転職 暗黙視
転職した先ドライバー職は劣悪なブラック企業でした。
前社で私が一人で交渉し成立させた有給制度もなく、日曜・祭日定休の募集内容も虚偽、食品関係の担当ドライバーになれば休みなく出勤を強行される。
私は上司に「事実と反する募集は違反ですよ」と突きつけ、次回求人記載を改めさせるのが精一杯でした。
残業代の大幅カットは当たり前。
しかし唯一、年一度の健康診断があることが救いでした。
だが、ここでも私は孤独だった。
ストレスから左顔面痙攣が出始め、常にマスクを着用するようになった。
いつ、どこで噂が入り込むか予測もつかない。その視線に怯える生活だった。
私は自衛官時代に学んだ「暗黙視」で世間を観るようになり、出勤するだけで吐き気がした。
何でも構わない。誰かに助けて欲しかった。
この頃からマスコミや厚労省、「いのちの電話」にも助けを求めたが、解決には結びつくものにはなりませんでした。
まるで逃亡犯や冤罪の囚人のような心境で、酒を飲んでは妻に愚痴る日々。逃げる場所などなくなり愚かな人間へと落ちていった。
この会社で、私は初めて交通事故を経験しました。しかも三度。
すべては、他コースの代走が重なり、配送の中で昼の休憩を取れず納品の遅れなど焦りが原因だった。
誰もが行きたがらない代走を、配車係は「他に走れる奴がいないから」と私に押し付ける。
自分の担当コースを持ちながら、1人ならともかく、数人が休む度に毎月代走を強いられる。苛立ちとストレスが、私を追い詰めていた。
そんな中、会社は業績不振に陥りました。
大手薬品メーカーの契約を他社に奪われ、その移行指導のためだと私は二ヶ月間、契約を奪取された相手先大手運送会社へ出向させられた。
私はこれは転職するチャンスなのかもしれないと考えた。
契約奪取された役職者に、今の自社の経営危惧と生活向上のために転職を考えている、そして自分には事実無根の噂も根強くあることを伝えた。
だが、返ってきたのは
「入社前にカミングアウトをしたということかな」という、的外れな質問だった。
指導の最後の日、今後走るであろう後任のため詳細を記入した自分が使用していた地図帳を渡した。
指導期間が終わった数ヶ月後、見覚えのあるドライバーに再会したが、そのドライバーは私を無視し、わざわざ駐車して作業中の後ろ扉の空いているトラックまで来て顔を見るなり失笑して去っていった。
まるで自衛隊後期教育隊の班長のような態度だった。
あの日の「カミングアウト」という言葉と共に誤解がさらなる誤解が生まれたか、或いは噂が回ったのかと怒りが込み上げる思いでした。
そして業績下降の社内には「会社が身売りされる」という話が流れだした。
私はその話を聞き話した相手がいるその場から社長の携帯へ直接電話した。
「会社が身売りをしていると言う話は事実ですか?それはM&Aですか?」
その言葉をよく知ってますね?と社長から言われ、今の状況を説明してくれた。
会社は間違いなくある大手の運送会社の子会社になると聞かされた。
M&Aが進行していることを確認したが、相手企業の社名を聞いて、私は愕然とした。
そこは、自衛隊退職後に入社したあの駐屯地近隣の会社だったからだ。
不安とこれから先の恐怖で、心が凍りついた。




