1- 己の噂
自分の噂を知ったのは、25歳の夏だった。
当時、私は陸上自衛隊に所属し、1等陸士の階級にありました。
ある日、私は某自動車会社の女子社員の指導係として勤務していました。休憩中に田安という2等陸曹が私のもとにやってきた。
「おい、火を貸せ。」
私はポケットからライターを取り出し、上官のタバコに火をつけると、田安はタバコの煙を私の顔に吹きかけ笑いながらこう言った。
「お前、ホモなんだろ。駐屯地で有名だぞ。」
その時、私はあまりにも馬鹿げた言葉に対して怒りを通り越し反論する気持ちさえ湧かなかった。
だが、私はいつからか駐屯地内での無視や差別を感じ、悩むようになっていた。
その日は課業が終わった後、食堂や風呂にも行かず、部屋で座り込み、これまでの入隊からの日々を振り返ってみた。
23歳の春、近畿地方の駐屯地教育隊に入隊し、3か月の前期教育を終えた後、山陽地方の現在の駐屯地の普通科連隊に配属され、ここで3か月間の後期教育を受けた。
後期教育隊最後の夜、普通科連隊第二中隊への配属が決まった夜、私はベッドの上で不安で眠れなかった。
すると誰かが部屋に入ってきて、その足音が迷わず私のベッドの横で止まる。
二段ベット上段、目を開けると班長が首を傾げながら微笑み私の顔を見つめていた。
目を明けた私は何かと尋ねた。
「プッ・・・頑張れよ。」と、班長は一言を残し部屋を出て行く。
その後、反対側の班長室のドアの開閉音の後に数人のデカ笑いの声が聞こえた。
それ以降、班長は駐屯地内の食堂などで私に出会っても完全に無視していた。
私はこの教育隊班長の態度が理解できなかった。
しかし、今日、ホモだという噂を聞いて初めて納得した。
過去にも人間関係が崩壊する経験は何度かあったが、まさか裏でオカマだのホモだのといった噂が広まっているとは思いもしなかった。
自衛隊入隊のきっかけとなった別れた恋人を思い出し、独り夜空を仰いで涙を流した。