一日目
群山高等学校-
僕の通う高校だ。
今日は始業式。
記憶喪失になってからはじめて学校へ通う。
二年一組の教室の自分の席に座る。
同級生と思われる人が話しかけてきた。
「おいお前記憶喪失したんだってな。 俺の名前わかるか?」
(見知らぬ人にはついていくなと教わった。 無視しておこう。)
「おいおい忘れちまったのかよ。 ってことは俺と一緒に夏休み前にやったア○パンマンごっこの思い出も忘れちまったのかよ。」
(なんだよそれ。 僕はそんな遊びを高校生にもなって、やっていたのか。 思い出したくもないよ。)
♪キーンコーンカンコーン ラジオ体操第一
(えっ! チャイムが鳴ったかと思えばラジオ体操が始まったぞ。)
♪まずは伸びの運動 でもめんどくさいから今日の体操終わり
(えっ! やらないのかよ。 というかこのチャイム何だったんだ。)
男が教室に入ってきた
「はいみなさんお久しぶり。 先生の名前覚えているかな? じゃあそこのお前答えろ。」
指名された生徒が立ち上がって答える。
「なんでしたっけ?」
「じゃあそこのお前答えろ。」
またもや指名された生徒が答える。
「なんでしょうね。」
(こいつら先生の名前を憶えてないのかよ。 僕みたいに記憶喪失したならともかく。)
「正解だ。 先生の名前は南<なん>だ。」
(先生の名前<なん>っていうのかよ。)
「じゃあ宿題を集める。 みんな持ってきたか。」
宿題が集められる。
「はいはい全員出したね。 チェック面倒だからもう返すね。」
先生がそう言うや否や生徒たちが喜ぶ。
「俺宿題何にもやってなかったのにやった扱いになったぜ。」
「俺も俺も。」
(このクラスの僕以外の生徒が一人残さずそのことを喜んでるぞ。 お前ら宿題やれよ。)
先生が咳払いをしてこう言った。
「じゃあ始業式やるから体育館にこいよ。」
体育館で始業式が行われた。
校長の話が始まった。
校長が礼をした。
その時校長の鬘がずれ落ちた。
みんなは笑いをこらえていた。
「えぇ朝に強い光を浴びると体内時計がリセットされるといいますが・・・」
天井の強い照明を受けて校長の頭が輝いている。
反射した光がもろに生徒にあたる。
周りの生徒は一斉に噴き出した。
(挨拶のはじめがそれかよ。 というか鬘外れてるぞ。)
それからしばらく校長の話が続いた。
1時間は経った。
校長の頭で反射された強い光によってリセットされた体内時計によると1時間17分33秒が経った。
校長はまだ話を続けている。
「前置きが長くなりました。では本題に移ります。」
(まだ前置きなのかよ。)
「ですが先ほど私の父が危篤になったという知らせを受けました。
なので続きはwebで。」
(お父さん大丈夫かよ。 というか「続きはwebで。」ってなんだよ。
始業式のあいさつをwebにのせるのかよ。)
校長は慌てて体育館を飛び出していった。
教頭が代わりにマイクを取りこう言った。
「では次は校歌斉唱です。」
教頭が指揮棒を取り出して指揮をしだした。
ピアノが鳴り響く。
生徒たちが歌う。
記憶喪失といっても「知識」は覚えているので校歌は覚えているはずだった。
なのにどうしても思い出せない。
「残酷な悪魔のゼーテ。少年よ大志を抱け。」
(あの曲のパクリだしクラークの名言がさらっと入ってるぞ。
校歌で「悪魔」とかアリなのかよ。 忘れててよかった。)
校歌斉唱が終わった。
教頭がこう言った。
「私から少しお話をさせていただきます。校長先生の話が長かったのでその分私は簡潔に話します。」
そういって教頭はマイクを置き右手の拳を天に突きだして、
「来た。見た。勝った。」
と叫んだ。
「今の言葉は私が徹夜で考えたあなた方への簡潔なお話です。以上です。」
(ローマ時代の偉人の名言じゃないか。 パクリじゃん。)
「じゃあ各自教室に帰りなさい。」
教室に戻った。
先生がこう言った。
「高橋は知っての通り記憶喪失になった。 皆高橋に自己紹介をしよう。 じゃあ出席番号1番のお前から行け。」
生徒が立ち上がって話し始めた。
「相川です。以上です。」
生徒が順番に自己紹介をしていった。
「相沢です。」
「相島です。」
「青井です。」
「青木です。」
「青田です。」
よぼよぼの老人が立ち上がった。
「青野です。 80年間留年しました。」
侍のコスプレをした生徒が立ち上がった。
「拙者は青葉と申す。」
体中包帯だらけの生徒が立ち上がった。
「青森です。 産まれたときからいつもどこかを怪我しています。」
おしゃれな服装をした生徒が立ち上がった。
「ウチは青柳だよ。 高橋ウチを忘れるとかやばくね。」
(確かにそうだ。 こんな個性的な人を忘れるとか記憶喪失かよ。 あ記憶喪失だった。)
リーゼントの生徒が立ち上がった。
「俺は青山だ。 お前俺を忘れるとか後でボコボコだぞ。」
両手に包帯をした生徒が立ち上がった。
「僕は赤木だ。 でもこれは仮の名前だ。 僕の本当の名前は漆黒の騎士だ。」
それからしばらく特徴が特にない生徒が続いた。
「明石です。 体重は100キロ超えてます。」
(こいつでも、もはや驚かなくなってきた。)
「秋田です。 甲子園で好成績を残して卒業したらプロの球団に入ることになってます。」
「秋月です。 モデルやってます。」
「秋山だ。 相棒よ。 俺を忘れてしまったとはつらいぜ。」
(さっき話しかけてきたあいつ秋山っていうのか。
甲子園球児やモデルの後にさらっと凡人が来たな。)
秋山は続けた。
「アメリカの政府の高官の娘と付き合ってます。」
(なにそれ! すごい人と付き合ってるな。 どこで知り合ったんだよ。)
「秋吉です。 性転換が夢です。」
「曙アレクサンドロスです。」
「浅井です。 キリステ教の教祖です。」
「浅川です。 政府のサイトにハッキングしてしばらく捕まってました。」
「朝倉です。 宇宙人に会いました。」
しばらく続いて最後の人になった。
「安藤です。 4組の淡路君と付き合ってます。」
(このクラス僕以外全員「あ」かよ。 「あ」がもう一人いるなら僕外して「あ」だけのクラス作れよ。)
安藤が続けた。
「このクラスにはもう一匹仲間がいます。」
そう言って教室の後ろの水槽を指さした。
「亀のアアアアアです。」
(亀まで「あ」かよ。 アアアアアってRPGで名前つけるのが面倒なときにつける名前じゃん。)
先生が言った。
「みんなお疲れ様。 高橋まぁ覚えろよ。」
(忘れるわけない。 このクラス個性的すぎだろ。 個性がない人がかわいそうだ。)
色々としていたらチャイムが鳴った。
キンコーンカンコーン
秋山が寄ってきた。
「お前が前行ってた部活覚えてるか?」
(そういえば僕は何部だったんだ。)
「伝票差し同好会だったよな。」
(なにその同好会。 伝票差しで同好会作れれるの?)
秋山はその部室へと案内してくれた。
いっそのことほかのクラブに転部したかったが秋山が強引に引っ張って行った。
秋山は言った。
「その同好会はな。 学校の横に部室があるんだ。 案内してやるよ。」
部室についた・・・らしい。
案内されたのはどうみてもホテルだ。
しかもめちゃくちゃ高級そうだ。
「中入るぞ。」
中は豪華な造りだった。
シャンデリアに大理石の床。
「いらっしゃいませ。 会員ナンバー9999番高橋様。 部屋までご案内いたします。」
受付嬢がそういって案内してくれた。
秋山は帰って行った。
「じゃあがんばれよ。 俺はスプーン研究会にいるからなんか困ったことあったら聞きに来いよ。」
(スプーン研究会まであるのかよ。)
部屋まで案内された。
中には大勢の人がいた。
一人近づいてくる人がいた。
「おお高橋。 記憶喪失になったんだってな。 同好会のこと教えなおしてやるよ。」
その人はいろいろと説明してくれた。
まずその人が部長であること
この同好会は総計で10000人以上の同好会で歴史は100年に及ぶという。
10000人目の会員にはアーバード大学に行ける権利やミクロネシアの国の大統領になれる権利がもらえるそうだ。
(なんだよ。 そのおかしすぎる特典。 あと一個後ろだったらその権利貰えたのか。)
ひとり間抜けそうな顔をした人が近づいてきた。
クラスメイトの有田だ。
「会員ナンバー10000番の有田です。」
(こいつか! あのすごい特典もらえた奴。)
部長が有田に話しかけた。
「1+1は?」
有田が答えた。
「3」
めちゃくちゃ誇らしげな顔で。
(こんな奴がアーバード大学に行けて大統領にもなれるのかよ。)
その日は同好会について教えてもらうだけで終わった。
学校が終わり家に帰った。
今日は大変だった。
これから大変な毎日になるだろう。
そう思いながら宿題のラジオ体操をやった。
(どんだけこの学校ラジオ体操を推すんだよ。)