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二発の権利 セカイノオワリ

作者: さきら天悟

「今日はこれで勘弁してやる」

パンチを顎にくれてやり、倒れた相手に言い捨てた。

学ランを着た男はくるりと向きをかえ、校門の方に歩き出した。


倒れた男は頭を起こし、顎をさすった。

学ランの男を探そうと、視線を動かす。

彼の視線はある場所に止まった。

学ランの男と違う方だった。


「ぶっ殺してやる」

彼は一直線にゴミ置き場に走った。

そこで金属バットを手に取った。

そのバットの芯は凹んでいた。


彼は学ランの男の頭を後ろからバットで殴りつけた。


学ランの男は右手で頭を抱え、膝をついた。


そこに彼は2発目を思いっきり浴びせた。


学ランの男は突っ伏した。

完全に気を失ったようだ。

彼はバットをゴミ箱へ戻し、去って行った。




「これを見てどう思いますか」

教授はリモコンの『停止』ボタンを押した。


学生らはきょとんとしていた。


黒縁眼鏡の男子学生が手を上げた。

「バットを使うのは卑怯だと思います」


学生らは頷く。


「そんなの分かりません。

このVTRだとそれまでの経緯が全く分かりません。

もっと酷いことさせてたかもしれないし」

長い黒髪の女学生が反論した。


「でも、男に喧嘩にバットを使うのルール違反です。

バットで頭を殴るなんて」

体格の良い男子学生は野球少年だった。


「いや、命の危機を感じたら、正当防衛です」

痩せた男子学生が言った。


「後ろから殴ったら、完全に過剰防衛だ」

黒縁眼鏡の学生が言った。


「これだけじゃ、分かりまえん」

女学生が言った。


教授が見せたVTRは、この喧嘩らしき最後のシーンだけだった。

彼らはゼミ室で教授が出すテーマを議論していた。




教授は一つ頷いた。

「それでは、次にこの二人が喧嘩したとします。

どういうことになると思いますか」



「目には目をです」

痩せた男子学生が言った。


「アラブっぽいな。

日本人なら倍返しだろう。

バットで4発は殴りますよ、僕なら」

黒縁眼鏡の男子学生が言った。


女子学生は顔をしかめる。

「さっき、過剰防衛っていったじゃない」


「やると決めたなら、借りを返す」

黒縁眼鏡の男子学生が言った。


「バットはやっぱりダメだよ」

野球少年は悲しい顔をした。



「みんな優しいですね」

教授は微笑んだ。

「自然とやられた側の人の立場に立っています。

それだけでも、相手をバットで殴らないと分かります。

でも。

もし、やった側に立って考えてみたらどう思いますか」


「酷い復讐があると警戒します」

女学生が答えた。


「世間じゃ、よくリベンジっていい意味で使うけど、

結局、復讐だからね。リベンジって言葉に違和感がある」

黒縁眼鏡の男子学生が呟いた。


「復讐に備えます。

相手はバットを使ってくるかもしれないと思って、

何か武器を急いで探します」

痩せた男が言った。


「バットは絶対ダメだよ」

野球少年だった学生が言った。



「そうですね。

相手の復讐を恐れて、もっと強力な武器を使うかもしれません。

だから、日本はアメリカと2度と戦争をしてはいけないのです」



このゼミは世界の政治と外交をテーマとしていた。


「もし、日本とアメリカが戦争したら、

アメリカは核兵器の使用を恐れて、

先制核攻撃を行うと推測できます」

教授は学生らを見渡した。


野球少年だった学生が手を上げた。

「先生、日本には核兵器はありません」


「核兵器はないが、核燃料がある。

アメリカはそれを核兵器に転用すると言い出すに決まってる」

黒縁眼鏡の男子学生が答えた。



「そうなれば、放射能に汚染され、世界の終わりです。

だから、日本はポチと呼ばれても、アメリカとの同盟関係を維持するべきです」

教授は力強く言った。

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