すると――


「ハーイ!ドーモ!ワタシはダイニ―です!」



 見知らぬ金髪碧眼のイケメンがそこにはいた。なんだろう……このレベルのイケメンを見ると敵だと感じてしまう。血が叫ぶ。処しても宜しいでしょうか?


 まぁとりあえず、向こうは敵意もなく、ただ爽やかに挨拶しているだけのようだ。これは爽やか且つ優雅に返すのが"一紳士"としての務めであるだろう。挨拶は大事である。


「ドーモ!ダイ二―さん。俺はタロウです!この春の風が香る素晴らしき良き日に。貴方と出会えたことをとても幸運に思います」


「あータロウさん!もうすぐ秋デース!!」


「………」


「……あ、いや、ワタシの勘違いかもしれませーん。今日は緩やかに暖かいし春と言っても過言じゃない。ハハハ、それよりもー!タロウさんはこんなところで一体何をしていたんですかー?」


「(イケメンに気を遣われた……死にたい)あー。俺は旅人……みたいなものですね。(ここがどこかわからないから迷子とも呼べるが……)」


「おー旅人ですかーいいですねー」


「いやいや、恥ずかしながら方向音痴でして。今自分がどこにいるのか、全くわからないんですけどね、ははは」


「旅人なのに?」


「んー旅人だからでしょうかね。いつも人生という道に迷ってばかりな気がしますよ(キリ)」


「おぉ、それはそれは……私も、似たようなものかもしれません」


「お?ダイ二―さんは何をなされている方なんですか」


「ワタシは……そうですねー。冒険者になりたいと思っているんでーす」


「ほう。いいじゃないですか。素晴らしいと思います。ダイ二―さんはガタイも良いし、強そうですもんね」


「……強くは……ないでーす」


「(あれ……地雷踏んだかな……急に表情が暗い。てか、あれっ!?辺りの空気まで暗くなった!?)」



 さっきまで雲一つない気持ち良い晴天だったのが、気付けば一気に曇天へと変化していた。



「ワタシは、今までとても人に言えないような過ちばかり繰り返してきました。それでも、その度にやり直そう。もう一度初めから歩き出そうと意地汚くも生きてきただけなんです……ある意味では終わりを求めているだけなのかもしれません。」


「(なんだろう……他人事には思えない親近感がある)……冒険者になれば、変われそうですか?」


「ハハハ。どうなのでしょう。自分の情けなさにいつも潰されそうになって、冒険者の強さに憧れを抱いただけなのかもしれない。だがワタシは、強い彼らみたいな冒険者を……今まで、何人も何人も、殺してきました――」


「(んんん??)」


「抑えきれない欲望と衝動が、気づいた時には何もかもを廃墟に変えてしまう。目を覚ますたびにワタシは見知らぬ血の海の中で絶望を感じ彷徨う。だが、自分で死ぬことも出来ず。誰かに殺されるのを待って冒険しているだけなのです」


「(え、なにこの急展開)……え、えっと、ダイ二―さん?あなたはいったいなんなんですか」


「ワタシは……魔王です」


「(あれれ……ダイ二―さんの額に②って薄っすらと見える……マジか)」


「驚きましたかタロウさん?でも、あなたからは力を感じます。ワタシは引き寄せられてここに来てしまいました。長い間ずっとただ終わりを求めていた。貴方は、ワタシが待ちに待っていた存在でーす」


「うおダイ二―さん!?え、な、急に瞳をウルウルさせて、手を握られても困るんですが……」


「タロウさん!!」


「は、はい!?」


「ワタシを……殺してください」


「(えぇぇぇ)……だ、ダイ二―さん。突然そんな。な、なにを言ってるんですか!え、えっと――ほら!今どきの魔王は、人助けをする人もいたりするんですよ。だから、貴方も今までの罪やなんかで悔やんでいるのなら、償いの道を探す方がいいんじゃないですかね?傷つけた分だけ代わりに誰かを救うとか。壊してしまった物を生涯かけて直すとか。これから産まれてくる生命を導くための安全な社会を作り上げるとか。色々やることはあるんじゃないですか?」


「………」


「正直な話、俺は今ここでこのままあなたを殺すってのは気分的になんか嫌だ。ダイ二―さんの事を良く知りもしない勝手な意見ですけど、あなたは良い人に見えるし。死ぬべき人じゃない様な気がする。それが俺の素直な気持ちなんですけど……」


「タロウさん……」


「ダイニーさんのお顔がブラックな企業で働き続けている知り合いよりも絶望感で染まってるんですけど……えっと、色々ともう本気でダメそうって事ですか?限界で助けを求めてますか?」


「……はい」


「……そうですか。あのその、俺実は英雄って奴になりたてで、色々とまだ良く分からない事だらけなんですけど、今急に不思議な直感が働いたんです。それで、何となくあなたの気持ちが少し伝わってきました。……殺しちゃうってさっき言ってましたが、無意識で事を処しちゃうって事ですよね」


「……そうです」


「自分ではどうしようもなくて、さっき俺が言った様な償いぐらいは試して来て。でもそんなのが償いにならない程まで酷い状況って感じですよね……沢山我慢しても、結局は抑えきれずに償いすら全部をぶち壊して台無しにして、何度も何度も絶望して、もう自分が何を見て、何をどうすればいいのかすらわからなくなって、その果てにどうにか立ち上がってここまでは来た……とか。そんな感じなんですよね」


「……はぃ……んぐっ……ぁぁ……」


「なんでかな。剣を手に入れたせい(・・)かな。……いや、剣のおかげ(・・・)って言った方が正しいのか。ご都合主義感半端ないですけど、なんか人の心の痛み、みたいなものが痛い位に俺にも急に伝わってきたんですよ。妄言甚だしくて笑われちゃうかもしれませんが、状況は大体把握しました……あなたの辛さが胸に突き刺さってくる――ってダイ二―さん、そんな泣かないで下さいよ」


「っ……ぅぅぅ」


「俺は見てきたわけじゃないし、こんなこと言う資格もありませんが、貴方はきっと良く頑張って来たと俺は思います。だから泣かないでください」


「……はぃ……」


「数多を傷つけて、その分自らをも沢山傷つけてきた、無自覚な"魔王"か……。自分で愛した者を自分で殺す展開とか悲し過ぎますよね。したくも無い事をし続けなきゃいけない辛さとか。それで誰かが喜ぶならまだしも、そうじゃないですもんね。沢山の罪に無意識で塗れるとかほんとに辛い……」


「……ぅぅぅ、ぅぅ……」


「(俺、初めてだ。目の前でこんなに苦しんでいる人を見たの……てか、俺の胸もズキズキと痛む)

……ダイ二―さん。一つだけ聞かせてください……貴方にはこの世界はどう見えてますか?」


「……闇です。真っ暗です。町も人も動物も、空も大地も何もかも全てが、黒一色に塗りつぶされ――ワタシには、もう光が見えないんです。全部が見えなくなってしまいました」


「………」


「……でも、急に光りが、見えたのです。遠く最果ての地から、眩い光を求めて、ワタシは飛んできました。貴方という――光(終わり)を求めてここに……ダロウざん……お願いじまず。ヴァダジにヒガリを、グダザイ……」


「…………………」



 一瞬、タロウは何を言われたのかがわからなくなった。脳が自然と拒否してくれたのかもしれない。

 だが、視線だけはダイニ―から逸らすことはせず、だからこそ、その思いが本心であると理解した。




 俺、なんでこんな急に殺しを求められてるんだろう。

 正直嫌だぞ。この人を殺したくなんてない。

 ……でも、凄く辛そうなんだ。どうしてあげたらいい?

 ……けど、どうすればいいのかなんて、ほんとにわかんなくて、もう思考停止寸前です。

 もっと頭良かったら、こんな時も迷わずに済んだのかなって、思わずにはいられない。



「グゴ……ぅぅ……ぁ、オォォ……」 



 そんなあまりの急展開にタロウが狼狽えていると、ダイ二―さんの様子が突然おかしくなってきた。

 嗚咽の音は、段々と低く重く苦しさを帯びてきている。

 さっき話していた様に、抑制がきかなくなってきたのだろうか。



 そして、そんな予想が当たりだと言うかの如く、ダイ二ーさんの肌の色は段々と浅黒く変化してきた。

 泣きじゃくるダイ二―さんを無慈悲に、黒が刻一刻と染めていく。

 


 ああ、神様。考える時間さえ貰えないのかな。

 えっと……英雄って辛すぎません?

 こんなの、馬鹿な俺には、ほとんど選択肢がないんですけど。

 『助ける』って選択肢は、いったいどこに売っているんでしょうか。



 ……物語の中の主人公とかって、こんな状況からでも"生きてみんなを救う方法"とか考え付いたりするけど。あれって、ほんとにすごい事だと思う。ある意味で、そんな最悪な状況がいつ来てもいいように準備したり、心掛けていたってことでしょ。そうじゃなきゃ、その瞬間に閃いたと言う体だとしても、即行動に移すのなんて普通無理だよね。今更だけど、学校で行ってた避難訓練とかもほんとは大事だったんだなって思うよ。



 あー、あと、そう言えば、俺の家って震災グッズとか非常食とかも思い返すと置いて無かったな。逆に乾パンとかって普通に盗み食いでおやつにしてた覚えはあるよ。俺、あの味が結構好きだったんだよね……。

 はは、バカかよ。現実逃避は止めろよ……。



 真面目な話。

 俺、英雄としての備え、全くなんもしてなかったよ。

 ……力も足りないから。綺麗な結末なんて、いくら望んでも手に入れられない。



 今の俺の力って、呼び出せばいつでも現れる、両手に隠された聖剣と魔剣だけだ。

 これ、敵を傷つける力だもの。どうしようもできないって。



 だから、俺には最初から一つの選択肢しかない。

 あの人が、俺に望んで、求めてきている結末しか……。






 はぁぁぁっと、深く息を吐き、タロウは一度だけ歯をギリリと強く嚙み締めた。その顔にはある種の決意が伺える。




「……ダイ二―さん。わかりました。俺が貴方を殺……いや、貴方に光をあげます……。俺に出来るのはそれだけのようです」


「ダロウザン……ズミバゼン」


「あー、気にしなくていいですって。いっそ今、我慢している全てを解き放って、楽にしてください。今の貴方は凄く苦しそうだ。最後の時まで苦しんだままじゃ辛いですから。もう我慢なんてしなくていい。……てか、最後に言うのもおかしいのかもしれないけど、もう一言だけ言わせてください。……あの、俺、あなたと普通に知り合いになりたかったです。普通に知り合って、友達になりたかったです。ほんとは殺したくないです。でもあなたをこのまま見ているのも辛いんです。助ける方法も分からないんです。バカな英雄でごめんなさい。ほんとは、もっと色んな所へ行って、もっと色んなものを見て――って、全然一言じゃないですね。……っ!!ぁ、ぁぁぁ、もうこんな少しの時間さえないのか……ダイ二―さん……」



 前回の世界で、王城の中で見た魔王よりも二回り程、大きい存在がそこにはいた。

 タロウの目からはいつしかポロポロと水が零れる。

 だが、唇を引き締め、意を決して剣を出すと、しっかりとダイ二―へ近づいていった。



「……コ゛メ゛ン゛ナ゛サ゛イ゛……ア゛リ゛カ゛ト゛ウ゛。ア゛リ゛カ゛ト゛ウ゛……タ゛ロ゛ウ゛サ゛ン゛……」



 もう人間になんて全然見えない。でも、心だけはまだ最初に会った時の、あの輝くイケメンのままだ。

 こっちに気を遣っているのだろう。我慢して苦しいだろうに、それでも何度も何度もありがとうって繰り返すんだ。

 そんな優しい心さえ、今に黒く塗りつぶされていって、全部が変わってしまう。

 それだけは見過ごしたくなかった。



 求める時、求めるだけの力を顕現せし二本の名剣を構え、完全に魔王へと変化する瞬間のダイ二―を、タロウは優しく貫いた。



 最後の時……ダイ二―さんは泣きながら笑ってくれた。

 そこに苦しみなんて露ほどにも無ければいいと願う。

 眩い光に包まれ、ダイ二―さんは彼が求めて止まなかった光へとなって、消え去っていく。



「っ……」



 その光景を見守ったタロウからは、微かな嗚咽が漏れ聞こえている。




 ……あぁぁ、ほんと、なにこれもう。切な、すぎるんですけどぉぉ……。

 涙なんてここ最近全然流してなかったんだけどぉぉ……。

 はぁぁぁ……胸が締まるぅ……。



 ダイ二―さん、ごめん。

 馬鹿で役立たずな英雄でほんとにごめん。

 どうかもう苦しみなんて感じなくなってくれたらと、それだけを切に望む。




 ダイニーが完全に光の粒となって消え去ると、世界は急にタロウを残して遠ざかっていく。

 タロウが背後を振り返ると、ついさっき見たばっかりのような気がするものが、空から地面へと高速で流れて行った。


 

 ――エンドロールか……。



★★★




「グス……グス……」



 全てが真っ白い空間、天蓋付きのベットで、リラックスしながらの神様の観賞会。

 神様は枕元に涙汁のティッシュを山の様に積み上げながら。それでもまだ枕を濡らしていた。

 すみません。どなたかバスタオルを持ってきてはいただけませんでしょうか。

 


 もっと最初の世界みたいにテンション高く「やっぱ魔王じゃねーか!倒してやんよ!!」みたいな展開になるかと思ってたけど。ほんと意外にタロウとダイ二―の相性が良くて、言葉にできない結末になってしまった。



 ほんとはこんなに早く終わりが来る物語じゃなかった筈なのだ……。なんとなく連れ添った二人が、街に行き、冒険者になり、数々の冒険の果て絆を深め、その時に始まる残酷な異変とその解決に奔走する主人公。そんな本筋が本来ならあった。その中で彼がどうするのかを見て楽しむ筈だったのだ。



 だが、そんな大筋の物語を一気に飛び越えて、タロウは物語を決した。

 これもまた一つの物語なのだろう。



 今回で成長率は0.0000003%となり、前回よりも成長率の伸びが良かった。

 これはまた何か彼にご褒美をあげるべきだろう。彼はいったい今度は何を欲しがるだろうか。





 ――パチパチパチパチパチ



「タロウくん。おかえり」


【あー神様。ただいまです】


「今回もお疲れ様……。」


【はい。前回よりも一瞬でしたけど、今回の方が精神的に来るものがありました】




 お疲れ様……。と言ってくれた時の神様の声質は、いつも以上に優しさが増量されていた。バファ〇ン級だ。

 きっと気を遣ってくれているのだろう。可愛い上に優しいなんて、今のこの傷ついた心には、さぞかし会心の一撃となるに相違ない。惚れちまうだろうがばかやろう。

 はい。きっとそのセリフが出たときには、もう手遅れですね、わかります。

 

 そんなタロウの心の声が聞こえたかどうだか。神様はほんのりと赤い顔をして「ごほん」と軽やかな咳払いを一つ。


「では、タロウ君。今回も前回同様に、なにか君にご褒美を送りたいんだけど。なにがいいかな」


【あー。そうですねー】


「武器関係を剣以外にも充実させる?それとも今度は防具とか?」


【あー。物じゃなくてもいいですか?】


「もちろんいいよー。あ、わかった!魔法とかかな?中二病の代名詞とも言える邪眼とかもつけようと思えばつけれるよ?」


【おおおおおお!それはなんとも魅力的な提案!!!神様は天才ですか!!!】  


「わはははは!私にかかれば、だいたいのことは出来ちゃうのだよ!どーんとお任せあれ。どんな能力がお好みかな~?」




 むむー。と少し悩んで見せるタロウ。

 タロウは少し元気になったようだ。その姿に神様も一安心。

 やっぱ炎系統や水、風、土などの4属性魔法かな?それともほんとに邪眼かな?

 あまりにも世界の均衡を崩すもの以外は許可してあげようじゃないか。

 ふふふ、厨二を御すのは容易いなっと内心では少しホッとする。



 ――しかし、出てきたタロウの願いは、神様の想像とは違っていた。



【……むむーーーー。よし。決めました】


「お、なににする?」


【……凄く魅力的なものばっかりだったんですけど、今回は魔法系は一旦保留にして……】


「ほぅほぅ」


【今回の記憶を消していただけませんか】


「………」


【俺の記憶からダイ二―の事を消して欲しいんです】



 神は絶句した。言葉が出なかった。

 やっぱり今までの英雄と少しズレているタロウだからこその望み。

 その理由を問わねばならない。



「タロウくん。なんでだい?」


【――え?あ。記憶を弄ったりって禁則事項的でダメとかですか】


「ううん。出来るよ。そんなことぐらい私にかかれば造作もないことだ」


【おーさすが神様。じゃあそれでお願いします】


「……うん。聞き間違いじゃないことはわかった。だが教えて欲しい。君にとってダイ二―との記憶はそんなに嫌なものだったかい?私には君たちは多少なりとも繋がりが出来たような気がしていたんだ。あんな短い時間で分かり合うなんて普通は無理かもしれないけど」


【……ぁ、あー。なるほど。神様が仰りたいことわかります。……うん。たぶん神様が仰る通りなんだと思いますよ】


「???」


【嫌いじゃないです。どっちかというと友達になりたかった。もっと話してみたかったと思います。出会った時から、なんとなく良い奴だと思ったので】


「うん。じゃあ――」


【――でもだからこそ。消して欲しい。あの人はもう光になったんです。それが消滅なのか転生なのか俺にはわかりませんが、なんとなく記憶は引き継がれずリフレッシュされるんだろうなーとは思うんです】


「うん」


【だから、あの人がリフレッシュするなら。俺もリフレッシュしておきたいだけなんですよ】


「……忘れたくないとか。大事な思い出は覚えていて欲しいとか、覚えていたいって思ったりしない?記憶を消したらもう二度と思い出せないよ?」


【また出会えばいいんですよ】


「………」


【そう、また出会えばいい。出会えるのかなんて分かりませんけど、その時には今度こそ真っ新な関係で友人になればいい。過去の感傷とかもういらない。あの人に対して恨む奴もあの世界には残っているんでしょうけど。俺は――俺だけはあの人の事全てを忘れてやりたいと思うんです】


「そう……」


【はい】


「そっかぁ……」


 

 タロウが心からそれを望んでいるんだと神様は感じた。

 これがタロウらしさなのだろうか。

 わからないけど。何故か納得できた。

 私は彼の思いを尊重しよう。

 世界の敵である魔王を、たった一人だけ許してあげる英雄を。


 

 もしかしたら私が思うような、心の機微に触れてはいないかもしれない。

 普段がそこまで考えて行動しているタイプじゃないから余計にそう思う。


 

 記憶に関しての魔法があると教えてあげた方が良いのかな。エルフなどは良く使うやつだ。

 普通なら記憶関係の魔法を、自分で得て自分に使えばいいだけの話だから。

 でも、それがあるかどうかをタロウ君は敢えて聞いてない気がする。

 そう、彼は私にそれを願ったのだ。

 本当は大事だから、自分でダイ二―の記憶を消すのは出来ないんじゃないだろうか。

 きっと心のどこかでは覚えていたいのだろう。出会いを大切にしたいのだと思う。

 


 でも、私がタロウ君の気持ちを尊重したように、彼も友人(ダイ二―)の気持ちを尊重した。

 自分の過去の汚い部分を知ってる相手と、真っ新な状態で接するのは難しいだろうからね。

 馬鹿をさらけ出し合い、清濁併せて付き合う親友(悪友)もステキだとは思うが、ダイ二―の場合は罪が重すぎる。



 そう納得したとき。神様は微笑みを浮かべていた。

 


 ――英雄よ、あなたの願い。聞き届けました。



「ありがとう神様……」



 タロウは光の粒となって飛んで行く。

 次に目覚めたときがちゃんと、英雄になっての2番目(・・・)の世界となるように。



 神様は【記憶消去】を施し、次の世界へとタロウを優しく見送った。




★★★

またのお越しをお待ちしております。

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