主人公のよくある始まり方
壁は縦にも横にも大きなステンドグラスに囲まれて、今日も教会では暖かな陽射しが室内を満たしている。
眠い、眠すぎる……。
「……それではこれで授業を終わりにする。起立!礼!」
「「「ありがとうございました」」」
ああ、平和な時間が終わった。この次に待つのは、お昼休み。
と、いうことで…走れ!
「またか〜?幸。」
「おう、じゃあな。」
「頑張れよ〜。」
安全な友人が正直言って羨ましい。なぜなら……
「見つけたっ♪」
「げっ、花穏。」
俺は幼なじみにストーカーされているのだ。白のワイシャツにクリーム色のジャケット、赤チェックのスカート、そしてお揃いの制帽、ボブにしている花穏に、ベレー帽のようなそれはとても似合っている。さらに、極めつけは白ニーハイ。花穏のふっくらした太ももの白さが、それによって際立っている。
「今日のお弁当は玉子焼き入れといたよ♪早く一緒に食べよっ♪」
「今日は用事があるんだよ…。またな!」
そう言って逃走を開始する。もちろん、全速力。これでも一応、この学校で一番足が速いのだ。
「ねえねえ、何の用事なの♪」
「お前なんで併走できるんだよ!俺全力だしてるはずだぞ」
しかも息乱れてないし!怖い怖い何この子。
「それはね〜♪……止まってくれないならお仕置きかな」
「すみません、逃げないので許してください」
停止からの土下座。この間1秒。
ああ……、平和な日常が欲しい……。
天気がいいので中庭で食べることになり、俺と花穏は、満開の桜の木の下のベンチに並んで座る。お弁当は毎日のように花穏が作ってくれるので困らないが……。
「はい、あーん♡」
口をあけて食べる。2階や3階の教室の窓から今日も視線が痛い。この後は最悪なことに体育だ。
「どこ見てるの?幸。よそ見しちゃダメだよ?」
「はい……」
笑みが怖い、視線が痛い。誰か助けてくれ。
地獄の体育が終わり、放課後になる。花穏は部活があるので、俺はやっと開放される。ついでに俺は帰宅部だ。
「あー。今日はどうすっかな……」
校舎をぶらぶらする。帰りたいが、帰れば俺は確実に殺られる。帰りも一緒に帰らなければならないのだ。それで帰宅部の俺は必然的に暇になる。
「ん?」
グラウンドではサッカー、野球等の見慣れた部活が活動中で、そんなグラウンドの端の方、女生徒が一人で何かしているようだ。彼女の髪は夕日の加減で、元は金なのだろう、茜色に輝いていた。
「何してるんだ?」
つい、その色に誘われて、後ろ姿に声をかける。
「っ!あ、あの……えっと、花のお世話ですっ」
どうやら驚かせてしまったようだが、おどおどしながらもこちらを振り返ってくれた。タレ目が可愛く小動物のような女子だった。はっきり言おう。可愛い!
「すまん、驚かせたか……。俺は1年の竹田 幸。君は……?」
「あ……。あなたが……。えっと、3年の花園乃 夢です……。これからよろしくお願い致します」
「あ……。はい、よろしくお願いします。夢先輩」
やっちゃったー。どうやら先輩だったようだ。
ん?待てよ?これからよろしく?挨拶にしては……
「では、早速行きましょう」
「えっ?」
夢先輩に手を掴まれると、ぐにゃり、突然周りの景色が歪む。
事態を理解できないまま、俺は意識を手放した。