暗闇の閃光 前世
ある日の夕暮れ。
会社の寮は首都高速に面し、その下は区営の駐輪場になっていた。帰宅して洗濯物を取り込もうとベランダのカーテンを開けた瞬間、私は言葉を失った。
三階の私の部屋を、約二十人もの高校生たちが一斉に見上げていたのだ。
反射的にカーテンを閉め、荒くなる呼吸を整えた。
「俺には無関係のことだ」と自分に言い聞かせ、再びドアを開けて洗濯物をかき込み、すぐに鍵を閉めた。
だが、その大集団による視線は、その後数ヶ月間も続いた。
自衛隊時代を上回るストレスが私を支配し、その発散のために毎晩のようにスナックへ通った。月の支払額は十五万円を超えていた。
そんな荒んだ生活の中、私を心配して会社を辞めた宍戸が、ある晩、一人の女性を連れて部屋にやってきた。
彼女には霊能力があるという。
半信半疑の私を、彼女が霊視を始めた。
突然、彼女は自らの左足首に走った激痛に顔をしかめ、私に尋ねた。
「昔、ここを怪我しなかった?」
驚いた。自衛隊時代、左足靭帯を傷めて二ヶ月入院した場所だった。
さらに彼女は、私の左背中に常にあった痛みをズバリと言い当てた。
「その痛みね、ある人の生き霊がついているわ」
生き霊――その言葉を聞いた瞬間、私は五年共にした鹿児島の彼女を思い出した。
同棲中、彼女がよく背中のその部分を痛がり、私がいつもマッサージをしていた場所だったからだ。
「彼女はいまね、本当に後悔しているよ。あなたと結婚すればよかったって……その強い想いが、あなたの左背中に来ているのよ」
彼女に除霊してもらうと、あんなに重かった背中が、嘘のように軽くなった。
この人なら信じられる。私は初めて、噂について打ち明けた。
なぜ、事実無根の噂に人生を狂わされる運命なのか。
彼女は、私の背後にいる二人の霊がいる。
――武将と女性――の言葉を通じ、こう言った。
背後に二人の霊、ひとりは武将、もうひとりは女性。
後ろの人、特に女性が心配しているそして伝えて欲しいと言ってるよ。
「あなたは同性愛者ではないし何事もやり遂げる人。特に女性の方が心配しているわ。噂など気にせず、堂々と生きて! と伝えてほしいと言っている」
そして彼女は、私の「前世」についても語り始めた。
それは考えもしなかった世界だった。
私は江戸時代に生きた「タダトキ」という名の男であり、徳川家に関係があるという。
さらにその前は、夫に先立たれ、苦労して二人の子供を育て上げたモンゴルの遊牧民の女性だったと。
(この過酷な誤解の運命を知る、糸口になるのではないか……)
その晩から、私は取り憑かれたように歴史を調べ始めた。図書館へ通い詰め、前世の自分だという人物を探し歩いた。
それは暗闇の中に差し込んだ、一筋の閃光のように感じられた。
心は昂ぶり必死だった。
そして、私はついに見つけた。
霊能力のある彼女が告げた、かつての自分だという人物の名前を。




