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泥中の銃剣

失恋のどん底にいた私は、虚脱感を引きずったまま、防御訓練演習の準備に追われていた。

山中に籠もり、睡魔と疲労、そして空腹と闘う過酷な演習。だが、本当の地獄はそこから始まった。

演習場へ向かうカーゴ(トラック)の荷台は、板一枚の粗末な座席。突き上げる激しい振動と、容赦なく吹き抜ける寒風に震えながら、私は目的地で下車した。


小隊は構築陣地に到着すると、すぐさま機関銃壕の掘削に取り掛かった。数人で数トンもの土を掘り起こし、FRP製の掩体えんたいを被せ、さらに土を盛り固める。全身から汗が噴き出し、時間の感覚さえ失っていく。

異変に気づいたのは、日没後、野営の準備を終えて夕食を済ませた時だった。


「……ない」


腰の弾帯だんたいにあるはずの銃剣が、影も形もなかった。

小隊長に報告すると、翌朝一人で捜索するよう命じられた。私は下車地点から移動経路を何度も往復し、地面を這いつくばるように捜し歩いた。

しかし、どこにもない。

翌日、事態は一変した。訓練は完全中止。駐屯地から数百名の捜索隊が編成され、演習場は騒然となった。

「俺は、なんてことをしてしまったんだ……」

全身の震えが止まらなかった。

連隊本部での連日聴取。

幹部からは思想背景まで疑われる中、テレビではアメリカのスペースシャトルが空中爆発したニュースが繰り返し流れていた。


その惨状を眺めながら、連隊長は私にお茶を勧め、豪快に笑った。

「俺の階級も、これで終わりか。ワッハッハ!」

その肩に光る金色の階級章が、申し訳なさと情けなさで、涙に滲んで見えなくなった。


捜索開始から数日後。本部に一報が飛び込んだ。

『銃剣発見! 繰り返す、銃剣発見!』

歓声と拍手が沸き起こる。


私は「ありがとうございました」と絞り出し、連隊長に促されて立ち上がろうとした。その瞬間、人生で初めて腰が抜けた。

ジープで向かった現場は、生い茂っていた木々がすべて伐採され、捜索のために別の風景へと変わっていた。

銃剣は地雷探知機にて発見していた。

銃剣は大量の土の下に深く埋もれていたという。

翌日の捜索隊解散式。

壇上の連隊長から名指しで呼ばれた私は、連隊長の横に立ち数百人を前に謝罪した。


この「珍事件」により、私は一躍、駐屯地中の「有名なバカ野郎」となった。


失恋でボロボロになり、自衛官としても崖っぷちに立たされた。だが、このどん底を味わったからこそ、「これ以上失うものはない、負けてたまるか」という、奇妙な居直りにも似た覚悟が自分の中に芽生え始めていた。


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