7
(フェイ、そろそろ起きた方がいい)
精霊と同じように心に直接響くように聞こえるその声に、深く沈んでいた意識が浮上する。
A級の魔物ケンタウルスを探して森の奥地まで来ていたのだが、ちょうど日当たりのいい芝生の「安全地帯」を見つけてしまった。精霊が集う場所である安全地帯には魔物が一体たりとも近寄ることはできず、休憩地として無くてはならない存在だ。
ここは小高い丘になっていて、横になりながらも森を一望できる。頬を撫でる風があまりにも心地よいものだから、少し横になるつもりが微睡でいたようだ。
私が眠っていたせいで暇を持て余していた相棒のハヤテは、私の無防備なお腹を鼻先でつついた。ハヤテは馬の外見をしているものの、幻獣であるペガサスである。その純白の毛並みは絹よりもなめらかで美しく、淡い蒼の瞳は宝石のように澄んでいた。馬との違いといえば、飛ぶときに巨大な翼を展開することと尾が長いということだろうか。
ハヤテと森の奥地で出会った二年前、ペガサスは伝説の存在であることを知らなかった私は、何の気なしに拠点であるフヨールの街へ連れて帰ってしまった。それから暫くのあいだ大騒ぎになり、王都の騎士団や貴族からの接触が絶えなくなったのは苦い思い出だ。
「ごめんよ、ハヤテ」
一応謝っておくが、私が森で眠りこけてしまうのはいつものことだ。ハヤテは馬らしく鼻を鳴らした。
私は苦笑いしながら、風で乱れたハヤテの鬣を手で整えてやる。私がこうして冒険者としてやっていけるのも、ひとえに際限なく力を貸し与えてくれる精霊と、確固たる支援をしてくれるハヤテのおかげだ。
ハウゼントで精霊魔法を使うことはなかったが、それほど難しいものではなかった。ただ力を貸してくれる精霊を募り、精霊力を分け与えてもらうだけだ。精霊の手を離れた精霊力は、上手く取り込むことさえできれば、私の望みのままに精霊魔法として具現化することができる。最後の段階に慣れてしまえば、面白いほど自由自在に精霊魔法を操れるのだ。
また、翼をもつハヤテがいることで魔の森での移動が圧倒的に速くなったことは大変ありがたい。それに、想像もつかないほど長い時を生きているハヤテは、魔物の特性や弱点を知り尽くしている。重点的に攻撃する箇所と手段が分かっていれば、図体が大きな魔物も倒すことは不可能ではなくなった。
一時期は自分の手に負えないと思っていたこの黒い剣も、魔物と対峙していくうちに唯一無二の相棒へと変わっていった。大岩でさえも軽く切断してしまうミスリルの剣は、魔物の硬い表皮を容易く切り裂く。魔物は金属を嫌うという共通の特性も相まって、なかなかの攻撃手段として活用している。
不意に、ただならぬ気配が空気を揺らすのを感じた。そのすぐ後に、ドォーンという地鳴りが鳴り響く。
「魔物か……」
展望のいい丘の頂上まで駆け上がり、音のした方向に目を凝らすと、土煙が立ち込めている場所があった。どうやら、蛇型の魔物が暴れているようだ。長い体をうねらせて木々を薙ぎ倒しながら、次第にこちらへと向かってくる。
私が探している魔物はA級ケンタウルスなのだが、こうやって目的以外の魔物と遭遇することは珍しくない。
こっちは寝起きなんだけどなぁ、と憂鬱になる気分を振り払って、戦闘態勢へ切り替えた。
「ハヤテ!」
元の場所まで駆け下りながら、同時に走り出したハヤテの背に飛び乗り、空へと飛びたつ。魔物が目視できるほどの距離で旋回しながら、縦横無尽に動き回るその姿を観察した。
それは凶悪な牙を持つ巨大な蛇だった。目算だが、奴が口を開けたなら私など丸呑みされてしまいそうだ。蛇型の魔物にしては珍しく、外皮はドラゴンのような光沢のある緑の鱗で覆われている。
(こいつはワームだな。ドラゴンの一種だ)
「あれが?手も足もないじゃない。それに、図鑑の資料には蛇型って書いてあったよ」
そう、確かA級指定欄の棚で見かけたはずだ。載っていたのは目撃情報だけで、目にもとまらぬ速さで目の前を駆け抜けていったため、身体的特徴以外何もわかっていないようだった。だが、少なくとも高ランクの魔物であることに変わりはない。
ハヤテのおかげで高ランクの魔物を相手取れるようになったとはいえ、精霊と同様の性質である「魔力」という存在が、非常に厄介だった。
精霊力が負の方向へ捻じ曲がった魔力は生物に憑依し、その個体が変容を遂げ異形となることで魔物は生まれる。魔物の生命源である魔力は、精霊力を吸い寄せ、魔力へと転換させることで填補する。つまり精霊力を操る精霊は、魔物に近づくことで魔力に引き寄せられてしまうのだ。
だが、精霊から人間に精霊力を譲渡する過程で性質が変わるのか、精霊から受け取った精霊力を私が使う分には影響が現れない。操作に多少の妨害を感じるものの、いつものように精霊魔法を使うことが出来る。私としては、事前に精霊力のストックを溜めておけば何の問題もない。
しかしながら、問題は精霊の持つ属性を引き継いだ魔物が存在することだ。そういった魔物は火や水を攻撃手段として自在に扱い、討伐の危険性は一気に跳ね上がる。これまでも、不意の攻撃に肝を冷やしたことが幾度となくあった。
(時を経て退化したんだ。ワームは石を吐く、気をつけろよ)
言うより早く、その分厚い尾を地面に叩きつけて威嚇していたワームが、口を大きく上空に向けたと思うが否や、巨大な石礫を射出した。一直線に迫る攻撃をハヤテはゆうゆうと躱したが、ワームは二射、三射と立て続けにぶっ放す。
想像以上に手強そうな相手に辟易としながら、ハヤテの解説を仰いだ。
「このままじゃあ埒が明かない!ハヤテ、ワームの弱点は」
(火だ。鱗は固いが、体内は熱に弱い。口の中にぶち込んでやれ)
「了解!頼んだよ、火の精霊たち!」
(もちろん)(まかせて)(とびっきり熱くするね!)
火の精霊たちがわんさか集まってくるのを確認しながら、頭のなかで作戦を練る。
ワームは見たところ動き自体は単純だが、身体の構造的に移動が速い。
考えられるワームの攻撃手段は、しなやかな体躯による叩きつけと口から射出される石礫の二つだが、両方とも人間という小さな対象をピンポイントで狙うのには向いていない。
このままワームの横腹に切り込んで体勢を崩し、弱った隙を狙って火球を口に放り込むのが最善だと判断する。
ワームから少し離れた地上近くまで高度を下げたハヤテの背から飛び降りた。風の精霊魔法で一歩一歩に加速をかけ、疾走し続けるワームを追って木々を駆け抜けた。
光に反射して煌めくワームの鱗を視界に捉えたころ、漆黒の鞘から剣を抜き、さらに速度を上げた。そのまま勢いを消すことなくワームの内懐まで迫ると、剣を上段から振り下ろす。
キィイインという鋭い音とともにワームの巨体がくの字に折れ曲がり、木々を倒しながら横に滑っていく。
「なっ!」
作戦通りワームの体勢が崩れたものの、その外皮にミスリルの剣が弾き返されてしまったことに驚愕を隠せなかった。やつの全身を覆う光沢のある鱗は強度があるようには見えないのに、傷一つ付けることすらできなかった。こんなのは初めてだ。
それでもダメージは与えられたのか、ワームは怒りの咆哮を上げながら苦しげに尾を滅茶苦茶に振り回す。この一撃でワームをもっと弱らせる腹積もりだった私は、尾の攻撃を避けながら内心で焦りを浮かべた。剣でサクッと斬れる相手ならともかく、こんなデカブツ相手を翻弄できるほど優れた剣技は持ち合わせていない。
だが、それは杞憂だった。
小さな目標に尾が当たらないことに痺れを切らし、次の手段に出たのだ。鋭く並ぶ牙で食い殺そうと、ワームは口を大きく開けながら上半身を捻らせる。
私にとって絶好の機会だった。ワームの動きを予測するまでもなく、その場に立っているだけでワーム自らが進んでやってきてくれるのだから。私は、餞別として火球を贈るだけでいい。
迫りくるワームを正面から見据え、緩慢な動作で右手を持ち上げる。
火の精霊が惜しむことなく力を分け与えてくれたおかげで、望めば一瞬で灼熱の炎を生み出すことが可能だ。だが、ワームがドラゴンの一種なら、視力ではなく熱で敵の居場所を判断する。ワームが避けられないほど接近した瞬間を見定めることが、運命を左右するだろう。
下手をすれば命を落とすかもしれない、危険な行為だとは分かっている。だが、こうやって命を懸けるときの背筋が粟立つような緊迫感と、それから解放された瞬間の何とも言えない高揚感が堪らない。
縦長の虹彩をしたワームと、目が合った気がした。
次の瞬間、ワームに向けられた手の平の向こうに青白く揺らめく焔が生まれ、私の意思の通りにワームの体内へと吸い込まれていく。
「グォォオグアアアア」
魔物が悲鳴にならない咆哮をあげ、動きを止める。ワームが慣性に従って土煙を立てながら滑っていくのを横目に、私は小さく息を吐いた。
「……終わったぁ」
実はまだ終わっていない。魔物を倒した後には、もうひと手間かけなければならないのだ。
まず、ワームを討伐したことの証明として鱗を数枚剥ぎ、牙を一本切り取る。目撃情報しかないワームには討伐証明部位がないので、適当だ。
牙を切り終えたところで、ワームの体は急速に朽ちはじめた。まるで炭を燃やした後の灰のように、跡形もなく崩れ落ちていく。そして残されるのは、宝石のような輝きをもつ紫の石で、魔物の魔力が蓄積されて結晶化したものだ。
人間に心臓があるように、魔物はこの魔結晶石を核として魔力の循環を行っている。魔結晶石は魔物の命が尽きてしばらくすると体内の魔力を急速に吸収し始め、結果として魔力を失った肉体は崩壊するのである。魔物の体が朽ち始める前に魔結晶石を取り出せば、崩壊は始まらない。低ランクの魔物の中には食用として出回っているものがあると聞いたことがあった。
ただ、魔結晶石には精霊を退ける、つまり魔物の過ごしやすい環境を創り上げることで魔物を引き寄せてしまう性質があるため、魔物を討伐した者は見つけ次第破壊することが厳命されていた。石のように固そうな魔結晶石だが、金属に弱いという魔物の性質が相承されているため、剣さえあれば割るのは簡単である。
灰化が進んでいくワームを掻き分け、魔結晶石を探す。完全に灰になるまで待ってはいられない。大体の魔物は頭部か胸部にあるため、そこを重点的に調べれば、ちょうど眼の真後ろに子どもの頭ほどの大きさの魔結晶石を見つけ、剣を突き立てる。真二つに割れた魔結晶石の色が紫から透明へと変われば、蓄積されていた魔力が解き放たれた証だ。これも討伐証明の一つになる。
すべて袋に詰め終わったところで、私はようやく肩の力を抜いた。ワームは朽ちるのが早い。既に原形はとどめておらず、骨格が見え隠れしていた。
「呆気ないね」
あれほど激しい戦いを繰り広げたというのに、まるで何も無かったかのように魔物は消えてしまう。そこには少しの虚しさが残るだけで、戦いの最中のような高揚も、勝ったという達成感もない。なぜだろうと思いつつも、近頃は仕方のないことだと諦めていた。
「あー疲れた。ハヤテ、戻っておいでよ」
木陰にどっしりと腰を下ろして、上空で旋回していたハヤテを呼ぶ。
今回は、ミスリルの剣が通用しないという不測の事態により、精霊の力に頼り切った戦闘になってしまった。ハヤテがわざわざ(鱗は硬い)と言ってくれたにも関わらず、それを甘く見た私の落ち度である。
だが、冒険者を始めた頃に比べれば随分と速やかに討伐できるようになったものだ。最初は、それはもう酷い有様だった。大した運動もせず、走ることのない箱入り娘として生活していたので、まず体力が無さすぎたのが一つ。狙い通りに剣を振るう難しさに直面したのが一つだ。
そもそも、剣なんて握ったことすらなかった元御令嬢に、実戦での技量を期待する方が酷というものだ。と言い訳してみるものの、このミスリルで造られた剣の異常な軽さと切れ味のおかげで何とか使い物にはなっている。
それでも剣は苦手だし上手く扱えないので魔物と闘う時は精霊力に頼りがちになってしまうのだが、物理攻撃も精霊魔法と同じくらい効果的だ。集団で戦闘を行う人々は良い具合に分担しているようだが、単独行動の私はそれができない。苦手だからと言って物理的な手段を捨てるわけにはいかないのだ。
だが、自分で言うのはなんだが才能はあると思う。もともと動体視力は良い方だったが、アーシブルに来てからそれが顕著な成長を遂げた。次の動作を予測することも、それに最適な対応を瞬時に判断することも難しくはない。
ただ、体が小さく力がないぶん、速さで敵を翻弄するしかない私は、風の精霊魔法を駆使して軽技的な攻撃を取るのが主なのだが、これがまた間合いを図りにくい。勢い余って敵の懐中に飛び込んでしまうことも、正直に言えばある。
(手古摺ったようだな)
「うん、思ったよりもこいつが硬くて」
鱗を袋から取り出して、舞い降りたハヤテに見せる。半透明のそれは手のひらほどの大きさだが、自慢の愛剣をも弾き返した代物だ。
(ワームの鱗は熱を加えれば加工できる。防具でも作ったらどうだ)
「え、そうなんだ。また挑戦してみよっと」
鱗を筒型の袋に戻して背負う。いそいそと支度を進める私に、ハヤテは呆れながら声をかけた。
(もう帰るのか)
「これからもっと疲れるのが待ってるからね」
アーシブルでは、身体的特徴や攻撃パターンなど、魔物に関する様々な情報を国が率先して収集している。その報告義務を国直属の騎士だけではなく冒険者にも課す代わりに、各ギルドでその資料を自由に閲覧できるような仕組みが十年前に築き上げられた。そのおかげで魔物の討伐率は飛躍的に上昇し、街へ溢れかえる魔物も激減した。
素晴らしい制度だとは思うが、認知されていない魔物や情報量が少ない魔物を討伐することが多い私は、報告書に記す内容が膨大な量になってしまう。これがまた面倒くさいのだ。
空を飛翔するハヤテのおかげで森を走る必要のない私たちは、二時間ほどかかるはずの行程をたった十分足らずに短縮させ、街へと辿り着く。真っ先に向かうのは私が所属しているギルドだった。
三年前、ハウゼント王国からアーシブル王国に渡る船で、クラーケンという海洋性の魔物の襲撃を受け、それを命からがら撃退した。その船に乗り合わせたキリス・キャメロンという男に、冒険者にならないかと誘われたのだった。
彼はとある冒険者ギルドのマスターであった。
アーシブル国のギルド制度では、王都に本部が置かれている他は条件を満たせば誰でもギルドを開設できる形となっていた。しかもその経営は自由で、本部に契約金を払いさえすれば冒険者を集めようと店を開こうと何の縛りもない。その奔放さから不正や乱逆が懸念されたが、王都のギルド本部の絶対的な管理下に置かれているためにそういった問題はないらしい。
魔の森から最も近い街、フヨールの一角にある“蒼穹ノ魂”という豪華な金文字の看板が掲げられた建物の扉をくぐった。
蒼穹ノ魂の拠点となっているこの建物は、吹き抜けの造りとなっていて開放的だ。左手にはギルド員や一般人も集まれるパブのようなものがあり、時間のある冒険者らが酒を飲んだり打ち合わせを行なったりしている。
人々は酒を手に笑談していたが、誰かが「見ろよ、高雅の蒼穹が戻ってきたぜ」と言ったのを皮切りに、一斉に静まり返った。皆が皆、今度はどんな獲物を狩ってきたのかという好奇の目を向ける。
毎度のことだが、いつまで経っても居心地の悪さは変わらない。私のことなんて気にしなくてもいいのに、人々は私に注目したがる。
「よぉ、フェイ。今朝ケンタウルスの依頼を受けてったって噂を聞いたぜ。どうだったよ」
パブの人だかりの中から、一人の冒険者が顔を出す。彼はヒース・クラウスといって常に大斧を背中に背負っている変わり者だが、結構な実力者だと有名らしい。だから怖いものなしなのか、人々から敬遠され、孤立状態にある私に平気で声をかけるという心臓に毛の生えた男だ。
こうやって親しげに話しかけてくれる人はいるが、実を言うと、彼らとの接し方に戸惑っていた。下心に塗れた人間をあしらうのは容易い。だが、裏表のない人とどう触れ合っていけばいいのか、アーシブルに渡って三年が経った今でも分からないでいる。挙句の果てには、他人事のような対応しかできないのだ。
「いや、残念ですが見つかりませんでした。でも、ワームを討伐したから途中で帰ってきたんです」
私は淡々とそう答えた。
私とヒースとの会話に耳を澄ませていた人々は、ワームという言葉に騒然とする。目撃情報だけで取りあえずA級に指定された魔物だ。有効な攻撃手段すら分からないことを踏まえると、S級に分類されていてもおかしくない。
危険度A級の魔物と言ったら、この国が抱えている魔物を専門に戦う軍勢、アーシブル王立討伐騎士団の二部隊をかけて討伐する程度だと言われている。
「相変わらずスゲーなオメェはよ。流石高雅の蒼穹。天下無双のフェイ・コンバーテだな」
茶化すように笑ったヒースに、私は顔をしかめた。
「それ……誰ですか、そんな恥ずかしい名前を付けたやつは」
「いいじゃねぇか、恰好よくてよ。俺ゃあ気に入ってるぜ」
何であんたが気にいるんだよ、と内心思ったのだが口には出さず、ニヤニヤ笑う彼を避けてギルドマスターの書斎がある二階へ向かった。
コンコン
「はいはい、フェイかい?入るといいよ」
ドア越しに聞こえた間の抜けた声に、肩をすくめながら遠慮なくドアを押し開ける。
椅子を二つ並べて、その上に身体をはみ出しながら寝そべる当ギルドのマスターを目にして、深いため息を吐いた。
「はぁ……マスター、魔の森にてA級ワームに遭遇しました。すでに討伐済みですが、一応ご報告に」
当ギルドのマスターは、キリス・キャメロンという見かけによらない超凄腕の元冒険者だ。
見かけによらない、とはどういう意味か。
簡単に言えば、彼は癖のあるハニーブラウンの髪に丸メガネ、童顔タレ目、身長百七十センチで体格は至って普通。どこを取っても強者の風格がない。その上ありとあらゆる言動が子供じみていて、なんとも手が焼ける。
「あれ?フェイが受けてった依頼、ワームだったっけ?」
よっこらせ、と掛け声を上げ彼は椅子から上半身を持ち上げた。が、横たわっていた椅子はキャスター付きであったために、その体は床へと吸い寄せられる。
一瞬にして視界から消えたギルドマスターに、何度目か分からないため息を吐いたのだった。