第十二話 宿屋と雑貨屋
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★★★
「30……31……32……33!銀貨は33枚かー。だいたい一人につき4枚くらいかな。良い稼ぎになったねー。マルク、エキス、ウォーベット。みんなお疲れ様。ありがとね」
街中で急に絡んできた恐らく盗賊(?)の面々を倒してその持ち物をゲットしたジークは、スライムのウォーベットの上で戦利品を調べていた。ウォーベットにはガングおススメの安宿へと進路をとって貰っている。
それにしても、先ほどの戦い。マルクとエキスはとてもよく戦ってくれたので、ぎゅーっと抱きしめて褒めに褒めた。わちゃわちゃ達はキャッキャ!っと嬉しそうに逆にジークを抱きしめ返してくれる。
ウォーベットも今、男たちの武器とか服を一緒に運んでくれているので撫でてお礼を言うと、プルンっと震えて『大丈夫だょ~♪』っと笑顔で返してくれている気がした。
そうこうしているうちに、呑気に南側の道の途中、ガングが教えてくれた場所へと到着する一行。
そこは、見た目木造の日当たりの良い二階建ての建物で、看板にはベットのマークが描かれている。
この世界では識字率がそこまで高くはないらしいので、絵で何のお店なのか出来るだけ判別できるようになっているらしい。
看板を見てしっかりと確認したジークは、ウォーベットに再びお礼を言い、みんなを引き連れて中へと入っていく。
そのお店は一回が食堂。二階が宿泊スペースと言う構造だった。
今は、昼も過ぎて、一階スペースにお客さんが見えないが、30歳くらいの女性と10歳くらい女の子の二人が店内の掃除をしているのを見た。二人はどこか顔が似ているのでたぶん親子だろう。
店の扉がぎぃーっと鳴り、お客であるジークが入って来たのを見ると、女性の方がジークへ、良く通る声で声をかけてきた。
「いらっしゃーい。もう昼過ぎちゃったから、今だとパンとスープしか出せないよー。食事はどの時間帯でも一律銅貨5枚。宿泊だったら一泊大銅貨2枚。どうするね!」
「あー、宿泊だけでお願いします。この子達も一緒で大丈夫ですか?」
「おや。これは珍しい。【テイマー】さんかい?うーん、スライムが通った道は綺麗になるって言うからね。普通だったら宿の裏に行ってもらうところだけど、その子だったらいいよ。あと、残りのジャンプしてる元気な子達は暴れ過ぎない様にだけ注意しておくれ!」
ウォーベットと一緒だとよく【テイマー】に間違われてしまうが、いちいち否定するのも大変なのでスルーするジーク。
「はい!わかりました。じゃあ、大銅貨2枚」
「はい。ありがとねー。あんたたちの部屋は二階に上がって3つ目の部屋だよ。あっ、貴重品類は自分で持って管理しておくれ。宿に置きっぱなしにしても、盗まれたなんだってのは店側じゃ補償出来ないからね。」
「はい!わかりましたー。お世話になります。」
「はいよー。」
宿屋に入って興奮しているのか、わちゃわちゃ達は元気にぴょんぴょんして、宿の女の子は机を拭きながら横目でチラチラとその姿を見ている。どうやら彼らに興味があるようだ。
ジークがスライムのウォーベットに再び乗ると、わちゃわちゃ達もジークに引っ付いて、みんなが一緒になって二階の部屋へと向かって行った。女性と女の子は微笑ましそうにその後姿を見送る。
「お母さーん。あれはなんだったの?」
「んーなにがだい?……あー、あの男の子の傍にいた、小っちゃい子達かい?」
「うんうん。」
「あれかー。あれは私も始めて見たねー、なんか魔道具の一種じゃないかい?」
「へぇー!魔道具!!いいなー、いいなー!あの子達欲しいなー」
「わっはっはっは!ならあんたも働いてお金いっぱい稼ぐんだね。あの子服装がちゃんとしてるし、たぶんどっかの貴族様だろうねー。たぶんあの子達も高いと思うよー」
「そっかぁ……。それなら諦める。お金稼ぐって大変だもん。」
「わはははは。そんならあの子達がこの宿にいる間だけでも触らせて貰ったらいいさ。あの子、おっとりした子で優しそうだったから、たぶんそれぐらいなら許してくれるよ。」
「うん!わかったー!……あ、私、机拭き終わったから。お父さんの方の手伝い行って来るね」
「あーい。行ってきなー。……ふぅ、魔道具ねー」
一人残されたその女性は、ジーク達が上っていった方の階段へと目を向け、小さく溜息を吐いた。
一方、宿屋の二階、三番目の部屋、ベットが一つ置いてあるだけの簡素なその部屋の中で、ウォーベットはベットに倒れ込もうとしたジークをブロックしていた。
「えっ……どうしたのウォーベット?」
ウォーベットはベットの前に陣取ると、回り込んでベットに行こうとするジークを急に阻止してきた。
まるでその身に、"ディフェンスに定評がある池上"が憑依しているかのように素晴らしい動きだ。
その行動はたぶん、暗に『そんなどこの馬の骨とも知れないベットなんか使わずに!私を使えばいいじゃない!!』っと言っているような気にさせる。そんなウォーベットに萌えた。
ジークはウォーベットの気持ちを察すると、満面の笑みでわちゃわちゃ達と一緒に、バッ!っとウォーベットにダイブした。
「えへへへ。そうだねごめんねウォーベット。うん、やっぱり君の寝心地が一番だよ」
そう言うと、ウォーベット嬉しそうにプルンっと震えた。
結局、暫くウォーベットに揺られながら、マルクやエキスと遊んでいたら、ジークは体力を使い果たし、気絶してそのままその日は寝ることになった。
—―翌日。
まだ薄暗い時間帯にジークは目を覚ました。隣にはマルクとエキスがすぅーすぅーっと寝息をたてている。どうやら魔剣や聖剣も寝るらしい。大人しいわちゃわちゃ達もこれまた愛らしいものだ。
起こさない様に、そっと静かに起き上がったジークは、まだ寝ているウォーベットからも離れると、窓の方へと近づく。
木窓をひっそりと開けて、冬の朝の冷たい空気をその身に隈なく浴びる。……寒くて死にそうになった。
ウォーベットは体温調整が出来るらしく、寝てると意外と温かい。炬燵並である。
身体がすっかりと冷えてしまったので、ここは"二度寝"と言う治療法を処方する以外にあるまい。
……はぁぁぁ、ぬくぬくである。幸せである。
本当は『万戦不死』の面々に教えてもらった事の一つ。『冒険者は早起きして行動する』を実行しようと思っていたのだが……うん。明日から頑張る。
—―そんなこんなで、次にジークが目を覚ました時には、日もすっかりと上っていた。
「あー……マルクもエキスもウォーベットも、おはようー」
目を開けたら、わちゃわちゃ達がこっちを覗いていたので、ウォーベットも含めてぎゅーっとしたら、三人とも大喜びした。朝の柔らかな憩いのひと時を楽しむ。
暫くして、「さて、今日も冒険者として頑張りますか!」っと、身支度を早々に整え、一階へと下りる。
すると、丁度良く厨房の方から顔をだした女の子と目が合った。
女の子は「あっ!」っと声をあげると、走ってジークたちの方へ近寄ってくる。……なんだろうか?
「あの!おはよう」
少し顔を赤らめて恥ずかしそうに挨拶をしてくる女の子、少しクセのありそうな栗色の髪をしているが、顔立ちは整っていて、将来は美人さん間違いなしだろう。
「あー、おはようございます」
「私、ケティーです。あなたは?」
「僕はジーク。こっちのスライムはウォーベット、こっちの白い身体がエキス、黒い身体がマルクだよ。」
「へぇー!へぇー!ねえ!その子達って魔道具?高いの??さ、触ってもいい?」
「うん。いいよ。魔道具じゃ――」
「ありがとうっ!!」
魔道具じゃないよって言おうとしたけど、女の子はよっぽどわちゃわちゃ達に触りたかったのか、ジークの返事を聞ききる前にマルクとエキスに突撃していった。二人も女の子との触れ合いを楽しんでいる。
――そこへ、昨日の女性が店の入口の方から入ってきた。
「あ、あんた。この時間まで良く寝てたねー。今日一番の寝坊助の称号はあんたのものだよ。どうする?朝ご飯食べていくかい?自慢じゃないが、うちの亭主の作る飯は、私が作るより10倍美味いよ!」
「……おはようございます。あー、興味は引かれますが、なんかまだお腹空いてないので、朝ごはんは大丈夫です。ほんとうは昨日、冒険者ギルドに用事があったんですけど、うっかり寝ちゃったんで、早めに顔も出したいですし。」
「あら。あんた冒険者だったのかい?でも、うちのケティーと同じくらいの年齢だろ?」
「はい。10歳です。」
「あらま、一緒だよ。ふむー、その年でもう冒険者かい。大変だねー。過去を詮索しないってのが宿屋の女将としての私の美学だから、深くは聞かないけれど、泊まるとこに困った時はいつでもおいで。そこらの店よりよっぽどおまけしてあげるからね。」
「はい。ありがとうございます」
「よし!気を付けて頑張りな!……さぁケティー!そろそろ掃除の時間だよ!手伝っておくれー!」
「はーい、じゃあねあなた達。いつでも私の所に来ていいからねー。いってらっしゃい!」
宿屋の娘ケティーは随分とわちゃわちゃ達を気に入ってくれたようだ。……あげないからね?
女将さんとケティーの二人揃ってニコニコとジーク達を見送りをしてくれた。
この宿の雰囲気は素晴らしいね。この街にいる間はこの宿を拠点にすることにしよう。
宿を出て、冒険者ギルドへと向かうジークだが、ふとスライムのウォーベットに乗っている剣やその他服など盗賊達から巻き上げた物が目に留まった。……正直、邪魔である。なので、ギルド近くの店でそれらを売り払って、二束三文を手にしてからギルドに行く事にする。
そして、目に留まったのがギルドの3軒隣にある、雑貨屋さん。
おそらく初心者向けの装備や、必要な道具類などが売られているそのお店へと入っていく。
店内には武器も当然おいてあるのだが、『ゴジさん』のお店で見たのとは比べるべくもない程、その品質はお察しだ。まあ何も買うつもりはないので、こっちの品物が売れればそれだけで問題ない。
現状無人のカウンターだが、先にジークは8人分の男性の服を店のカウンターへと並べていく。
—―すると、店の奥から突然「いらっしゃ~い」と言いながら、身長2mくらいの大五郎ヘアーの筋骨隆々のクネクネした生き物がやって来た。
……おや?ここは雑貨店だと思っていたけれど、ダンジョンの中だったのかな?ダンジョンボスが登場してしまったよ?それもオーガの奇行種とは恐れ入るね……。
「あ~らあらあら。可愛いおきゃくさまね~。"オンガ"の雑貨屋へよ~うこそ~!」
「(人語を話せるだと!?それにこの悪寒……まさかこいつ!ニュータイプ(新種)か!?)」
ジークは"それ"に驚いてタレ目を限界まで見開き、プニプニだったウォーベットは固まり、わちゃわちゃ達はジークの前に出て、この人外の攻撃に備えている。
ジークは掠れる声でなんとか尋ねた。
「お、オーガが何故ここに……?」
「あらやだぁ~"オーガ"じゃなくて"オンガ"よ~。ワタシなんでか良く間違われるのよね~。君もおちゃめさぁ~ん。……フハハハハハ!大丈夫ぅ~、そんなに警戒しなくても成人前の男の子は食べたりしないからぁ~安心してぇ~。仲良くしましょう~。……収穫は5年後ね……ジュルリ」
「ひぃぃぃぃ」
オンガの笑い声と最後の囁きはどっしりとした重低音で、思わずジークの背筋には冷たいものが走った。更になんでか、ジークの歳は正確にヤツには把握されている。
ここには長居してはいけない。早く売るものを売って出てしまおう。
「あ、あの、これ、売れますか?」
「ど~れどれどれ~。……ふ~ん。剣と服ね~。う~ん、売れるけど、このままじゃ売れないわねぇ~。貴方のお名前を教えてくれれば、たぶん売れるわぁ~ん」
何を言っているのだろう、この人外。……だが、しょうがないか。
「じ、じーく……です」
「かわいい!お名前まで可愛いわぁ~ん。よ~しぃ、それじゃあ買い取り金額をお支払いするわね~」
「は、はい」
「じゃあ、"これ"でいいかしらぁ~ん?」
そう言ってオンガから出されたのは、なんと"金貨"だった。あの盗賊達の持っていた剣は、そんなに良い品物だったのだろうか。それともあの服?……いや、どっちもそんなに大したものには到底思えない。何かの勘違いだろうか。
「あ、あの、これってそんなにするものだったんですか?」
「い~え、安物よぉ~。剣と服、全部合わせても銀貨数枚ねぇ~」
「……えっ、じゃあなんで金貨を――」
「5年後の君の身体をいただく。その値段を合わせ――」
「ぎゃあああああああ」
重低音で恐ろしい事を言いだしたオンガが、その全部を言い切る前に、全ての品物を放り投げてジークは叫びながら店を出て行った。わちゃわちゃ達とウォーベットも素晴らしい反応を見せてジークに続く。
いきなり叫んで店を飛び出たジークに、街の人は何が起こったのかと視線をよこすが、どこの店から出てきたのかを確認したとたん、全員が納得したような表情に戻っていった。
『もう二度とこの店には近づかない。絶対にだ!』そう深く心に誓ったジークだった――。
★★★
またのお越しをお待ちしております。




