表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/72

第十話 ジーク君とゴジさん

『暇潰したい神さま。』にアクセス頂きまして、ありがとうございます。




★★★


――翌朝。


 うーうー……と、複数の男たちの二日酔いの呻き声と言う目覚ましで起床したジークは、ギルドのカウンターで既に打ち合わせが終わり、旅に出かける間際の『万戦不死エターナル』の面々と目が合った。


「お、起きやがったな!」

「ん。寝坊助」

「わはは。昨日は疲れたんだろうさ。」

「私たちは慣れてるもんねー」



 四人はジークに気づくと、口元を緩め微笑みを見せる。



「みなさん。おはようございます。」


「ああ!おはよう」


「早いですね。もう行くんですか?」


「いやー。もう日が出ちまってるしな。そこまで早くもねぇぞ」


「ん。冒険者は早朝に出立して、暗くなる前に帰る。これ基本」


「ほぉなるほど。知りませんでした。僕も明日から早起きします」


「うん、それがいいよ。あ、あとね、昨日は私たちとか他の馴染みの冒険者も目を光らせてたから平気だったけど、街中でも平気で人の物を盗む冒険者や盗賊みたいな人もいるから、もっと気を付けるんだよ?君、気づいたらどこかに売り飛ばされちゃいそうで――」


「そ、それは確かに怖いです。気を付けますね。……あ、盗人って、もしそんな人を見つけたらどうすればいいですか?」


「そりゃもちろん!生死を問わずに衛兵に引き渡せばいいぜ!もしかしたら懸賞金とかかかってて金が貰えるかもしれないしな。あと、倒した盗賊の持ち物は暗黙の了解でそいつのものだ。素っ裸になるまではぎ取るのも忘れんなよ!だはははは」


「ガング!!そんな悪い事まで教えないでよ!!」


「んんん?その件は私はガングに賛成」


「もー!メイシィまでー!」


「わははは。まーまー、いいじゃないか。俺達は今日で他の街に行ってしまうんだ。ジーク君へのアドバイスは過剰なくらいで丁度いいよ。どこに危険があるかもわかんないしさ」



 彼らはもう違う街へ行ってしまう。そう思うと中々個性的なメンバーだっただけに、少し寂しく感じてしまった。


「……みなさん、ありがとうございます。みなさんも"ダンジョン"では気を付けてくださいね。ご活躍を期待してます!」


「おぅ!任せてくれ!」

「ありがとう。頑張ってくるわ」

「ん。ジークも、気になったらいつでも来ると良い」


「……お、そうだジーク!そう言えばお前!武器は頼もしいのがいるけど、まだ防具はなんもねーよな?」


「はい。持ってないです」


「だったらよ。鍛冶職人区に『ゴジ』って名前のドワーフがいるんだが、そこは俺達『万戦不死エターナル』の行きつけなんだよ。俺からの紹介で来たって言えば、たぶんおまけくらいはしてくれる筈だ。腕もいいから、金が貯まったら色々作って貰え」


「はい!わかりました!」


「あ、あとな、お前まだ夜営の準備だったり、獲物の解体の仕方だったりとかの冒険者の心得的なもので分かんねー部分が多いと思うんだが、一応ギルドで月に一回、7日ほどの合宿で初心者講習会みたいなのもやってんだ。これは申し込んでおいて損はねぇ。次回は確か5日後だったな。さっき受付で聞いたから間違いはねぇ。……俺達も新人の頃にお世話になってな、かなり為になったからな。これもお墨付きだと思っていいぞ」


「おおおお!ガングさんがいっぱい情報くれるー!!ありがたいー」


「がはははは!もっとありがたがってくれていいからなー!!お、そう言えば格安で良い宿屋の情報なんだが――」


「「「(こいつ、ジークの事好きすぎだろ)」」」


 長く一緒にパーティを組んでるアイードとメイシィ、ポーフェの三人が呆れる位、今のガングは嬉しそうにジークへと色々教えている。

 こいつ誰だよ。こんな顔見た事ねえよ。と思わずニマニマしてしまうのは仕方がないだろう。



「さーて、ガング!そろそろ行くぞ!話しの続きは次回会った時でもいいか?」


「おう!そーだな!長居してると次の街に着くのが夜になっちまうな。じゃあなジーク。元気でやれよ!またな」


「はい!色々ありがとうございましたー!気を付けて!いってらっしゃーい!!」



「「「「行ってきます!!」」」」



 ダンジョンがある街へと向かう『万戦不死エターナル』の面々を、ジークとわちゃわちゃ達は手を振って見送った。ほんとに清々しい程に良い人達だった。



 さてと――。


 大部、日が出てしまったが、今日からジークも本格的に冒険者として活動開始である。


「ウォーベット。マルク。エキス。三人とも行きたい場所とかある?」


 ラージスライムのウォーベットと魔剣のマルク、聖剣のエキスはジークにぎゅっと抱き付くと首を横に振って見せる。『行きたい場所ないよぉー。ジークの行きたい場所でいいよー。』と言っているようだ。



「よし。なら、ガングさんが言ってた鍛冶屋さんとか、宿屋とか探しつつ街の探索しよっかー。おいでー」



 ジークのゆっくりとした歩みにわちゃわちゃ達は嬉しそうに引っ付いてくる。今日はまだまだ見て無い場所の多いこの街『ユパジルバーバ』の探索になりそうだ。



 まずは、鍛冶屋とかその他色々のお店がある街の東側の生産区へと向かう。

 段々と近づくにつれて、人の数も増え、露店の数も多くなってきた。

 ここは店舗を持てない、若い職人の作品だったり、個人的に作成したアクセサリー、魔道具、日用品、薬品、などが売られている様だ。他にも色々と面白そうで、一日じっくりと眺めているだけでも飽き無さそう。


 しかし、今回は目的の場所がある。ガングさんにおススメされた『ゴジ』って名前のドワーフが営んでいる鍛冶屋さんだ。腕が良いと言っていたし、武器を売っている露店のお兄さんに聞けばその場所もすぐに見つかるかな――見つかった。


 露店ゾーンがしばらく行った先で途切れていて、その先にある鍛冶職人区の店舗が集まっている所の、黒い看板が掲げられたお店が目的地らしい。


 中に入ってみると、店内の壁際には所狭しと武器や防具が置かれ、一応は種類毎に分けられているみたいだ。また、幾人か他にもお客さんがいるようで、商品を食い入るように見入っている。


 まあ、とりあえずは『ゴジさん』に話をしようと、奥のカウンターへと向かうジークは、そこでブスッと不貞腐れた表情をしているドワーフのおじさんを見つけた。

 


「あー、こんにちはー」


「………」



 どうしよう。挨拶が返って来ない。挨拶は大事。もう一回挨拶してみて、返事が無いようだったら、エキスを突撃させなければいけない。



「あーあのーこんにちはー。あなたが"ゴジさん"ですか?『万戦不死エターナル』の方々から紹介されてここに来ましたー」


「……おぅ。あいつらか。ヒヨッ子のくせして、いっちょ前に人様へ武器屋の斡旋とか……あんの生意気共が。……そんで?お前さんは誰で、何しに来たんだ?」


 『万戦不死エターナル』の紹介と言ったら、ゴジさんはちゃんと挨拶してくれた。それも微妙にハニカム感じだ。きっと彼らとの仲も良いのだろう。



「初めましてー。僕はジークです。昨日冒険者になったばかりの新人ですが、その内ゴジさんに防具作ってもらおうと思いまして、今日は挨拶と下見に来ましたー」


「……ほぉ。お前さん、不思議なガキだねぇ。普通店には買い物に来るもんだろうに。来た目的が"コネ作り"と"情報収集"たぁ……なるほどねぇ。アイードのクソガキが好みそうなこってぇ。あと、お前さん。見たところ武器も何も持ってないようだが、作って欲しいのは防具だけなのかい?今どき魔法使いだって杖の一つは持つもんだ。……ふむ、腕力はなさそうだが、ほれ、あっちの壁側にはお前さんでも使えそうな性能の"短杖"なんかもあるんだ。時間があるなら目を通しておきな」



 ポーフェさんとメイシィさんが言ってた事ってこの人の受け売りかな?有り難いけど武器・・ならば最高のがあるから大丈夫だ。

 

「親切に教えてくれてありがとうございます。でも僕、武器ならもっているので!防具だけでいいんです」


「……もしかして、後ろにいるスライムかい?」


「あ、いえいえ。違います。この子はお友達です。僕の武器はこっちの――あ、マルク。エキス。ちょっと抱っこするから、こっちおいで。そそそ。よいしょっと!」


「……っ!?」


 ジークの足元に引っ付いてて、マルクとエキスの姿は鍛冶屋ゴジにギリギリ見えていなかった。なので、抱っこしてカウンターに乗せてみると、ずっと不貞腐れた様な表情だったゴジもさすがに驚いたようだ。


「はい。この子たちが僕の武器です。二人とも挨拶して。そそそ!うん、完璧。はいはい。よーしよしよしよし」


 鍛冶屋のゴジさんにもちゃんとペコペコっとお辞儀して、最後に敬礼!までちゃんと挨拶できたのでしっかりと褒めてあげる。うちの可愛い子達の教育方針は、褒めて伸ばす!これに限る!(この方法しか知りません)


 わちゃわちゃ達がカウンターの上で嬉しそうにジャンプしてると、目を見開いて驚いていたゴジさんが急に指をわなわなさせて、突然、聖剣エキスをガシッと捕獲した。


 それがあまりにもいきなりの事で、ジークは吃驚したが、急に掴まれた方のエキスは嬉しそうにジタバタとするだけで反撃の素振りはないようだ。ゴジさんも危害を加えるつもりではないらしい。

 そして、そんなエキスの姿を見て、マルクも『ガシッ!』とされたいのか、自分からゴジさんの方へとぴょんぴょんと近寄っている。

 ゴジさんはつぶらなキャップ頭に見詰められて、なんとなく察してくれたようで、エキスと同じようにマルクも『ガシッ!』としてくれた。ゴジさん、良い人だ。


 暫くジタバタして遊んで貰ったマルクとエキスはご満悦のご様子だ。



「あ、あのーゴジさん?」


「あ、あぁ。いきなりすまねぇな。だが、こいつぁ、インテリジェンスウエポンズか、なんて珍しい。久々に驚かされたぜ。……お前さん、素晴らしいものを持っているな」


「おおお、ゴジさんは彼らの素晴らしさが分かってくれますか!」


「そりゃもちろんだっ!そこらのアホみたいな魔法使いがこれを見ても、"ゴーレム"か"魔道具"位にしか思わねぇだろうが、見るやつが見ればとんでもねぇ品物だって事は一目瞭然だ!!こいつらを言葉で表すなら『力の結晶』であり、言うなれば『究極の美』そのものだ。俺みたいな一介のドワーフ職人からすると、正に夢の一品だな。生涯でこれほどの作品を作り上げることが出来たら、その瞬間に死んでも構わねぇって思うぐらいの存在だ。……ふ、年甲斐もなく熱くなっちまったぜ……ま、確かに、お前さんの言うとおりだ。この武器があれば、他の武器なんか必要ねぇだろう。……うん、納得だ。必要なのは防具だったな。よし!お前さんは気に入ったぞ。金が出来たらいつでも来な。それに加工して欲しい素材等があれば、なんでも上手く防具に活かしてやるから、そっちも忘れんな!」


「は、はい!その時はよろしくお願いします!!早めにお金作ってきますね!!」


「おう!!待ってるぜ、頑張れよ!!……あと、またその子らを良く見せてくれ…………バイバイ」


 おおお、マルクとエキスの魅力で、ゴジさんのキャラが一気に好々爺となってしまった。

 帰り際には、マルクとエキスが手を振ると、ゴジさんまで手を振ってのお見送りですよ。

 あんなに嬉しそうに接してもらえると、こっちまで嬉しくなってしまうね。

 

「(楽しいな。他にも面白いものがありそうだ。他の区も見て回ろうかな)」


 っと、生産区を離れたジークは、街の西側にある市場の方へも足を運んでみる事にする。

 街の北側は貴族区らしく、簡単には入れない上にあまり楽しそうではないので興味ない。


 途中で、体力の尽きかけたジークは、ラージスライムのウォーベットに乗せてもらって市場の屋台通りを進んで行く。

 ここには色々と美味しそうなものがいっぱいあった。お金無いから食べれないのが残念過ぎる。


 そして、しばらく進むと、特に凄く良い匂いのする肉串の屋台がある。ここには行列まで出来ていた。


 その屋台の主人は30歳位の顎鬚を生やしたおじさんなんだが、その手際は筆舌に尽くしがたいほどに素晴らしかった。凄く生き生きと働いていて、これこそがまさに俺の天職!とでも言わんばかりに楽しそうだ。


 なんかダンスパフォーマンスを見ている様で、肉串は食べれないけど、この場の雰囲気だけでこのお店が気に入ってしまった。

 今後もここには通ってみようと思う。



――すると、その時。一瞬だけおじさんが瞳に剣呑な雰囲気を宿したのをジークは感じた。



 屋台の周りにいる他のお客さんは気づいてないようだが、おじさんは辺りの気配を探っているように思う。


 ジークは密かにマルクに「周りに危ない人いる?」っと聞いてみると、マルクはうんうんと頷きを返してくれた。


 ……ふむ。危ないことに巻き込まれないうちに、この場は去った方が賢いかな。


 そう思ったジークは、少し名残惜しくもそのおじさんの屋台を離れて、冒険者ギルドがある街の南側へと向かう。その際、ちょっとだけ屋台のおじさんと視線が交わった気がした。何事もなければ良いな。


 ガングがおススメしてくれた宿屋は、ここからギルドに向かう途中にあるので、そこを軽く下見をしてからギルドに戻り、今日の宿代分位になりそうなクエストでも受けてお金を稼ぐのがこの後の予定だ。



 ――だが、やはり早々簡単に物事は進まないようで――。


 マルクとエキスの二人が頻りに周りをキョロキョロと落ち着きなく警戒しているのをジークは感じた。


 これはさっき、おじさんの所で感じた危ない人がこっちに来ちゃったかな?……それとも最初から僕たちが標的かな?ガングさん達にも盗賊みたいな人がいるって聞いたし、ここは気を引き締めた方が良いだろう。


 そう思っていると、道が少し開けた場所に来た時に、向かいから自然な感じを装って近づく男を察知した。これはスキルとかではなく、なんとなく怪しく感じただけだ。


 案の定、その男は、ウォーベットに乗ったままのジークへいちゃもんをつけてくる。


「……おっとぉぉぉ、危ない危ない。危うく転んでケガをしてしまうところだった。街中でそんなスライムに乗ってて、他のやつに迷惑だとは思わないのか?」


「はい?」


「……ハイじゃねーんだよ。迷惑だって言ってんだ。おめぇのその不注意せいで俺がケガしたら誰が責任とってくれんだぁ?あぁ?わかってんのかガキ!」



 街中にも関わらず、男の声は段々と荒々しくなっていく。周りの街の人達はササッと通り過ぎる者と、少し離れたところから状況を観察するものに分かれていた。


 誰の助けも無く、気の弱い普通の子供だったらこれだけで委縮してしまいかねない状況だが、ジークはニヤリと悪い笑みを浮かべていた――。



★★★


またのお越しをお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ