第十五話 ジーク君と夜闇の襲撃
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今回、間に合わないと思って、見直し出来ないまま更新したら誤字とかが酷いことに……orz
手直し前に読んでしまった方々、ごめんなさい。
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『ユパジルバーバ』のとある屋敷の一室。
「それで、その後の状況はどうなっておるのだ?」
「……は!現在、回収班を差し向けており結果を待つだけとなっております。」
「ふむ。……愚かにも捕まった者達のその後は?処理は終わったのか?」
「は!そちらは恙なく。」
「ふむ。……ならば宜しい。……だが、なんとも待ち遠しいものだな。」
「彼の物はそんなによろしい物なのですか?私にはただのゴーレムにしか見えませぬが……」
「ふんっ。そなたもまだまだ目が肥えておらぬな。あれを偶々街中で一目見た時、私はそのあまりの素晴らしさに、心の臓が止まる思いをしたものだ。あれは、私の様に本当の価値が分かるものこそが持つべきものだと言えるだろう。それこそ、あんな平民のガキが……それも冒険者であったか?」
「は!調べたところによりますと、彼の少年はまだ登録したての新人Fランクの冒険者であるとの事。それに登録したは良いものの、未だに一つも依頼を成功させてないという話でございます。」
「……勿体ない!!なんと言う宝の持ち腐れであるか!!あのように素晴らしきものを持ちながら上手く使いこなせていない者の典型的なパターンである!!あれを私が手に入れたあかつきには、以前よりの計画を本格的に推し進めるぞ。そなたにも今後より一層励んでもらうからな、覚悟だけはしておくように!」
「は!全てはプリッツァー伯爵様のお心のままに――」
夜闇に刺客を放ち、成功を信じて疑わない二人は、未だ知らない。
その敵がただの子供である筈が無い事を。
★★★
夜になってジークは目を覚ました。だが、そこはまだ冒険者ギルドの資料室の中であった。
椅子に座りながら寝ていたので、身体のあちこちが痛い。やっぱりいつもとは違う。改めてウォーベットの素晴らしさを再確認した。
みんなはどうしたのだろうか?そう思って見渡すと、ウォーベットは壁の傍でシクシクと悲しそうにしていた。あっ、これは勝手に他の場所で寝てしまったからかな?そんな気がする。
「ウォーベット!ごめんね!僕、知らない間に寝てしまった……。でも、ここで寝たせいかな、身体のあちこちが痛いんだ。やっぱり君じゃなきゃダメみたい。君の素晴らしさを改めて思い知ったよ!――いつもありがとうねウォーベット!良かったら今後もずっと僕といてくれると嬉しいな」
ウォーベットは何度か拗ねるようにこちらをチラチラと見ると、最後に『ほんとにぃ?うそじゃない?』っと聞いてるかのようにプププルンっと震える。ジークはその気持ちを察すると深く頷いてウォーベットを抱きしめた。
「もう君を離さないからね」
そう言ったジークにウォーベットは、再度プルンッ!っと高らかに震えると、その喜びを身体中で表わしてジークを受け止めて抱きしめ返した。まだ知り合って短いけれど、ジークは既にその細かな震え方の違いで感情を表すウォーベットの気持ちを正確に察することが出来るようになっていた。これはスライムマイスターには必須の技能と言えるだろう。
さてと、ウォーベットとの信頼関係を修復出来たし、ウォーベットの上には既にマルクとエキスがお手てを繋いでスヤスヤと寝ていた。もう暗いし早めに宿へと帰って、自分ももうひと眠りしたいものである。
ジークは資料室を出ると、ギルドのカウンターへと退室の旨を伝えるべく近寄って行った。
その途中、横目でチラリと酒場の方へ顔を向けると、そこには店名に恥じない、荒くれ者達と酔っ払いの宴(毎日開催)が繰り広げられており、いつか見たガングの様に、泡を吹くまで酒を呑んで倒れる若い冒険者が沢山いた。当然、強者達は未だ激しき戦いの真っ最中である。これは巻き込まれたらメンドクサイ事になりそうなので、そそそーっと静にカウンターへと向かう。泡を拭いて倒れる者の中に熱血ブロンド君達がいた事には目を瞑っておこう。……彼らには『強く生きて欲しい』。ジークから言えることはただそれだけだ。
そんなこんなで、カウンターには軽い報告だけして(ミアさんは居なかった)ジークは夜道をウォーベットに乗って宿屋へと向かう。もう遅い時間帯だし、もしかしたら満室になっているかもしれない。その時はしょうがないからギルドに戻って、今度こそは熱血ブロンド君を介助してあげてもいいかもしれない。
—―っとそんな時だった。
ふと、胸がざわつく感覚があった。なんか見られてる?後ろからつけられてる?なんか良く分かんないけど、嫌な感じがした。……もしかして、す、ストーカーですか?
ろくに電灯があるわけでもないので、道は真っ暗闇、恐怖が2倍に膨れ上がったように感じる。
すると、目の前の方から、複数の人、……5人程が明らかに近寄ってきた。そして、その人たちは何も言葉を発しないまま襲い掛かって来た。
気が緩んでいたのは否めない。だが、まさかまたもや街中で盗賊(?)に会うとは思わなかった。思っていたよりこの街の治安は良くないのかな?
そんな風にジークが思っていると、容赦なくその盗賊はナイフの投擲を行ってきた。
柄から刀身まで全てが黒く塗りつぶされているであろうそれは、この闇に交じってしまうと殆どその姿を捉えることが出来ない。投擲された方は何が起こったのかさえ分からないまま死んでいてもおかしくない。
普通なら、そうであろう。だが、ジークにはそれがなんとなく見え、なんとなくウォーベットに身体を沈ませて回避することに成功する。ナイフは頭の上を鋭い速さで通り過ぎて行った。そして、遅れて彼らが敵であることを悟った。
「みんな!敵だよ!」
ぐっすりと気持ちよさそうに寝ていたわちゃわちゃ達を起こすのは忍びないが、このままではウォーベットまで危険にさらしてしまう。
前回の盗賊より尚明確な殺意。これはもう許せるレベルを超えている。楽には死ねないと思って欲しい。
珍しくジークの怒気を含んだその声を聞いたマルクとエキスは飛び起き。一瞬で現状を把握した。
ウォーベットは危険からジークを守ろうと、自分の身体でジークを包み壁になろうとする。
なんて優しいのだろう。そう思った。だが、それではウォーベットが傷ついてしまう。
それにもう大丈夫。マルクとエキスの雰囲気が一気に変わった。
「マルク、エキス。迎撃。瀕死に留めよ」
そして、そのジークの一声をきっかけにして、2人は目の前から一瞬で消え去り、遅れてくぐもった悲鳴が聞こえてくる。だが、後ろからも来る。
ジークはなんとなく感じ取っただけだが、【火属性魔法】で青白い炎を作り出すと、そこだ!っと思う場所へと飛ばした。小指の爪程もない小さな炎だが、的確に当てれば人を殺すのなど雑作もない。
「グワッ!なっ!これは!!グッ、消えぬ!ア゛!ア゛ア゛!ア゛ア゛ア゛ァァァァ」
「クッ!これは!いかん!一時退け!」
指揮官だろうか。その男の声を聞いた3人程の男たちは一斉に闇に紛れて消え去る。
それと同じくして、前方を処理してきたマルクとエキスが帰ってくる。
「ウォーベットありがとね。マルクとエキスもお疲れ様。瀕死状態で残すのは大変だったでしょ」
元の明るい声に戻ったジークにわちゃわちゃ達とウォーベットは嬉しそうにジークに引っ付いてきた。
みんなにケガが無くて本当に良かった。
だが、こんなの下手をしたらケガじゃすまないよ。ここでさっきの奴らを逃がせばまた襲ってくるのは火を見るよりも明らかだ。
「……マルク、奴等って追える?」
ジークは足に引っ付いてこちらを見上げていたつぶらなキャップ頭にそう尋ねてみた。
すると、マルクはコクコクと頷いてみせて敬礼!している。その姿からは『命じてくだされば、すぐにでも追えます!』っと言っているように思えた。ほんとうに良い子達だ。
「二人とも連戦で悪いけど、あいつらは放っておけないからね。……エキスはマルクと一緒に行って、敵の潜伏地が判明したら僕らの所まで報告に戻って欲しい。マルクは僕らが来るまで、ずっと目を離さないで奴らを監視しててね。二人とも頼んだよ」
ジークから『頼む』と言われた二人は嬉しそうに一度だけピコッと敬礼!するとすさまじしい速さで闇に紛れて行った。
ジークとウォーベットは、エキスが戻って来るまでは瀕死の盗賊と燃えカスになった奴のお片付けだ。
さてさて――今日は少し夜更かししなければいけないみたいだ――。
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