家
「りんご飴~♪りんご飴~♪」
隣の花穏は尻尾を大きく左右に揺らしつつ、嬉しそうにりんご飴を食べていた。
「花穏はりんご飴好きだな。」
祭りに行くたびによく買ってあげたものだ。
・・・もちろん今日も。おかげで財布は空に近い。
「幸っ!」
花穏は立ち止まり、こちらを振り返る。
「ん?どうした?」
「そ、その・・・今日はありがとう・・・。」
満面の笑みでそう言う。
「あ、ああ。」
花穏に素直にお礼を言われるのはどうも慣れない。
「わ、私はこれから仕事があるから・・・またね!」
そう言い捨て、尻尾を振りながら走り去っていった。
「忙しそうだな・・・。」
取り残された俺は、残りの資料でも読もうかと屋敷を目指す。
どんっ。
「おっと、すみません。」
通行人とぶつかってしまい、慌てて倒れた相手に手を貸す。
「ありがとうございます。こちらこそすみませ・・・、幸さん?」
「夢さん!」
ぶつかってしまったのは夢さんだった。
「どうして・・・。このタイミングで・・・・。」
途端に泣きそうな顔になった。
「え!ど、どこか痛かったですか!?」
ケガをさせてしまったのかと思い、焦る。
「だ、大丈夫です。何でもないです。すみませんでした、失礼しますっ!」
そう言い捨て走り去ってしまった。
「夢さん!」
後を追いかけようにも夕方になることもあり、増えた群衆に押され見失ってしまった。
「夢さん・・・。」
仕方なく、屋敷へ帰るのだった。
✲
夢は一人家を目指して走る。
「なんで、どうして・・・。」
泣いてしまった。裏切ったのは自分のほうなのに。
涙は次々溢れてくる。
「どうして・・・。」
―――夢は走る。家を、ワヨウノクニを目指して。