その二・急転直下 前編
テルの回復には二日掛かった。
肉体的にはともかく精神的にここまでヤワだとは思わなかったのだけど、考えてみれば女の子に告白されたのって僕が覚えている限りでは生まれて初めてという男だ。見た目に似合わず朴訥で純情なテルにしてみれば天地がひっくり返ったような衝撃だったのかも知れない。
しかしおかげさまでヤツが腹を括る時間は取れた。そして今日、ついに決着を付けるべくヤツは再び立ち上がったのだ。
「ほんで、YESなわけ?」
「………………どうしよう?」
冬池さんと対峙する覚悟はできても、肝心の返事がダメだった。
サングラスの下からこちらに向けられる捨てられそうな子犬のごとき視線は完全無視。心を鬼にしてずんずか通学路を進む。
あれ以降黒尽くめどもは全く動きを見せない。気になってちょいと調べてみた所、どうもこの近辺の都市伝説に似たような集団の話がちらほらとあった。
ただしその内容はまちまちで、「ゴーグルとマスクとヘルメット付けた黒尽くめの変態の集団が時々現れる」「黒尽くめで 猫耳と尻尾を付けた変態の集団が闊歩している」「服装はわりと普通だがヤツらは間違いなく変態。そんな顔してた」等々、話だけ聞くとこの辺りには結構な数のヘンな集団が出没しているらしい。
全ての噂に共通しているのは二つ。神出鬼没で正体不明。
…………………………役に立つかあ!!
とまあ吠えた所で事態が好転するわけじゃあない。早々に聞き込みを切り上げた僕は情報収集を諦め対処療法に切り替える事にした。
要は単に出たとこまかせって事なんだけどね。でも心構えがあるとないのとじゃあ大分違う。今度ヤツらが現れたら問答無用だ、片っ端から……ぶっ潰す。
こんな事だから百舌鳥野郎とか言われるんだろうなあ。けど僕は今の所自分を曲げるつもりはない。我ながら度し難いと思いつつも頬が不敵に緩むのを止められなかった。
「…………楽しそうだな」
「へ? …………ああ! 勘違いすんなよ、お前が困ってんのが楽しいってわけじゃないって。ちょっと考え事してただけだから」
何とも情けない表情(普通の人には分からないくらい微妙)になって悲しそうに言うテルへ、ごまかすような返事を返す。
実はテルに黒尽くめの事は話していない。ただでさえ悩んでいる所へ、さらに頭を悩ませるような情報を与える必要は無いという配慮からだ。
冬池さんの方もそういう手筈が整っている。特に秋沼さんには余計な事をしないよう厳重に言い聞かせて(脅迫とも言う)ついでにその手腕を非合法な方面で思いっきり発揮して貰って黒尽くめ達に関する情報の収集を続行して貰っていた。本人は女性の敵になりたくないと全身で訴えなんだか泣きそうになっていたけれど、因果応報(?)というヤツじゃなかろうかと誰も同情していない。
成果も上がっていないし。
さて役に立たない真性の人の事は置いておいて、ともかく勝負は今日の放課後。どういう結果になるかは知らないけれど、これで決着は付く…………はずだ。今朝のテルの様子を見ていたらいまいち不安になるけど。
「そんなわけで、放課後までに言いたい事を纏めておく事。はっきりした答えじゃなくても良いから正直な気持ちをぶつけてみるんだね。誠実に対応すれば、向こうだって分かってくれるさ」
「…………分かった」
不安げながらも頷くテル。根っから真面目なコイツは拙いながらもちゃんと考える事であろう。あとは考えるのが面倒になって途中で投げ出さないかしっかり見張っていればいい。
この時点で僕はまだ事態の重さを理解していなかった。
裏の方では、とんでもなくややこしい状態が進行していたとは気付きもしなかったんだ。
ぴんぽんぱんぽ〜ん。
「1Eの西之谷 夕樹君、1Bの夏川 かりんさん、至急生徒会室までおいでください。繰り返します……」
その放送が入ったのは、昼休みの最中昼食を取ってのんびりしようとしていた矢先の事であった。
何事だろうと自分の所行を思い返してみたが、生徒会に呼び出されるような心当たりはない。いややんちゃはしてるけど、その関係ならば先に生徒指導室への呼び出しだろう。教師陣を差し置いていきなり生徒会に呼び出される理由…………………………。
うん、ないな。
「つー事で僕は放課後まで逃亡る。後よろしく」
「待て待て待て待て。そいつぁいくら何でも短絡過ぎやしねえか?」
しゅたっと片手を上げて教室を去ろうとしていた僕に、呆れた顔で南田が声を掛けてくる。ちっ、このヘンな所でまじめさんめ、黙ってスルーしてくれればいい物を。内心ちょっと忌々しく思いながら、僕は一応返事を返した。
「ここ最近僕は生徒会に目を付けられるような事をしていない。よって呼び出される理由もない。こういった場合ろくでもない事が待ちかまえていると相場は決まっている。だからさよならだ」
「なんかヤな事でもあったのか。いやあったみたいだけどな?」
「しかも大盛りでだよ。これ以上の厄介事はごめん被るっつーの」
吐き捨てるように言って、僕は身を翻しその場を去ろうとした……が、その途端いきなり視界が遮られた。
正確には何者かにがっしりと顔面を掴まれた。
「ど〜こ〜に、いくのかな〜?」
みじりみじりと軋み音を上げる頭蓋骨の中に、地獄から響き渡るかのような声が響き渡る。
ここ二、三日で聞き慣れた声の主は言うまでもない、夏川 かりんその人痛い痛い痛いってば!?
「ついでだからって人が誘いにきてみれば、なーにとんずらこきやがろうとしてるかねこの子は。ひとりだけ楽しようったって、そうは問屋が卸さないよ」
痛て痛てイタそういやこの人も呼ばれてたんだ僕の事なんか気にしないで一人でとっとと行ってくれればよかったのにー! そう思ってもかりんは容赦しない。僕の頭を掴んだまま、ずるずると引きずりつつ教室を後にする。
「さ、とっとと行ってちゃっちゃと片づけるよ。面倒事は仲良く分担しないとね」
誰かタスケテーと手の隙間から教室へ視線を送ってみるが――
南田はなぜか十字を切りつつ「この子羊に神のご加護を……」とか言ってるし、テルはすまんと目で言いながら片手で拝むような仕草をしてるし、何がなんだか分かってなさそうな北畑は気楽そうな顔で「おー、頑張ってこーい」と言いながら手ェ振ってるし。
この役立たずどもめが痛て痛て痛いィ〜〜!!
で、かりんに引かれて生徒会室参り。
ああ酷い目にあったと痛む頭を振りながらぶつぶつ言ってると、隣のかりんがぎろりと睨んでくる。
「自業自得だろ? アタシだって生徒会なんざ関わり合いになりたくないっての」
「だったら二人で逃げようよう、地の果てくらいまで」
「はいはい、アンタが駆け落ちしたくなるくらい良い男になったら考えたげるよ」
僕の懇願を軽く受け流し、かりんは生徒会室のドアを叩く。どうぞという中からの答えを待って、僕らは部屋に足を踏み入れた。
「忙しい中よくきてくれた。私が生徒会長の預菜振だ」
待ちかまえていたのは左右に控える生徒会メンバーと、中央のでかい机に陣取っている三年生の女子が一人。
ロングの髪を全て後ろに流しカチューシャを付けたなかなかの美人さん。にこやかに僕らへと語り掛けてはいるが……その目は、僕らを値踏みするように鋭く細められている。
油断ならない人物。それが生徒会長に対する僕の第一印象だった。
僕らは直接知らないが、噂では去年の生徒会長選挙でかなりえげつない真似をやらかしたらしい。当時を知る上級生や教師達にその話を聞こうとするとあからさまに話題を変えようとしてくる事から、記憶として残しておきたくないくらいよっぽどの事があったのだと推測される。本当になにやらかしやがった。
さて、その黒い噂を持つ会長様が生徒会主要メンバーを侍らせて一体何用だ? 教室でも言ったと思うけど生徒会長に呼び出される理由には全く心当たりがない。しかもかりんと二人でだと? 一瞬ここ二、三日のやりとりと黒尽くめ達の事を思い出したが、まさかねえとその考えを打ち消す。
努めて無表情を装った……つもりだけど、目の前の御仁にどこまで通用している物だか。どうにも心の底まで見透かされているような気がしてならない。
「で、何用だい生徒会長殿。あたしゃこれから昼食後のシエスタとしゃれ込もうって思ってんだけど、話があるんならとっとと済ませてくんないかな?」
とことん良い度胸してるねかりんさン!? あまりにも不遜な態度で挑むかりんに対し、居並ぶ役員の端にいた書記あたりの下っぱらしき一年男子がこちらに向かおうとして――
「やめないか」
生徒会長が机の上に並ぶボタンを操作して開いた足下の落とし穴に、吸い込まれるように落下していった。
「にょ、にょわ〜! ぬるぬるが、ぬるぬるが穴という穴からそこは出す所〜!?」
ぱたむ。
何事もなかったかのように穴は閉じ、静寂が生徒会室を支配する。
流石のかりんも息を飲む。そして僕らは揃って自分の足下に視線を向けた後、一歩下がった。(気持ちは分かってくれると思う)
「部下が失礼をした。非礼を詫びよう」
白々しい態度で頭を下げる会長。……ふ〜ん、部下、ね。どうにも学生らしくない物言いが気になったが、とりあえずそれは置いておこう。問題はなんで僕らを呼び出したか、だ。
こちらの沈黙をどう取ったか、会長は頭を上げ話を続ける。
「さて……単刀直入に尋ねるが、最近君達の身の回りでおかしな事はなかったかな? 具体的には…………黒尽くめの変質者達に妙な脅迫を受けたり、とか」
『!?』
僕は目を見開くしかなかった。まさかのまさかでそっちにくるか! なんで生徒会が動くの!?
声こそ出さなかったけど、多分僕の顔は驚愕に彩られていたのだと思う。となりのかりんも同じだろう。得たりとばかりに会長はニヤリと笑った。
「ヤツらは【ケルベロス】。我々が長年敵対してきた組織、そのタカ派で暗部を司っている連中だ。まさか一般人に手を出すとは我々も予測していなかったが、な」
おかげでヤツらを排斥できる絶好の機会を得たと嘯く会長。おいおい、組織とかタカ派とか、穏やかじゃない単語が出てきたよ? 学生の言う台詞じゃないだろう、それ。
不穏な内容に眉を顰める僕の態度を気にした風もなく、会長は語る。
「連中には我々も手を焼いていた。それを容易く退けるとは見事だ。【疾風怒濤】にスレッジビルガー、噂は伊達ではないらしい」
誉めたつもりだろうけれど全然嬉しくない。だーれがんな恥ずかしい二つ名で呼ばれて喜ぶか。つーか二つ名あったのかかりん。呆れたというかやるせないというか、ともかくそんな気持ちを覚えた僕は、ちらりと隣に視線を向けてみる。かりんは私不機嫌ですと全身で訴えながら会長を睨め付けていた。そんな態度を隠さないまま、彼女は口を開く。
「回りくどいね、そういうのは嫌いなんだ。本題に入ったらどうだい?」
あくまで強気で挑戦的に言い放つ。その態度に会長の取り巻きは顔色を変えるが、会長本人はむしろ好都合とでも言いたげに笑みを深める。そしてこう宣った。
「ならばこう言わせて貰おう。西之谷 夕樹、夏川 かりん、我々の同士となれ。…………君達の友人、東山 暢照と同じようにな」
心臓が、止まったかと思った。
テルが同士だと? 僕が覚えている限りテルが園芸同好会以外で何らかの組織に属しているなんて所は見た事も聞いた事もない。そして僕に気付かれずテルに接触し、取り込むなんて事ができるとは思えない。もしそれをやってのけたのだとしたら、常識では計り知れない相手だという事になる。
正直嘗めていた。生徒会…………いやこの生徒会長、思っていたより遙かに難物だ。僕は背中に流れる嫌な汗を止められない。
戦慄を憶え身を凍らせる僕に対し、かりんは不機嫌さをさらに増していた。それは最早怒りの領域か、彼女は犬歯を剥き出しにして握った拳をぎしりと軋ませる。
目の前の女は敵。完全にそう判断している。それを隠すつもりはさらさら無いらしく、敵意を顕わにしながら皮肉げに言葉を叩き付ける。
「アタシらに犬になれってか。生徒会ってのは随分と偉いモンのようじゃねえか。ええ? 会長さんよ」
彼女の怒りに会長は――
なぜか一瞬きょとんとした顔を見せてから、次の瞬間爆発するかのように笑い出した。
「っ! 何がおかしい!」
馬鹿にされたと感じたか、かりんが噛み付かんばかりに食って掛かる。取り巻きどもがそれを咎めようとする……前に会長が彼らを手で制した。
彼女は何とか笑いの発作を押さえ、改めて語り掛けてきた。
「いや失敬、私としたことが根本的な事情を説明する事を忘れていた。…………今回の件は生徒会には関係ない。そんな小さい領域の話ではないんだ」
会長の気配が、変わる。これは、この気配には憶えがある。ヤツら……ケルベロスとかいうあの黒尽くめども、あいつらの持っていた狂信にも似た気配。目の前の僕らではなく何か別な物を見ているあの雰囲気だ。
同類。思考の読めない狂信の徒。くそったれ、真っ当じゃないにもほどがある。やはりさっさととんずらこいておくべきだったと歯噛みし後悔するが手遅れ。戦慄する僕の目の前で、狂信者の言葉は続いた。
「我々とヤツらの確執、その歴史は長い。恐らくは有史以前からの物だろう。だが、その歴史にそろそろ終止符が打たれても良いころだ。今回の事は天啓と言っても過言ではない。これを機に我々は一気に攻勢に出る!」
おお、と取り巻き達が声を上げた。会長の瞳には熱い炎が点っているようにも感じられる。ただしそれは、澱みを秘めた黒き炎。その爛々と輝く瞳で僕らを真っ向から見詰め、彼女は熱く止めの言葉を放つ!
「君達の力が必要だ。我々と共に来い。我々…………【猫派】と!!」
……………………………………………………はい?
思考が停止した。
………………え〜っと、今なんて仰いましたか? 僕の耳がおかしいのか、理解力が悪いのか、それとも両方なのか。
聞き間違いだと信じたい。ぜひともそうであって欲しい。藁にもすがるような思いで僕は恐る恐る会長に尋ねた。
「あ、あの〜、今、なんて?」
「我々猫派に力を貸して欲しい。そう言ったのだが」
聞き違いじゃありませんでした。大威張りで胸を張る会長が纏う狂信的な気配はそのままだというのに、一気に威厳というか凄味というか、そういった物がしおしおと縮んでいく。
かりんも同じように感じているらしく、その表情から怒りがすっかり消え脱力していった。そんな中、気力を振り絞って彼女は会長に尋ねる。
「あのそれで、さっきから言ってる敵対組織ってのは……?」
「無論【犬派】だ。察しの通り我々とヤツらは歴史の闇で、長き闘争を繰り広げている」
いえ全然察していませんでした。つかなんだこの想定外の超展開。生徒会室に満たされていくダメエアーが僕らの気力を吸い取っていくかのようだ。
ん? 待てよ。
「なんでテルが猫派?」
思わず呟くように口にする。ヤツは確かに猫には好かれるけど、実際には犬好きだ。例え猫好きだったとしてもこんな堂々とした変人達の仲間入りをするとは思えないんだが。
我知らず口にした僕の言葉はしっかりと会長の耳に届いたようで、彼女はうむと大きく頷いてそれに答える。
「彼は我々にとって生ける伝説なのだよ。知っているかね? 我々の理想を具現化したあの”猫タワー”の事を」
それを口にした途端うっとりとした顔になって虚空を見上げる会長以下生徒会一同。なんだかヘンなスイッチが入って妄想でも始めてしまったらしい。しかし猫タワーだと? 一体何の事だろう?
………………あ、もしかしてアレか? 以前学食で誤って煮干し出汁のみそ汁ぶっかけられた後、異常に集まってきた猫の大群に全身くまなく群がられたあの事件。
いや確かに猫好きにとっちゃ夢心地の光景だったのだろうけど、猫が苦手なテルにとっては地獄のような有様だったようですよ? 立ったまま気を失っていたし。
そう言おうかどうか迷ったけれど、恍惚とした表情の会長達の耳に入るかどうかは怪しいものだ。思わず躊躇してしまう。
と、僕が戸惑っている間に会長は上気した顔で謳うように語り出した。
「アレを見たとき私は確信した。彼は我々にとっての希望、猫派にとっての救世主なのだと。…………案の定、満場一致で彼は猫派永久名誉幹部として認定された。その時の写真はプレミア付きで取引されているとの話もある」
知らん所でエラい事になってるぞテル。当人の意見を完全に無視した会長達の言いざまに、脱力するやら呆れるやらで言葉を失うしかなかった。
正直、付き合ってらんねえ。最早単なる変人の戯言にしか聞こえない会長の熱い言葉を、僕はただただ聞き流す。
「これでもし、かの才女冬池 檸檬と彼が恋仲になるような事となれば、我々の陣営は大幅に戦力が拡大する事となるだろう! 故に我々は彼らの仲を、そしてそれを発展させんとす君達を全力で応援する! 助けが欲しかったらいつでも遠慮なく言ってくれると良い!」
「なるほど、だからケルベロスとやらはアタシらの邪魔しにきたのか。ばっかじゃね?」
会長に聞こえない程度の小声でかりんが吐き捨てる。まったくもってその通りだ。人の恋路に余計な手出しすると蹴られるよ? 多分僕らから。
もうこの人らの話には耳を傾ける意味はない。適当に聞き流して二度と関わりを持たない事にしよう。そう堅く心に誓った。もし向こうから関わってくるのなら、潰す。ええもう問答無用で完膚無きまで徹底的に容赦なく潰す。猫も犬も関係ねえ。
……まあ流石にこの場でんな事口にしたらどんな目に遭うか分からないから黙っているけど。(さっきの落とし穴の事もあるし)
いつの間にやら会長の話は終局に向かいつつあり、取り巻きと揃ってジーク猫、ハイル猫と気勢を上げている。猫という言葉が含まれていなかったら何を目的とした集団なんだか分からない。変人の巣窟って言う噂は本当だったんだなあ二高って。何しろ生徒会長からしてコレだもの。そう納得してしまう僕だった。
さて、一通りシュプレヒコールらしき物をぶちかましてくれた会長達は、良い仕事しましたとばかりの爽やかな笑顔で話を締め括ろうとしていた。
「今後とも、君達とはより良い関係を築きたいと思っている。その証を進呈しよう。……七井、あれを」
「はっ」
会長が命じると、傍らに控えていた女子生徒が僕達に何か厚めの冊子のような物を差し出してくる。なんだろうと訝しがりながら受け取ったそれを、かりんと二人して開いてみれば――
『…………うあ』
思わず揃って呻き声が上げてしまった。その反応をどう取ったか、会長が満足げな顔で言う。
「素晴らしいだろう? 我々猫派有志が収集した【僕の私の猫ベストショット写真集】は。よそでは手に入らない同士限定の逸品だ」
正しく猫まみれ。いやそれだけなら良いんだけど猫の写真に混ざって美形の老若男女が猫耳猫尻尾付いたコスプレを披露してるってのはどうよ。いや似合ってんだけどね? そこがまた余計に痛々しく思えてしまうわけですよ僕的に。
どーしたもんだかコレとか思いつつ、隣のかりんに視線を向けてみれば…………ちょっとあーた、なに雷に打たれたような顔して頬を赤らめてますか? 嫌な予感を覚えた僕の耳に、彼女がぼそっと呟いた台詞が飛び込んできた。
「猫派…………入っても良いかもしんない…………」
ちょっとかりんさン? なにダメ人間の仲間入りしようとしてんのかりんさン!?




