第二十一話 ジーク君と緊張感
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話の区切りの関係で、今回は短めです。
良かったら今日も暇潰しにどーぞ――
★★★
ジーク達がアークの服一式を買い揃えてリンクス達の所に戻ると、なにやら少し面白い状況になっていた。
「まっ、待って!!マルクっ!!ちょ、ちょっと待ってよ!」
「あああああああああ!!!」
「アタタカイ……」
今の状況を説明すると、薄紫色した1m程の丸い魔石にマルクが乗り、コロコロして逃げているのをリンクスとカナルが追いかけている。アークは一人まだ穴の中。
「傷つくからっ!!もう転がらないでっ!!」
「あああ!勿体ない!ああああああ!あんな貴重な魔石!!一財産間違いないぞっ!!!」
「ホッカホカダ……」
どうやらマルクが乗っている石はとても高価な品物らしく、追いかける二人はマルクに必死でそれを止めさせたいらしい。ジークとしては、マルクが追いかけられて楽しそうにコロコロしているので口元を綻ばせるのみである。
そして、追いかけられながらもマルクはしっかりとアーク君に火魔法を施しているようで、彼の顔色は最初見た時よりも大部良くなっている。彼が我を失って角材で地面を掘りだした時は、マルクが乗っている薄紫の魔石よりも身体が紫色に変色していた程だ。
――あっちは楽しそうなので、ジークはとりあえずアーク君へと服を渡すことにする。
「あー、アークさん?初めまして、僕はジークです。服買って来たんで良かったら来てください」
「エ、イイノカ?」
「はい。サイズが合えばいいんですけど、微妙でも少し我慢してくださいね」
「アリガトウ……」
「いえいえ」
アークは服を受け取って着ると、幸せそうに微笑んでまた穴の中へと戻っていく。
……もう出てもいいのよ?
――すると、暫く魔石に乗ってコロコロしていたマルクが、ジークに気づき、嬉しそうに魔石を持ち上げて『これ貰いましたー!』とテコテコ走って来た。ジークはそれを受け取ってみたが、魔石は思ったよりも重量感があって、剣さえ持てないジークの腕力ではとても持ち上げられそうにない。だが、其れよりもまずは、頑張ったマルクを目いっぱい褒めてあげなければ!
「――凄いねマルク!頑張ったね!!――えっ、僕にくれるの?ハハハ、ありがとね。あっでも、嬉しいけど、僕には少し重たいみたいだよ?だから、気持ちだけちゃんと貰っておくね。うんうん。だからこれは君の好きな様にしていいんだよ。さっきのコロコロするの楽しかったでしょ?良かったらエキスとも一緒に遊んでおいで。」
ジークにそう言われて、マルクは少し考えると納得したらしく、エキスに小首を傾げて『一緒にやる?』と聞いてみる。すると、エキスは道中のゴブリンから手に入れた『ヒノキスティック』を掲げて答えると――二人はキャッキャと離れていって、マルクが投げた魔石をエキスが空高く『カキ―――――ン!』っと打ち返し、2人でそれを走って追いかけていった。
「「あああああああああ!!!」」
マルクとエキスが楽しそうで自分もご満悦なジークに引き換え、ずっとマルクを追いかけていたカナルとリンクスは貴重な魔石で遊んでることに絶叫をあげる。
「ジーク様!あれすっごい魔石ですよ!!あのままだと傷ついちゃいます!!!」
「そうだよ!今からでもあれは貴重に保管してしかるべき場所に持っていった方がいいと俺も思う!!オークションとかに出せばかなりの値段が出る筈だ!!」
マルクが全く捕まらないので、ジークへと矛先を変えた二人だったが――そんな二人を見て、ジークはただ小首を傾げて問うた。
「2人にはあれが、"お金"にしか見えないんですか?」
「「えっ」」
間違いなく自分たちより幼いであろう少年のその言葉に、二人は息をのむ。
「僕にもあの魔石が貴重品であることは分かります。ですが、僕にはあれは"気持ち"に見えます。誰かを思い、助ける為に"力"を使った事の証明であり誇れるべきものであると……。僕はあれを誰かに譲る気持ちも、金に換える気もありません。あれを持つのに一番ふさわしいのは、あそこで楽しそうにしている彼らですから――」
「「………」」
ジークの言葉を聞いて、2人は呼吸を忘れる程の恥ずかしさを知る。
森から何か来ると、マルクはカナルやリンクス達にいち早く教えてくれた。
そして、マルクの言うとおりに、森からは信じられないような轟音が響いて、空を切り裂く衝撃の様なものまでが見えた。あれは、間違いなく"災害"と呼ばれるほどの魔物であったと思われる。
そんな魔物が、もしこちらに来ていれば、自分達が死ぬどころか街の方にまで大きな被害があったのは間違いない。……それをマルクはたった一人で倒してくれたのだ。そんなのは分かっていたはずなのに、カナルとリンクスはマルクが巨大な魔石をもって帰って来た事に、真っ先に度肝を抜かれ、その素晴らしさと金銭的価値に目が眩んでしまった。
――思えば、自分たちはまだ、マルクに『助けてくれてありがとう』どころか『お疲れ様』とすら言っていない。それに気づいた時、二人はとても恥ずかしいと感じたのだ。
彼らの主であるジークは、戻って来て最初に『凄いね!頑張ったね!!』と褒めていた。魔石ではなく、マルクを一番に案じていた。この違いは"人の器"として比べて見ると、とても大きい。
二人には、こんなに小さなジークがとても大きな存在に見えた。
「そうだ。ごめん。俺たちはマルクに助けられたってのに」
「ああ。俺も大人として、教官役としてここにいるのに、情けない」
「――大丈夫です。彼らは気にしていませんよ。あんなに楽しそうですもん。だから二人ももう気にしないでください」
「うん」
「わかった」
「あ、ただ一つ注意点を言わせてもらえるなら――」
そう言って二人を見上げたジークの表情は、いつもと変わらないおっとりとした顔のはずなのに、カナルとリンクスを薄ら寒くさせるには十分な迫力を帯びていた――。
「—―僕は敵には容赦しませんからね。」
その声に、カナルとリンクスの背筋は震えた。
カナルはその言葉で思い出す。たった数日前の出来事。普段との温度差がありすぎて、なぜか気を抜くと全くの別人に思えてしまうけれど、彼は間違いなく"あの夜"の人物なのだ――。自分は今はまだきっと"保留で"見逃して貰っているだけに過ぎない――。そんな恐怖を思い出した。
リンクスは、実はAランクの冒険者と同じ位の強さをもつギルド職員である。彼はとある事情で今は冒険者としての活動を休止し、『ギルドで後進育成』と『秘密のお仕事』をしているのだが、普通は数人でこなす『新人講習会』の教官役を一人担っていることからも、その実力は折り紙付きだと分かる。
そんな彼が、ここにいる理由の一つは、彼の『秘密のお仕事』の関係してきそうな"ジーク達"にあることは言うまでもない。リンクスは街の情報収集により、ここ数日の街の些細な"異変"を『ギルドマスター』から依頼され調べていた。
そして、彼が調べた結果、ジーク達は関連しそうな全てにおいて"中心人物"である恐れがあり、そこに何かの目的があるのか――。本人はどんな人物か――。所持する戦力は街にとっての脅威になるか――。などを測られている。
これらは全て、冒険者ギルドのギルドマスター"オンガ"の指示である。彼は街にとっての脅威を許さない。例え好みの男の子だとしても、それが街にとって"黒"となるなら排除は辞さない。彼の普段しか知らない者にとって、あの男はただの変態にしか見えないかもしれないが、その実、"能ある鷹は爪を隠す"を完璧に行っているだけである。
そして、今、リンクスにはジークがとても危険に映った。先ほどのあの言葉はまるで、自分に釘を刺していたのではないだろうか。その透明に近い薄い碧の瞳には、リンクスの思惑など全て透けて見えているのではないだろうか。—―そんな悪寒を感じずにはいられなかった。なによりも極めつけに、あの巨大な魔石を持つ魔物を単騎で撃破できる"ゴーレム"2体の存在は、善悪どちらに転んだとしても、脅威以外の何ものでもない――。
全くそんなつもりはないジーク達を余所に、周りは段々と緊張感を高めているのだった――。
★★★
またのお越しをお待ちしております。
追記、
総合のPVが1000超え、ユニークが300を超えました!
周りの素晴らしき作品に比べると、微々たるものと言われてしまうかもしれませんが、
私は感謝の気持ちで胸が熱いです。
いつもお越し下さる皆様、本当にありがとうございます。どうぞこれからもよろしくお願いします。
もし気に入っていただけたら、評価ポイントの方も気まぐれでよろしくお願いしますw




