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第二十話 『新人講習会』とマルク

『暇潰したい神さま。』にアクセス頂きまして、ありがとうございます。


昨日更新できなくてすみませんでした。

こ、更新したつもりになって、ぐっすりと寝てしまったとかじゃないですからね?ほんとですよ?w


のんびりとした進み具合ですが、良かったら今日も暇潰しにどーぞ――。

★★★



 —―二日後。



 本日は『新人講習会』当日である。



 参加する新人達は"南門"に、日の出前から集合していなければならない。当然、まだ冬と言う事もあり、辺りは寒い上に真っ暗である。


 そんな中、朝に弱いジークは予想通り起きられなかったが、作戦通りにウォーベットがしっかりと運んでくれたので心配はいらなかった。ウォーベットさんはとても優秀な子です。


 そして、わちゃわちゃ達もまだジークの腕の中でぬくぬくし、少し厚めのローブを羽織っているカナルはその光景を羨ましそうな眼で見ながら、ウォーベットの後ろについて歩いて行く。

 

 

 ジーク達が目的地に着いたのは、ほぼ時間通りだったが、その時に南門に集合していた人数は、ジーク達を含めてたったの3人(・・)だけであった。


 ……やはりミアさんの言っていた通り、新人達は情報を集めたり、こういうのに積極的に参加する人が少ないのかもしれない。


 でも、ジーク達以外にも一人、"基礎を大事に"思う新人がいることを、ここでは喜ぶべきことなのだろう。


 ただ、その"基礎を大事に"するもう一人は、まだまだ春も遠いこの時期に、上半身は裸、腰にはただの藁を巻き付けただけの奇抜な服装の少年だった。


 更にその少年、手にはどこからか拾って来たであろう"角材"を持ち、靴が無いのか"裸足"のままで、足が冷たくなったら交互に切り替えて"一本足"で立っている。そして、髪だけはどこかで見たことある綺麗な"ブロンド"であった。


 —―そう。……よく見れば、彼は"熱血ブロンド君"だ。

 いったいどうして、彼は見るたびに悪い意味で進化しているのだろう……。


 そんな熱血ブロンド君、耐えがたい寒さにガタガタガタと震えながら、ぬくぬくとウォーベットに包まれて寝ているジークの方を、怨みを込めるが如く、穴でも開きそうな程の目力で凝視していてとても怖い。ホラー系で絶対に目を合わせちゃダメなやつだ。


 カナルもそんな彼が怖くて、ジークの影にサッと密かに隠れている。

 そんなカナル、実は今日、昨日ギリギリ『新人講習会』に申請したら間に合ったので、ジークと一緒に行くことになった。昨日の夜は子供の様にワクワクして全然眠れなかったらしく、目の下には大きなクマが出来ているが、テンションは最高にハイってやつみたいだ。


 そしてもう一方、眠っていたはずのわちゃわちゃ達は、熱血ブロンド君が持っている"角材"に惹かれて起きたのか、なにやらシンパシーを感じて彼の周りを嬉しそうにぴょんぴょんとジャンプしていた。――君達は"剣"だよ?棍棒じゃないからね?あの子(角材)は兄妹じゃないよ?



 そんな感じで、"スライムの上で熟睡しているジーク"、"目の下に濃い目のアイシャドウ(まるで野球選手のアイブラックをつけているような)状態のクマを付けたテンションハイのカナル"、"上半身裸、腰藁、角材、裸足一本足、の熱血ブロンド君"という、異色な新人三人が揃ってしまったが、この中だと寝ているジークがまだ普通に見えてしまう気がする。



 ――こんな問題児三人と一緒に行くことになる教官役は、さぞかし大変であろう。



「あらぁ~ん!お待たせぇ~ん!あなた達の教官を務める"オンガ"よぉ~♪」



 ――そう思っていたら、逆に一番の問題児が登場してしまった。



 しかし今回は、オンガの凶行が行われる前に、背後から駆け足で20歳くらいの男性がやって来た。



「ちょっとオンガさんっ!あんたまたなに勝手に来てるんですかっ!!教官は俺でしょ!あんたはギルドマスター!ちゃんと街にいてくださいよ!!」


「……ダメぇ~ん?」


「当たり前じゃないですか!!毎月毎月懲りずに抜け出して、また怒られますよっ!俺がこっちに来る直前まで、"あのミアさん"が探してましたからね!!俺は知りませんよ!!」


「!!!……あらぁーん、分かったわぁー」


 ミアさんの名前に一瞬目を見開いた身長2mの大五郎ヘアーの男は、残念そうに肩を落としてさっさと帰って行った。……ミアさん、受付の人だけどギルド内でかなりの力を持っているようだ。



「はぁー。さてと、君達……うっ……今回は個性的なメンバーだな……(特にヤバいのが一人)。俺は今回君たちの教官役として来た"リンクス"だ。7日間、頑張って付いてきてくれよ!」


 体操のお兄さんという感じのリンクスさんは、爽やかな挨拶をしてくれた。



「はいっ!よろしくお願いしますっ!俺はカナル!今日を楽しみにしてましたっ!!あと、こっちのは俺のご主人様のジーク様です!」


「よろしくカナル。それにジークか。……ん?ジークはまだ寝てるのか?」


「はいっ!ジーク様は朝が強くないそうで、昼にならないと起きません!!あと俺は今日が楽しみで昨日から寝ていませんっ!!」


「そ、そうか。やる気があって俺も喜ばしいよ。……で、そっちの君は?」


「オレ、"アーク"……」


「あ、アークか。よろしくな。……えっとー、君はなんで、この冬空の下で裸なんだい?」


「フク……フクガ……」


「ん?服が?」


「サッキノ、アイツニ、トラレタ」


「またあのド変態!!かぁーーーーあの人はもう!!……はぁぁぁ、アーク、すまんな。あ、俺【アイテムボックス】もたされてるから、予備から何か着れる物でも…………ほ、干し肉じゃダメか?」


 彼の中で干し肉は洋服の部類に入るのだろうか。

 リンクスの言葉に、アークはただ無言で首を横に振った。


「………」


「ダメだよなっ!わかってる!それじゃぁ……テント……鍋……くっ、ダメだ。碌なのが無い」


「ナベデイイ」


「そうかっ!ナベでいいか!すまんな!食料とかなら余裕を見て持ってきてるんだが、衣類の用意は無くてな。途中で魔物の毛皮とか手に入れたら、その加工方法を教えるからそれまで我慢してくれ!」


「ワカッタ」


 右手に角材、左手にナベ盾を装備した熱血ブロンド君ことアークは、防御力こそ上がったものの、ガタガタと寒さに震えながら、この先の辛い旅路を覚悟した。


 一方、アークにナベを渡せて、リンクスはとりあえず、ホッと一安心した表情を見せる。彼は天然さんなのだろうか?


 そして、そんな二人のやりとりを聞いていたカナルは、『なんでこの人たちは、後ろに街があるのに帰らないんだろう?』と一瞬思ったが、カナル本人もテンションが少しおかしなことになっているので、『そっか!魔物を倒せばいいのか!』と納得してしまう。


 唯一、真面にツッコめるジークが寝ていたことが、アーク君にとっては災難であった。




 

 ――そんなこんなで、準備が整った(?)面々は漸く『新人講習会』の為に平原を徒歩で進んで行く。



  本日から7日程の日程で、三日で移動し、とある場所で一日を戦闘訓練にあて、また三日で戻ってくる予定らしい。


 この期間の間に、夜営の仕方、簡単な薬草類の見分け方、食料確保の仕方と解体方法、戦闘訓練、森の中での動き方、危険察知とモンスターへの対処方法、等々の経験をすることが出来るみたいだ。新人にはありがたい事ばかりである。


 また、参加人数が多い場合は、移動に馬車を使うようだが、今回は参加人数が三人と少数なので、教官役の一人が【アイテムボックス】効果付きの装備品に食料や水、夜営道具などを運んで持ってきたようだ。


 



「まず、行きはとにかく徒歩で平原を進むぞ!ここで遭遇するとされるのは、ハグレのゴブリンやコボルド、ウォルフなどだ。索敵はマメに辺りを観察することが基本だぞ。複数人での移動なら目視する範囲は分担した方が楽だ!あと、魔法やスキルで索的能力を持つ者は魔力量に注意な。魔力量は基本的に一歩街を出たら常に5割はキープしとく事をおススメする、最低でも3割は魔力を残しておいた方がいい。……まぁ、戦闘時には温存なんてそうも言っていられないと思うが、心構えとしてだけでも覚えていてくれ。もちろんその魔力は緊急時の対応用として使うんだぞ。街に戻るまでが冒険だからな!……みんな分かったか?」



 出発して10分ほど経ち、揃って平原を歩きながら、リンクスは後輩たちへ自分なりの冒険者理論を語っていた。今まで何度か『新人講習会』の教官役として繰り返し話してきた内容だけに、その口調は自信に満ちている。


 そして彼は、話の掴みはどうだろうと後ろを振り返ってみた。後輩達が熱心に聞いてくれてれば良いなと、願いを込めて……。



「りんくすさん!そんな事よりっ!突然アークさんが角材で地面を掘りだしましたよっ!!どうにかしてください!!」


「サムイ!ジメン!タイオン!サムイ!ジメン!オレハイル!アタタメル!」


「………」



 そこには寒さで我を失ったアーク君が、一心不乱に角材を地面に突き立てていた。


 ザックザックと、突き立てる度に土は地面から跳ね返り、着実に地面には穴が広がっていく。意外と掘れていることには驚きだ。既に膝丈ほどの深さはあるだろう。



 ――リンクスは、街を出て10分で、今回が今までで一番大変な『新人講習会』になるだろうと察した。



「ヌォォォォ」


 そんなリンクスの思いを証明するかのように、掘れた穴になんとか体をねじ込んで暖をとろうとするアーク君。寒さに震えるその姿は、とても涙ぐましい。


 その何かを絞り出すようなアークの声は、昼間まで寝ている筈のジークの目すら覚ますほどだった。



「……んぁ?」



 ジークが目を覚ましたら、目の前で半裸の少年が、猫ナベ状態で地面に潜って震えているのでとても驚いた。だが、そうまでしないと命が危ない、と言う彼の本能的な必死さだけは察せたので、ジークはマルクに「お願いね」と声を掛けた。



 マルクはジークにぴこっと敬礼!をすると、すぐさま【火属性魔法】で2m程の【火柱】を出してアーク包み込む。見ていたカナルとリンクスは『やり過ぎだろう!』っと驚くが、炎が納まった先にはこんがりと上手に焼けた笑顔のアークの姿があった。


 一見すると大火傷の重傷者にしか見えないが、マルクの緻密な魔力操作によりアークの体内は今、湯たんぽの様に温かホカホカの状態である。

 


「ア、アタタカイ」


「なんで彼は服を着ていないんですか?」


「んー。酷い話だけど、冒険者ギルドのギルドマスターにね――」


「――あー、そうですか。彼はまた災難にあってしまったのですね」


「また???」


「ええ、以前にも唇を奪われる悲しい事件が――はっ!まさか、あの時のショックでこんな。なんてむごいことを……奴め」


「そうか――彼は俺と同じ道を辿ってしまったのか」


「えっ?」


「えっ?――あ、いや、なんでもない。そ、それよりも君はジークだね。俺は君たちの教官役のリンクスだ。これから7日間よろしくな」


「あー、ジークです。よろしくお願いします」


「あとそっちの穴の中に入っているのが、アーク君だ。これから7日だけど仲間として君も彼を支えてあげてくれ」


「――分かりました。……ではとりあえず、一旦ここで夜営準備でもしますか?」


「えっ!?ここでか?まだ朝だぞ?」


「あ、いえ、練習みたいなものです。昼くらいまでは彼の復調の様子をみておいた方が良いかなと。あと、僕は街に戻って彼の着るものをなにか持ってきますよ」


「――な、なるほど、そうしようか。良い考えだ。」


「ジーク様。俺は?枯れ枝でも拾ってくればいいかな?」


「うん。いいと思うよ。あ、あと、リンクスさんを手伝ってテントの張り方も教わっておいて。――あ、枯れ木拾いで森の方に近づくなら、マルクを連れていった方が良いかな。……マルク!うん、そうそう、彼まだ寒そうだから継続して火魔法ね。それ以外はカナル達を守ってあげて。うん、いい子だね。よーしよしよし。エキスは僕と一緒に街に一旦戻るよ。二人ともよろしくね」


 わちゃわちゃ達はジークに撫でられると嬉しそうにぴょんぴょんして、その後マルクはカナルの肩にシュタ!っと飛び乗った。


「それじゃあ、みんなよろしくお願いします。ちょっと行ってきますね」


「わかった。」

「ジーク様いってらっしゃい」


 カナルとリンクスに見送られながら、ジークはウォーベットに乗って街まで戻って行った――。


 




 街に戻る途中で、ハグレのゴブリンがジーク達に襲い掛かってきたが、エキスがわぁーーっと突進していくと、その風圧だけで消し飛んだ。その時、そのゴブリンがもっていた"小さなヒノキスティック"をエキスは嬉しそうに掲げていた。どうやら棍棒系統がわちゃわちゃ達は大変お気に入りらしい。今更だがほんとうに彼らは剣なのだろうか。



 ジークが街に戻ると、ちょうど日の出と共に騒がしくなる街並み、街自体が目を覚ますような光景を目にした。通りには冒険者達や住人達の喧噪、屋台や露店、店を開ける人達の忙しそうな姿、朝日に当たってその人達がみんな笑顔に見える。

 

 そんな朝の空気に清々しさを感じながら、ジーク達は目的の市場区へと向かい、アーク用に上下一式の服と、厚手のマントを購入した。その途中、少し寄り道をして例の肉串店のおじさんにも会い、少しだけお話をしていたから、リンクス達の待つ場所へと戻るのは、少し遅くなってしまうかもしれない――。





 ――、一方ジークのいないリンクス達の方は、密かに問題が発生していた。


 マルクが泣いてしまったのだ。ちっちゃくつぶらなキャップ頭のいったいどこが目なのかは分からないけれど、ひたすらポタポタと涙を零していた。



「マルクどうしたの?あ、あのっ!えっと!!泣き止んでっ!!どうしようっ!」


 そんなマルクの姿は、リンクスとアークは気付かなかったが、一緒に森の浅い所まで枯れ木を拾っていたカナルは気付きオロオロしてしまう。



 でも実は、これはマルクに何かが起きたわけじゃなく、いつもの事だったりする。


 基本的にわちゃわちゃ達は『主を守る』と言う目的の為に同じ様な行動しているので、一緒くたに見られてしまうかもしれないが、彼らは"自我"を得た時に"個性"も得ている。


 それがマルクの場合は、"寂しがり屋"属性なのだ。ジークかエキスが傍にいれば大丈夫だけれど、一人だけ離れて行動するとなると、寂しくなってこうなってしまう。


 ただそれによって何も出来なくなる――と言うことは無く。ジークに任された嬉しさもあるので仕事はキチンとこなす。今も泣きながらもスタコラと歩いて枯れ木を拾い集めているのだ。



 ――そして問題は、そのが魔力の凝縮されたものであると言う事であった。


 まだ、リンクス達は誰も気が付いていないけれど、森の奥地からはその魔力に引かれて、大型の魔物が木々を轢き倒しながら物凄い速度で迫って来ていた。


 森に棲む魔物たちは"ソレ"から逃げるように我先にと一斉に駆け出し、そのざわめきはその内否応なしにリンクス達にも届くことになるだろう……。



 ――実は、その大型の魔物とは"地竜"。それも体長が30m級の大きさの個体であった。


 マルクの魔力は魔物にとってとても甘美であるらしく、人の街の傍にある森の奥地で密かに生活していた地竜を起こしてしまい、基本的に大人しい性質であったその地竜を狂わせてしまった。


 まだ距離が幾分かあるものの、もしそれがカナル達のいる場所や街に突っ込んでしまえば大惨事は免れない事だろう。



 ――ただマルクは広範囲に魔力で【気配察知】【危機感知】のスキルを用いていたので、既にいち早く気づいた。


 急に泣くのを止めて、森の奥地に身体を向けるマルクの変化に、心配そうに後ろから見ていたカナルも森の中で異変が起こっているのだろうと察する。



 マルクはぴょんぴょんしてカナルに近づくと、リンクス達の方を手で示して『あっち行ってて?』とカナルにお願いしてみる。


 カナルは、なんとなくそれを逃げる合図なのだと理解し、頷きを返してマルクと一緒に逃げようとするも、マルクが動かない事に驚いた。



「マルクっ!お前は一緒に逃げないのか?」 


 カナルの言葉にマルクはコクコクと頷き、カナルを指してからリンクス達の方を示す。


「俺だけ逃げてろってことか?何かが来てるんだな?」


 マルクはカナルが分かってくれたことに嬉しそうに頷いた。

 小さなお手てでバイバイとしているマルクの姿に、カナルは少し心配になるが、"マルク"と"エキス"の力はあの夜に怖い程身をもって知っているので、自分はリンクス達への注意喚起へと走った。




 走り去っていくカナルを見て一安心するマルクは、敵に対処するため【風属性魔法】を使って空を舞う。


 暫く飛んで行くと、森の中から高々と上がる砂埃と、木々の拉げる轟音、けたたましい叫び声が聞こえて来る。



 もし、あの通り道に冒険者がいれば助かるものはいないだろう。まだ人が少ない早朝であった事は僥倖と言える――。



 



 その地竜は、空を見上げて、目的の"モノ"を見つけた。まるで砂漠で見つけたオアシスの如く、今はなによりも"アレ"が欲しい。だが、その湧き上がる欲求と同時に、狂気によって"アレ"を破壊したい衝動にもかられる。


 そして地竜は、初撃から自身最大の攻撃を放つべく、口腔に魔力を高め、マルクへ向けて迷いなく放った。


 ――空へと薙ぎ払わる【ブレス攻撃】である。


 森に放てば一瞬で更地に変える程の威力をもったその一撃は、地竜の狂気によって更に魔力を限界まで高められた状態で放たれる。もう同じ威力の一発は撃てない、一回こっきりの自分の身体をも省みない攻撃。地竜の口の中の歯などは、全部がへし折れてしまっていた。



 —―だがしかし、それほど強力である筈の一撃は、マルクがペシッ!っとビンタするだけで、空の彼方に霧散して消えて行った。



 地竜は、その光景が信じられなかったのか、狂気化したにも関わらず、口を開けたまま固まった。



 そして逆にマルクは、地竜が動かないのを見ると、今度はお返しとばかりに【地属性魔法】によって地竜を食す(・・)ことに――。


 地竜は自分の攻撃が逸らされたことに呆然としていたが、次の瞬間、足元から尋常じゃない痛みを感じ、その方向へと首を傾け信じられない光景を見ることになった。


 ……足が"土に"噛みつかれているのだ。


 産まれてから今までずっと、慣れ親しんだ地面。それも自分の最も得意とする【地属性】の支配において、アレはそれを上回る攻撃を仕掛けてきた。魔力で強制的に抵抗レジストしようとも弾かれ、どうにか力技で抵抗を試みるも、相手は大地だ動く気配すらない。地竜は深い絶望にかられながら、生きながらにただ食われていく。



 ――ゴリゴリムシャムシャ。信じられないような痛みと共に発せられる地竜の悲鳴。


 ……結局、1分もかからずに大地に捕食された地竜は、大地の栄養へと早変わりした。



 マルクはその光景に満足すると、今度は地竜の通って来た跡地に目を向ける。

 荒れ狂った地竜によって、周囲に撒き散らされた歪な魔力残滓と破壊された跡は、そこに住む精霊たちの悲鳴から、森が深刻な被害を被ったのだと教えてくれた。


 マルクは地に下り立ち、地面に両手を付けて土地の精霊と森の精霊の力を高めるように働きかける。

 荒れ狂った魔力は先ほどのブレスと同様に散らし、元の状態へと整え、弱った木々には地竜を捕食した大地から魔力を分け与えた。


 この際だからと、目視できる範囲において、マルクは木々にも移動・・してもらって、地竜の足跡を埋め、みんながちゃんと日に当たれるようにと木と木の間隔を少しだけ整えもした。


 マルクからすれば、そうすれば枯れ木集めも楽になる。さっきは集める時に少し歩きづらかった。と言う、そんな小さな理由で行われた魔法ではあったが、人間が定める魔法の難易度において軽く"上級上位"にあげられるものであった。



 ――最終的に、まるで最初から何もなかったようになるまで、しっかりと森が整ったのを見届けたマルクは、さっさと帰ろうと踵を返す。


 だが、そんなマルクに森と大地の精霊は感謝を述べる為、地面からポコッとあるものを飛び出させ、マルクへと向けて差し出して来た。


 飛んできたそれをマルクがフワッとキャッチすると、それは薄紫色に輝く宝石の様な石、一般的には魔石と呼ばれる物で、さっきの地竜の魔石であることが分かった。普通ならばマルクが使ったさっきの魔法で、大地に捕食された時点で全て無くなってしまうはずなのだが、精霊がちゃんと確保してくれたようである。


 『これを渡せば、ジークは喜んでくれるだろうか?』とその直径1m程になる球体の魔石を、マルクはありがたく貰うことにし、精霊たちにバイバイしながらリンクス達の元へと帰って行った――。



★★★

またのお越しをお待ちしております。


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