不毛地帯
キャリバー50実弾射撃。
各中隊からわずか二名だけが選ばれる「対空射撃訓練」に、私は選抜された。
なぜ、私なのか。
中隊幹部の耳には、まだあの噂が届いていないのだろうか。
姫路での訓練。
他部隊の隊員と過ごす数日間は、私にとって苦痛以外の何物でもなかった。そこには四中隊へ配属された同期生Sの姿もあった。彼は中隊の期待を背負い、確かな信頼を得てここにいる。
だが、自分は違う。
人格を否定され、どこにいても充実感も達成感もない。性格は破壊され、喜怒哀楽を出すことさえためらう「明日のない不毛地帯」に私は立っていた。
考えるのは、死。あるいは、憤り。
気が狂いそうな孤独感で夜も寝付けず、眩しいほどに前向きな同期生が羨ましくて仕方がなかった。十年勤続しても体験できないと言われるこの訓練も、今の私にはどうでもいいことだった。
そんな中、初めて見たライトアップされた姫路城は、闇の中に真っ白に光り輝き、素晴らしい光景だった。あの天守閣から、かつての武将はどのような思いで城下を見下ろしていたのだろうか。
その白亜の輝きに、吸い込まれるような感覚を覚えた。
しかし、現実は残酷だった。帰隊後の不安は的中する。訓練で知り合った人々も、しばらくすれば私をシカトし始めるだろう。醜いものを見るような、あるいは嘲笑うような視線。
そもそも、なぜ俺がこんな馬鹿な噂を流されたのか。いったい、誰が。
考えても解決の糸口さえ浮かばない。深い海の中に沈み、呼吸さえできないような心境だった。
それは、梅雨の時期の防護演習だった。山には激しい雨が降り続いていた。
連日の機関銃壕の掘削で、体力は限界に達していた。個人用テントの寝袋の上に、私は倒れ込むように横になった。靴を脱ぐ気力さえなく、沈むように眠りについた。
どれほど経っただろうか。耳の中に泥水が入り込み、私は目を覚ました。テントは浸水し、体の半分が水に埋まっていた。
その瞬間、左足首に激痛が走った。
靴を脱ごうとしたが、足首は太ももと同じほどにまで膨張し、異常に腫れ上がっていた。
歩行不能。私は救護車両で一人演習場を下山し、病院へ運ばれた。
処置室で看護師が靴を脱がそうとするが、膨れ上がった足に阻まれて脱げない。医者はハサミで私の半長靴を切り裂いた。
現れたのは、付け根から指先まで禍々しい紫色に腫れ上がった足だった。
診断は、左足靭帯損傷。
「もう二度と、走ることはできないだろう」
医者の宣告は冷たかった。
約一ヶ月間の絶対安静。駐屯地近くの病院への即入院が決まった。
心だけでなく、身体までが悲鳴を上げ、壊れていく。
私は、すべての運から見放されたのだと、暗い病室で独り、その現実を噛み締めていた。




