第十一話 ジーク君と心の折り方
『暇潰したい神さま。』にアクセス頂きまして、ありがとうございます。
今回はいつも以上に難産でした。
もしかしたら書き直しあるかもです(震え声)
★★★
街中で急に絡んできたその男に対し、ジークは悪そうな笑みで答える。
「……ハハ」
「アァ!?何笑ってやがる!!」
「あー、いや、あなたは僕にちょっと"お話"があるって事ですよね?ここじゃなんですから、場所を変えましょうか?」
「……ふん。物わかりいいじゃねーか」
「あっちの奥の方でいいですか?」
「……おう、こっちだ。ついて来い」
――変なガキだ。それがその時の俺の素直な気持ちだった。
脅しにビビってりゃまだ可愛げがあるってもんだが、そんなことは一切なく、寝ながら歩いてるみたいなおっとりした顔しやがって、何考えてんだかわかったもんじゃねえ。
ま、言われたままついてくるんだ、馬鹿なガキには違いねえがな。
ほんといったい何を考えてこいつの方から奥の行き止まりの道に行こう、なんてぬかしやがったかわかんねえが……残念だったな。
実は、最初から俺もこいつを仲間が待つその奥の暗がりに連れ込む予定だったんだんだ。これでサクッとこいつの持ち物全てはぎ取って、暫くは遊んで暮らしたいぜ。
まー、一つだけ注意するとすれば、こいつが乗ってるスライムか。
こいつ、たぶん【テイマー】だろうな。そこらのより多少は大きめなスライムに乗ってるからって、勘違いして調子に乗ってやがる馬鹿なやつだ、大きくてもたかがスライム、この先で7人も待ちかまえてる俺達の敵じゃねえ。
そのスライムもちゃーんとぶっ潰して、素材は全部金に換えてやるぜ。
――あと、因みに、こいつの一番の旨みはアイツの傍で歩いてるちっちゃな"ゴーレム"らしい。たまたま武器屋で話を少し盗み聞きしてた仲間の一人が、あれは『鍛冶屋のゴジ』が驚くほどの一品だっつー話を聞いたそうだ。あの『ゴジ』が驚く品だ。売れば間違いなく高値が付く事だろう。
おいしい仕事だぜ。
★★★
さてさてさて――。不愉快ですが、楽しい展開になってまいりました。
案の定、少し暗い道を進んで行くと行き止まり。そして、タイミングよく男の仲間たちらしい厳つい者達が7人程追加で現れた。ジークを逃がさないように、元の大通りへ続く道は塞ぐ形だ。
また、その誰もかれもが冷たい視線をジークへと向けている。危ない目だ。暴力に酔ってもいるのだろう。みんな薄ら寒い笑みまで浮かべていて、まるでもうジークを人間としてすら見ていないように感じる。
きっと彼らの中では、ジークはただの"獲物"なのだ。冒険者が魔物を狩る時と同じ様なもの。そこに優しさや思いやりなんて一欠けらだって残ってはいないんだろうな。
彼らが冒険者かそれともただの盗賊かは知らないけれど、『万戦不死』の人達みたいに一緒にいて楽しい人達と同じ空間に居たい。
……はぁぁ、気に入らないな。全くもって気に入らない。
何よりも気に入らないのは、あの人達、マルクとエキスを金蔓でも見るかのような、厭らしい目で見て来るのだ。
それによってわちゃわちゃ達も警戒を強めて、いつもの元気さがない。小動物みたいにジャンプして、嬉しそうにしている姿が何よりも愛らしいのに。
――と言うことで。彼らはこれより敵です。盗賊認定です。
盗賊は生死を問わず衛兵に引き渡す。そして、倒した盗賊の持ち物は倒した人のもの。
ふふふ、合計で8人。一人も逃がさず、逆に身包み剥ぎ剥ぎしてやんよ。
「――おいガキ!聞こえてんのか?」
おっと、そんな事を考えていたら、敵が何か言っていたようだ。どうせ大した内容ではないだろう。スルーです。
そもそも、なぜこの状況で、あの人たちは未だ呑気に話をしようとしているのだろうか。
あっちの腰にさしたままの武器はそのままの状態である。
僕はもう、武器を出して構えているというのにね。
「あ、ウォーベット。巻き込んでごめんね。少しそこで待っててね」
声を潜めてラージスライムのウォーベットに告げると、ウォーベットは『了解~♪』と頷くかのように一度大きくプルンッと震えた。
「おい!お前!耳はついてんのか?返事も出来ねえのか?痛い目見ないとわかんねえのかぁああ?……クソガッ!!さっさと金目の物を出せって言ってんだよ!」
「マルク……敵は全部逃がしたくないんだ。お願いしてもいい?」
ジークが声を潜めてお願いすると、魔剣マルクは嬉しそうにコクコクと頷き、地面にペタッと手をついた。
きっと魔法を使ってくれているのだろう。これで敵は逃げられなくなる筈だ。
「もういいっ!おい、さっさとあのガキの身ぐるみ全部剥いじまえ!あと、あっちの小せえゴーレムも忘れんな!逃げられねえようにしろよ!」
「「「おう」」」
ジークが只管に無視をするので、青筋を浮かべたその男は遂に怒鳴る様に他の男へと指示をだした。
指示を受けると、先ずは3人程の男が前に出て、ジークへと歩みを進める。
「エキス……敵は全部瀕死にしよう。彼らが死んでしまったら、衛兵の所まで運ぶのが大変そうだ」
ジークの方に振り返らず、敵から視線を外さないまま、ぴょんぴょんとジャンプで答えるエキス。
これで各員への指示だしと準備は整った。
さぁ、始めましょうか。一方的な戦いを――。
ジークと、マルクと、エキスの方へ、一人づつ近づいてくる男達。
――だがしかし!
一閃!敵である男たちが気づいた時には、既にその三人の顔面は潰れ、バタバタと倒れ伏した。
エキスもマルクもいい子だ。あとでいっぱい褒めてあげなきゃ。
「「「………」」」
「「「……は?」」」
「あいつら……なんで倒れてんだ!?」
「何が起こった!!」
敵の数人が呆気にとられ、残りは騒ぎ散らすだけ……やれやれ。
これが戦場とかだったら、そんなことしてる間に死んじゃいそうだよ。
彼ら、思ってたよりも弱い。
戦いなんて実際はあっという間だ。ダメージを与えても与えても死ぬ気配のないボスキャラじゃあるまいし、殆どの兵士は何が起きているのか分からないまま、一撃を貰って死ぬって状況は少なくはない。
だからこそ、少しでもそうならない様に、思考を止めてはいけないし、常に動く事を忘れてはいけない。
生き物は、生きている限り、動き続け無ければいけない。
止まる事など、死に絶えてから幾らでも出来るのだから。
そんな"当たり前"さえ出来ずに、誰かに戦いなど挑むなんて――。
ってあれ……僕、どこでこんな事を学んだんだろう。
――いや、今はまだ戦いの途中だ。そっちに集中しないと。
……だけど、この感覚。戦いの空気と高揚感。それだけで思わず口角が上がっている気がする。
僕、もしかしたら、今、とんでもない顔してるかもしれない。
そんな感じで、ニヤリとジークが悪く輝く笑みを浮かべると、男たちは気合の叫びと共に、一斉に襲い掛かって来た。
――だが、それもまた瞬き2回もしないうちに、殆どの男たちが最初の三人と同じように顔面が潰れて地面へと倒れ伏す。
そして残ったのは、一番後方にいた男。ここまでジークと共に来た最初の男だけである。
一斉に襲い掛かったは良いが、瞬く間に目の前の仲間全てが倒れてしまったので、その男の戦意はもうあまり高くないご様子。でも、無駄な威勢だけは残っているようで、声を荒げるのだけは忘れない。
「お前……なんなんだよっ!!」
「僕はジークです。冒険者ですよ」
「ちがうっ!!!そんなこと聞きたいんじゃねえ!!いったい俺の仲間に何しやがったんだっ!!!」
「あー、見えなかったんですか?それならたぶん力不足ですね。どうします?あなたはもうかかってこないんですか?それとも逃げてみますか?ここで見ててあげますよ?」
「グっ……な、なに言ってやがる。」
「だって、あなた、既に戦う意思を失ってるじゃないですか。敵わないと分かったら、撤退を選ぶのが普通でしょ?」
「ク、クソ、クソガッ!!ガキの癖に調子に乗りやがって――」
もはや大声で叫ぶだけしかできないその男を見ていて、ジークは何かがプチッと来た。
軽くキレちまったよ。
「無駄口を叩くなよ」
「っ!?」
「口を使う時ってのは、魔術師においては詠唱の内容、戦士においては呼吸のタイミング、どちらも戦いにおいては敵に知られない様に潜めて行うのが基本ですよ。初心者においては、敵に口の動きだけで知られてしまうという愚を晒してしまう事も間々ありますが、貴方の様にただ喚き散らすのみに使うよりは遥かにマシだ。……貴方さっき、僕に聞きましたね『お前はなんなんだ?』と。僕からも一つ、聞いていいですか?
……お前達、ふざけてるのか?」
「……ひっ」
表情はおっとりとしたまま、ジークは底冷えのする声音でその男へと問いかけた。
その声はとてもジークから出たとは思えないほどの威圧が込められている。
それを聞いてしまった男は、訳も分からず、急に身体の震えが止まらなくなってしまった。
そして、自然と男の足は元来た方の道へと走り出し、無意識で『逃げる』と言う選択肢を選んでしまう。
――だが、既にそれも叶わず。男は見えない壁に阻まれた。
「クソォッ!!なんでだっ!!なんでいけない!!!!なんでっ!!!」
向こう――大きな通りを何人もが行きかう姿――の景色が見えているにもかかわらず、手も足も声すらも届かない。
意味が分からない。逃げられない。混乱が止まらない。目尻には涙すら浮かんでいる。
すると、そんな男にファイト一発!闘魂注入!!と言うかの如く、ビンタが襲った。
「ぶばっ!!!」
ビンタで吹き飛ばされながら、空中を舞ってその男が見たのは、道や壁、更には何もない空間のそこかしこから濃い影が伸び、ビンタのスイング練習をする数多の『手』だった。
「……うわぁあああああああ!!!!」
この場の空間の殆どを気持ち悪い『手』で埋め尽くされ、男は尻もちをついたまま悲鳴をあげてジークを見上げる。
「おかえりなさい」
ジークは悪く輝く笑顔でお出迎えだ。
その際、一際黒く輝く『手』がその男の頬を数度撫で、それから頭を『ガシッ!』っと掴みあげてジークの目線と同じ高さに持ち上げる。
その男は恐怖のあまり下半身が緩み、細やかとは言えない粗相をしてしまう。
その瞬間、男の中にあった支えみたいなものは儚くも砕けた。
頭を地面に擦り付け、覇気のない声で「すみませんでした」「許してください」を何べんも繰り返す。
まるで人形の様になってしまった。
――おやおや、どうやらやりすぎてしまったらしい。
「すみませんでした。許してください。何でもします。」
「ん?」
今、なんでもって言ったね。
そうか、それだったら――。
その男のその言葉に、ニヤリとこの日一番の笑顔を浮かべるジーク。
—―そしてその日、『ユパジルバーバ』の南側にある衛兵の兵舎へと、8人の全裸の男達が行進していった――。
★★★
「プス……ふふ……プススス」
どこまでも真っ白なその空間に、ポツンと存在する天蓋付きの大きなベット。
そのベットの真ん中で、膝を抱えながら小さな笑い声を漏らす神さまがいる。
タロウの消失からずっと涙ばっかりだった神は、久々に笑顔になれた――。
もう彼はタロウ君と違う存在だ。
でも、微かに残っただけの彼が、まるでタロウ君の様な行動をする。
微妙に残ってるなら、それは当たり前の事の様に感じられるかもしれないが、実際はかなり違う。
……ほんとはあり得ないんだ。ほとんど空っぽなんだもん。別人が生きているようなものなんだよ。
それなのに、ちょっとした仕草や、あの顔、そしてあの意地の悪い戦い方なんて。タロウ君そっくり。
思わず笑ってしまったよ。
自由奔放で、敵にはほんと容赦ないんだけど、その戦い方が変で――
『俺、心折戦闘を心掛けます!戦いは出来るだけ地味に相手が嫌がることをしたほうが効果的なのです!!』……って良く言ってた。
それって、弱点を攻めるのと一緒じゃない?定石なんじゃないの?って聞いても――
『いえ!弱点を攻めるって良い事ばかりじゃないんです。もっと地味な部分を攻める方が良いと俺は思うんですよ。……弱点って、実は攻めすぎると快感に変わって、ドМ歓喜な耐性が付きかねないんです。だから、ひたすらビンタでおちょくるとか、爪楊枝で敵の武器を破壊するとか。耐性が付きにくくて、相手が混乱する状況、良くわかんなくて、分からな過ぎてもう無理……みたいな状況に持っていった方が、俺的にベストなんじゃないかなって!ま、大体の敵は聖剣と魔剣だけで楽勝なんですけどね。わははは!』……だってさ。
ジーク君を見てたら、その時の事思い出しちゃった。
まあ、今は戦い方だけじゃなくて、その聖剣と魔剣すらなんでか動き出しちゃってるけどね。
あれ、ほんとになんで動いてるんだろう。……全く、私まで混乱させてどうするんだよ。フフフ。
あの子達と微妙に繋がってるおかげで、"嬉しい"とか"楽しい"とか、私にも伝わって来て、それが温かくて凄く心地良い。
元気もいっぱい貰っちゃった。
当分世界の成長は諦めよう。
神のルールは少し破っちゃうことになるけど。
彼の終わりを見るまでは、暫くはこのまま見続けていたい。
どうか、彼の行く先にも幸多からんことを――。
★★★
またのお越しをお待ちしております。




